政治・経済

 今後はクロスボーダーのM&Aの拡大が予想される。そんな中で注目を集めているのが、西武ホールディングス(西武HD)の再上場をめぐる経営陣と筆頭株主である米サーベラスグループとの対立だ。一見すると、よくある経営陣と筆頭株主との対立と言えなくはない。しかし、西武グループの主力事業は西武鉄道という公共インフラ事業であり、またサーベラスは「ハゲタカ」と揶揄される外資系ファンド。一部路線の廃止や埼玉西武ライオンズ球団の売却が俎上に挙がっていることから、沿線住人をはじめ多くのステークホルダーを巻き込んだ騒動に発展している。本稿では、西武HD再上場をめぐる問題について考える。

後藤高志(西武ホールディングス社長) 「経営支配を強めようとするサーベラスの動きに断固反対する」

後藤高志(西武ホールディングス社長)
「経営支配を強めようとするサーベラスの動きに断固反対する」

西部HD 早期の再上場を目指して

 西武鉄道は2004年、有価証券報告書の虚偽記載が問題となり、上場廃止となった。その後の再編により、05年に西武グループは持ち株会社制に移行。西武HDの傘下にプリンスホテルや西武鉄道などが置かれる体制となり、みずほコーポレート銀行副頭取だった後藤高志氏が西武HDの社長に就任した。

 西武HDはスタート時に総額1600億円の資本増強を実施。この時、1千億円をサーベラスが出資し、サーベラスは32・44%を保有する筆頭株主となった。その後は、「早期に良い形での上場」を目指し、西武HD経営陣とサーベラスは二人三脚で経営改革を実行。峻別と集中を進め、04年度に1兆3500億円あった有利子負債残高は12年度第2四半期に8242億円まで減少し、着実に経営改善の成果を挙げていた。

 しかし、上場廃止から現在まで、SOX法導入により会計基準を見直したことや、リーマンショックおよび東日本大震災により景気が後退したことで、気運が高まりつつも上場に踏み切れない状態が続いていた。

 ところがサーベラス側の事情で事態は急転する。サーベラスは、米クライスラーへの投資失敗や、欧州経済危機の影響を受けたことから、投資の出口戦略の見直しを迫られた。上場できる投資案件はなるべく上場を急がせる方針を打ち出し、西武HDもその対象となった。

 11年6月にサーベラス側は12年中の上場を要求。西武HD側では14年3月期頃の上場が現実的だと考えていたが、早期の上場は悲願でもあり、「筆頭株主の意向なら」ということで上場の準備を開始し、12年5月に東証へ上場の仮申請を行った。

 ここで2つの問題が浮上する。1つは西武HDとサーベラスとの間の資本業務提携だ。もともとは1千億円の出資時に、より緊密な連携で経営改革を実行するために結んだもの。しかし東証への上場では、特定株主との特別な関係は上場申請前に解消されていることが原則。このため、12年5月に西武HDは提携解消を申し入れた。

 しかしこれにサーベラス側は難色を示し、情報提供など新たな権利を要求。提携解消の遅れから、西武HDは上場の正式申請を延期せざるを得なかった。資本業務提携には最終的に西武HD側の意向で破棄できる条項が含まれていたため、10月に西武HD側から提携を解消。これを受けて、上場の正式申請が受理されたという。この提携解消について、サーベラス側は「西武HDから突然一方的に関係を遮断された」(サーベラス シニアマネージングディレクターのルイス・ジェイ・フォスター氏)と憤るが、西武HDにとってはサーベラスの意向で進めた上場に必要な要件を満たしたにすぎない。

 もう1つは株価の試算の問題がある。12年4月にサーベラス側が独自で投資銀行を集め、西武再上場時の株価を試算。さらに西武HD側で仮申請まで進んだ段階の10月に同じ投資銀行に再度、株価を試算させた。この10月の試算結果が4月の結果を大きく下回り、サーベラス側にとっては不満だったという。

 業界関係者は語る。

「投資銀行にとっては、4月の時点ではサーベラス側に多少いい顔をするために甘めに算定したかもしれない。しかし仮申請まで進んだ10月の時点ではシビアに算定せざるを得ない」

ルイス・ジェイ・フォスター(サーベラス シニアマネージングディレクター) 「西武ホールディングスのガバナンスに問題あり」

ルイス・ジェイ・フォスター(サーベラス シニアマネージングディレクター)
「西武ホールディングスのガバナンスに問題あり」

サーベラスが経営の実効支配を狙う

 サーベラスは、西武HDが筆頭株主との関係を途絶し、なおかつ株価の試算が低いのは、ガバナンスに問題があるからだと判断。10月12日付で、サーベラス・キャピタル・マネジメントCEOのステファン・ファインバーグ氏から、西武HDの後藤社長宛に、47項目の「改善策」を盛り込んだレターを送付した。

 そこには「不採算路線」として西武多摩川線、西武山口線、西武国分寺線、西武多摩湖線、西武秩父線の5路線が列挙されていた。さらに埼玉西武ライオンズ球団を売却の選択肢に含めることも記された。そのほかに駅員の削減や、ホテル・レジャー事業のサービス料金の値上げ、未着手のJR品川駅周辺の開発事業の公表など、西武側が受け入れがたい施策が挙げられていた。

 さらに13年1月11日付で再びファインバーグCEOより後藤社長宛にレターが届き、10月のレターの要求の徹底を要請した。西武HD側は路線廃止や球団売却などの要求は、中長期的な企業価値を棄損する恐れがあるとして、反対の姿勢を見せた。

 これを受けて、サーベラスは西武HDのガバナンス強化の名目で、3月12日に株式公開買い付(TOB)の実施を発表。当初は持ち株比率を36・44%まで引き上げ、五味廣文・元金融庁長官や生田正治・元日本郵政公社総裁など取締役3人の追加を求めた。その後、要求を拡大し、TOBの実施期間を5月17日まで延長し、持ち株比率を44・67%へ引き上げることを発表。さらに株主提案権を行使して、取締役8人の追加を要求するとした。追加の取締役にはダン・クエール元米副大統領が含まれている。サーベラス側は経営権を握る意図はないと主張しているが、西武HD側はこれらを経営の実効支配を強める動きとして警戒を強めた。後藤社長も「サーベラスの動きにはいっそう強く反対していきたい」と発言している。

 サーベラス側は「西武HDのガバナンスに問題がある」(フォスター氏)と主張するが、西武HD側にとっては、上場直前まで経営状況を回復させ、特定株主の「不当な要求」を拒否している現在の状況こそガバナンスが効いていることになる。

世論は西武HDに味方し、サーベラスに反感か?

 TOBの期日は本稿締切後であり、入稿時にTOBの情勢は明らかになっていない。西武HDの株は上場廃止以降、「塩漬け」になっていた株だ。法人株主は西武HD側を支持しているようだが、8年間売り先のなかった株を抱えた個人株主がサーベラスに賛同してもおかしくないと西武HD側は危機感を募らせる。

 一方で、サーベラス側に対して不信感が高まっているのも確かだ。象徴的な出来事として、取締役候補に挙がっていた生田氏が「情勢の変化が見られ、さまざまな人間関係に配慮する」として候補者を辞退した。

 47項目の要求の内容が明らかになって以降、沿線住民をはじめ、サーベラスに否定的な見方が強くなっている。こうした動きを受けて、サーベラス側は、「路線廃止や球団売却は要求ではなく、提案の1つにすぎない」と主張している。しかし西武HD側は「CEOのレター」の重みを重視。要求がいまだ撤回された事実はないとの見方だ。また上田清司・埼玉県知事をはじめ政治家や沿線自治体は、公共インフラが外資の傘下に入ることへの危機感を募らせている。

 西武HDとしても筆頭株主との交渉ができなれば、上場手続きが先に進まない。双方とも事態改善に向けて「話し合いの場を持ちたい」としているが、6月の株主総会まで膠着状態が続く可能性は高い。

 そもそも自らの都合で上場を急かしておいて、正式申請の段階になって、また自らの都合で掛かった梯子を外そうとしていることが、今回の騒動の原因だ。東証の上場条件が資本提携関係の解消でありながら、筆頭株主の権利を声高に主張するのはいかがなものか。株価算定についても、自らの懐事情から、実際の価値以上の株価を求めている。株価を上げるための47項目の要求なのだろうが、これらの施策で株価が上がるとは思えず、逆にその内容がステークホルダーの反感を買っている。

 交渉を長引かせて上場を遅らせることはサーベラスのためにもならない。この先の消費増税で景気が低迷すると、再び上場を躊躇う状況になりかねない。その意味では株式市場が活況の今は上場のタイミングとしては絶好機だ。

 投資してリターンを得ることを生業とするファンドとしては、さまざまな情勢の判断が甘く、下手を打っている印象を受ける。サーベラスの「失策」と言ってよいだろう。サーベラス側が妥協して、失策のツケは自ら払うしかないのではないか。

 

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