政治・経済

 仏アルストムのエネルギー部門買収をめぐり、米ゼネラル・エレクトリック(GE)と独シーメンス―三菱重工業による連合軍が激突した。結果的にGEが勝利したが、同社に対抗すべく、重電業界に国際再編機運が高まっている。

アルストムとGE提携で三菱、日立の経営統合話が再燃か

 6月16日、三菱重工の宮永俊一社長は「アルストムとタービン事業で提携することにより、日・仏連合で圧倒的な技術力を保有し、拡大する新興国での需要に応えていく」と買収合戦に名乗りを上げた。1カ月前には「われわれが参戦できる規模の話ではない。フランス政府から求められる雇用維持も重い」(三菱重工幹部)と否定的だったが、宮永社長は旧知の仲であるシーメンスのジョー・ケイザー社長兼CEOの誘いに乗った。

宮永俊一

シーメンスと協力しGEに対抗した宮永俊一・三菱重工社長(左/Photo:EPA=時事)

 GEの当初提案はエネルギー部門の完全買収だ。その額1・7兆円。売上高3兆円規模の三菱重工が及び腰になるのも無理はない。それでも参戦したのは、GEの独走を阻止し、フランス政府と太いパイプをつくれると踏んだからだ。

 筆頭株主としてアルストムに強い影響力を残したいフランス政府とも思惑が一致し、結果としてGEは提案内容の大幅譲歩を迫られ、合弁形態といういかにも中途半端な資本・業務提携に落ち着かざるを得なくなった。「GEがわれわれのことを大嫌いになったのは間違いない」(三菱重工幹部)。

 GEとアルストムが提携効果を最大化するには時間がかかる。ただ、世界一の大型ガスタービンを持ち、アフリカなど未開市場に強力な販路を持つアルストムの提携がはまれば驚異になるのは間違いない。GEの時価総額は26兆円。対する三菱重工は2・1兆円、日立製作所は3・6兆円、東芝は1・9兆円だ。「日の丸重電のメガ再編に向けて2〜3年の猶予をもらったにすぎない」とある政府関係者は語る。

 再編絵図はいくつかある。三菱重工と日立製作所は主力の火力発電システム事業を統合しており、経営統合交渉が再燃しても不思議ではない。ある経済誌のインタビューで日立の中西宏明CEOは、三菱重工との統合に前向きな発言をしている。三菱重工の宮永社長も再編論者だ。まずは鉄道、風力、産業機器、原発など個別事業でシナジーを模索し、早ければ今年度内にも発表する可能性はある。

 三菱重工と三菱電機という「スリーダイヤ」同士の提携観測も浮上する。三菱電機は今年、国内で使用していた青色の「MITSUBISHI」を変更し、30年ぶりに赤色の「スリーダイヤ」のブランドロゴを復活させた。スリーダイヤは三菱グループの求心力の象徴だが、コンシューマー製品では強くない。それでもロゴを統一したのはグローバル展開を加速するためだという。

 言うまでもなく三菱電機は三菱重工から枝分かれした会社。かつてのように三菱重工依存度は高くないが、大型発電プラントに組み込む発電機をはじめ、ビジネス・技術のつながりは深い。客先がだぶるケースも多々ある。

 製品開発では新興国の追い上げが激しく、複数製品を組み合わせたソリューション提案が差別化のカギ。さらに言えば三菱電機のPLC(電力線を通信回線として利用する技術)やICT(情報通信技術)を三菱重工のガスタービンや航空機、産業機器などに内蔵すればGEが得意とするような予防保全技術、すなわちインダストリアルインターネットに対抗できる。海外販路を相互利用することも極めて有効だ。

三菱重工がアルストムのビッグディール参画で得た買収以上の価値

 ただ、日立、三菱電機どちらのケースでも、全社統合となるとディスシナジーが顕在化する可能性もある。そもそも1社単独でも社内の経営資源を生かし切れず、コングロマリットディスカウントに陥っていた反省もある。全社統合で主導権争いに明け暮れれば、逆に足元をすくわれかねない。

 理想は個別事業の提携により、世界首位の事業をいくつもつくっていくことだ。水力発電システムの販売・エンジニアリングなどを手掛ける日立三菱水力の出資比率は日立50%、三菱電機30%、三菱重工20%。火力発電システム事業の三菱日立パワーシステムズ(MHPS)の出資比率は三菱重工65%、日立35%。運転席(社長)に座る企業がはっきりしていれば再編後のリストラは進めやすい。

 今後、重電業界で立ち位置が微妙になるのが東芝だ。火力発電でGEと、スマートグリッドでアルストムとそれぞれ手を組んでいるが、日本以外の市場でGEが東芝を使う必然性はなく、蒸気タービン中心の火力発電事業の視界は曇る。原発事業を含め、戦略を再構築する必要がありそうだ。

 ただ、東芝にはNAND型フラッシュメモリを中核とする半導体事業がある。国も東芝を軸とする日の丸半導体構想を捨ててはいない。大量の人員削減で身軽になりつつあるルネサス エレクトロニクスを吸収する公算は大きい。

 いずれにせよ、各社とも生き残り、そして成長するための事業ポートフォリオ再編は相当なスピード感が必要。GEはアルストムの買収合戦を制する過程、わずかな期間で鉄道機器事業を放出する決断を下した。シーメンスも同様に、主力の鉄道事業をアルストムに渡しても良いとのスタンスを示した。こうしたビッグディールに参画し、世界の巨人のディシジョンを目の当たりにすることで、三菱重工は名を売り、そして買収以上の価値を得たのかもしれない。

(文=ジャーナリスト/風間康夫)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

永濱利廣

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

[連載] 深読み経済ニュース解説

日銀による追加緩和決定の影響は!?

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る