テクノロジー

 ソニーのPC事業が「VAIO株式会社」として再出発した。ソニー時代から組織が大幅に縮小した上で、PCという成熟市場でいかに戦っていくのか。関取高行社長は、経営理念として「本質+α」を掲げ、道具としてのPCの本質を追求する。

 

VAIOは道具としての本質を追求

 

 ソニーは今年2月に日本産業パートナーズへPC事業の譲渡を発表したが、切り離されたPC事業が7月1日、「VAIO株式会社」としてスタートした。

新生VAIOの船出

新生VAIOの船出。左から赤羽良介副社長、関取高行社長、花里隆志執行役員

 ソニー時代のVAIO事業は1100人を超える陣容だったが、新生VAIOは240人でのスタートとなる。ソニーがこれまでVAIO事業の拠点としてきた長野県安曇野市のソニーイーエムシーエス長野テクノロジーサイト内に本社を構え、経営・開発・製造一体で運営する。

 設立会見で関取高行社長が強調したのが「本質」という言葉だ。新生VAIOはPCという成熟市場で戦っていくことになるが、そこで生き残る価値が「本質」だという。

 これまでPCで行っていたウェブの閲覧やメールのやりとりなどは、スマートフォンやタブレットで日常的に行うことが多くなった。それでも「PCはなくならない」と関取社長は語る。スマホやタブレットが普及しても、PCでなければできない用途は残る。PCは成熟期に入ったが、成熟製品だからこそ、PCは道具としての真価が問われているという。

 そこでVAIO発足に当たり関取社長が考えたのが、「PCの本質の追求」であり、新会社の哲学として掲げた「本質+α」だ。具体的には「本質を追求する」「制約にしばられない」「VAIOのDNAを継承する」の3つ。

 本質の追求については、安曇野の技術と精神を土台に本当に必要な性能と機能を持った製品を作る。これまではソニーグループの製品であったために搭載せざるを得なかったエンターテインメント系の機能があったという。今後のVAIOでは、そういった機能を精査してそぎ落としていく。新生VAIOとしてまず2機種3製品を発売したが、ソニー時代に実績のあったノートPC「VAIO Pro」(11・6型、13・3型)と「VAIO Fit」(15・5型)から機能を厳選し変更した製品となっている。

 また、モノづくりの本質を追求する決意の表れとして、「安曇野FINISH」という言葉を掲げる。製造に当たってはODMも活用するが、ODMを含めたすべてのモデルを最終的には安曇野工場で仕上げを行い完成させ、品質チェックを行う。

 制約に縛られないことに関しては、240人の小さなメーカーだからこそ、しがらみや思い込み、固定観念に左右されないという。その1つが安曇野での設計、製造一体のモノづくりだ。最初の商品企画の段階から、設計、製造、品質保証、企画、営業を含めた全メンバーが参加する。みなで話して擦り合わせた高度なモノづくりが可能になるため、これを強みとしていく。

 VAIOのDNAの継承については、人の気持ちに突き刺さる一点突破の発想、VAIOならではの審美眼に根ざしたモノづくりを重視する。

 「本質を突き詰めたPC、加えて一点突破の発想と審美眼を併せ持つPC。それが愛着を持って永く使ってもらえるVAIOだ」と関取社長は語る。

 

VAIOの価値を理解する層にリーチ

 

 新生VAIOは、240人という規模で足元を見つつ、当面は狭い領域で勝負することになる。その際に拠り所となるのが、VAIOファンの存在だ。

 7月1日午後3時からの設立会見は、インターネット中継されたが、アクセスが集中し過ぎて、サーバーが一時ダウンするというトラブルも発生。VAIOへの関心の高さがうかがえた。それだけVAIOファンの存在は大きい。販売戦略もまずは国内市場に限定し、なおかつ販路もソニーマーケティングと販売総代理店契約を締結。VAIOの価値を理解している層に着実にリーチしていくという。

 また、VAIOは一般消費者向け製品のイメージが強いが、今後は法人需要にも注力していく方針。「法人と言っても、最終的に使用するのは個人。BYODが広がる中で、PCの本質の部分で個人に訴求できれば、法人向けも拡大できる」と花里隆志執行役員は抱負を語る。

 まずは現行の2機種でビジネスを軌道に乗せる方針。2015年度の販売目標を30万〜35万台としている。今後の展開は、240人の規模にスリム化した状況でどこまでやれるかだろう。この規模がメリットでもあり、デメリットでもある。もともと日本の電機メーカーは無駄が多いという指摘があるだけに、安曇野一極集中による固定費削減効果は大きい。この規模でやるからには、「必ず利益は出す」と関取社長は意気込む。また小規模であるがゆえに、素早い意思決定が可能で、市場の変化にも柔軟に対応できる。

 一方で、事業規模が小さくなると、製品ロットも少なくなるため、「規模の経済」が働かず部品調達コストが上がり、それは製品価格にも転嫁される。おのずと高価格製品となり、高付加価値製品で勝負することになる。

 それだけに関取社長が何度も強調したように本質の追求が重要になる。早ければ14年度中に新製品を投入するというが、VAIOの浮沈は、本質+αを体現するオリジナル製品にかかっている。

(文=本誌/村田晋一郎)

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