マネジメント

 日本の株主総会が、変わってきている。ほとんどの株主が経営陣の意思決定を黙認する株主総会から、上程議案の内容などが厳しく吟味される本来の姿への移行だ。背景には外国人株主の増加だけでなく、企業が余剰資金を貯め込む状況を変えたい政府の取り組みもある。

株主総会の新しいスタイルと内容の変化

 これまでになくコーポレートガバナンス(企業統治)強化に向けた施策が打ち出される中で開催された今年の株主総会は、社外取締役の導入が相次ぐなど、前向きな変化を感じさせた。

 6月20日に開かれたソフトバンクの株主総会は、孫正義社長の独演会の様相だった。「情報革命の分野で世界を変えてみせる」と意気軒昂に事業展開の先行きを説明。質疑では新しいビジネスプランを売り込みたいという株主に対し、「心意気は立派です」。

 通り一遍の回答で無難にやり過ごそうとする経営者が多い中、株主総会の新しいスタイルを印象づけるのに十分だった。

孫正義社長

ソフトバンクの株主総会は孫正義社長の独演会に

 そして、この総会にビデオメッセージを寄せたのが、日本電産の永守重信社長だ。既にファーストリテイリングの柳井正会長兼社長が社外取締役に名を連ねるソフトバンクは、今回の総会で新たに永守社長の選任案を上程。同社の取締役会には、「カリスマ経営者」を語るときに確実に名が挙がる3人がそろうことになった。

 社外取締役に関しては、改正会社法が6月に成立。施行後の株主総会では、選任していない企業は「置くことが相当でない理由」を株主に説明しなくてはならなくなるため、〝駆け込み〟で導入する企業が増えた。

 今回の株主総会では、新日鉄住金や任天堂、東レなどが新たに選任。顔触れもバラエティーに富み、女性も目立つ。みずほフィナンシャルグループは、元経済財政担当大臣の大田弘子・政策研究大学院大教授を取締役会議長として迎え、コナミでは元女子柔道選手の山口香・日本オリンピック委員会理事が就任している。

 外部の人間を入れたがらなかった日本企業だが、「社外取締役の導入は、もはや当然のことになった」(アナリスト)。政府が閣議決定した「日本再興戦略」改訂2014では、上場企業の行動原則「コーポレートガバナンス・コード」の策定で東京証券取引所を支援する内容が盛り込まれ、「複数選任」を含め、導入を促す動きはさらに強まりそうだ。

 課題もある。ネームバリューのある大田氏らが複数の会社の社外取締役を兼務するなど、特定の人材にオファーが集中。また、日本テレビホールディングスが元財務事務次官の真砂靖氏を迎えるなど大物官僚の起用も目立ち、市場関係者からは「新たな天下り先となっている」との批判も出ている。

 一方の株主側でも、政策による変化があった。

 政府が今年策定した「スチュワードシップ・コード」の策定で、企業の継続的成長に資する機関投資家の行動原則を定めて以降、初めての株主総会シーズンだったからだ。日本的な「物言わぬ」株主の代表とされていたのが、生損保などの機関投資家だ。コードを受け入れるかどうかは建前上、機関投資家にゆだねられているが、公然と当局に逆らうケースがあるとは考えにくく、5月末時点で127機関が導入を決めた。

 このコードが機能すれば、社外取締役を置いていなかったり、置いてもメーンバンクの出身者など「独立性」に疑問符が付く人材を登用したりすることには、議決権行使で厳しく対応するケースが出てくる可能性がある。

 政府がこれらの「コード」で上場企業の監視を強める理由は主に2つある。

 ひとつは、株価に敏感な安倍政権は、外国人投資家が日本企業のコーポレートガバナンスに懸念を持っていることをよく知っており、それを改善する政策が、海外からの投資を呼び込むとみているからだ。

 もうひとつは、法人税の実効税率引き下げ方針を掲げる政府だが、「企業の内部留保を押し上げるだけなら、政策的に失敗とみなされかねない」(関係者)からだ。経営陣の監視を強めることで、企業の雇用増や投資拡大などで、日本経済へ好影響を与えたい思惑がある。

株主に不人気な買収防衛策が株主総会で否決のケースも

 スチュワードシップ・コードの真価が問われるのはこれからだが、今回の総会でも、株主の態度が厳しさを増していることが鮮明になった。

 通常、株主総会の議案は9割以上の賛成で可決されるが、それが50〜60%台でようやく承認されるケースも目立った。海外の機関投資家は、社外取締役を導入していないなどの不満を、その企業の社長の取締役選任案への議決権行使で示す。このため、外国人株主比率の高い企業ほど社外取締役の導入を急ぎ、いない企業のトップ選任案の賛成比率が著しく低くなる傾向がある。

 そして今回、注目を浴びたのはゲームソフト大手カプコンの株主総会で、経営側が提案した買収防衛策の継続議案が否決されたことだ。

 買収防衛策は、株主に評価されない経営陣が、自己保身のために用いる懸念があるため、特に外国人株主に全く不評だ。「海外の機関投資家の多くが、原則反対のスタンス」(市場関係者)だという。

 昨年も、買収防衛策の継続議案の上程を株主総会の直前に撤回する企業があり、市場では「可決が絶望的になったため」と受け止められた。もともとの不人気議案とは言え、株主総会で企業側の議案が否決されることは珍しく、株主総会を取り巻く環境の変化を示す象徴的な出来事と言えそうだ。

 来年以降もこの流れが続くか、注目される。

(文=ジャーナリスト/宇野亮介)

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る