政治・経済

 人材派遣最大手のテンプスタッフを抱えるテンプホールディングスは、各事業ドメインの強化のためにM&Aを積極的に行っている。最近では、技術関連の特定派遣事業強化に向けてパナソニックの設計開発子会社の株式を取得したほか、人材紹介事業強化に向けてインテリジェンスの株式を取得した。インテリジェンス株式取得を中心に、同社のM&A戦略について、水田正道副社長に話を聞いた。

水田正道(テンプホールディングス副社長)

水田正道(テンプホールディングス副社長)

水田正道氏は語る 弱点だった人材紹介ビジネスを補強

―― 今回のインテリジェンスの株式取得の経緯は。

水田 インテリジェンスの株主は米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)でした。われわれにとっての最大の脅威は、インテリジェンスがわれわれ以外と手を組むことでした。もちろん取得に要した510億円は思い切った投資ですし、リスクを考えたらきりがありません。しかし、何もしないことが最大のリスクであり、ご一緒することに大きな価値があるという判断をしました。

―― インテリジェンスと組む目的は。

水田 当社の事業ドメインは、人材派遣、アウトソーシング、人材紹介、再就職支援が中心ですが、人材紹介事業はインテリジェンスには到底かないませんでした。働く人はライフスタイルに合わせて働き方を変化させますので、派遣で働きたい場合もあれば、社員の場合もあります。一方企業も、派遣や紹介など、人材が必要な場合もあれば、委託し業務を任せたいなど、需要はさまざまです。

 それら多様なニーズのすべてを当社グループで提供したいと思っています。そのためには、人材紹介事業やメディア事業など、インテリジェンスが高い優位性を誇る事業が価値を持ちます。インテリジェンスとご一緒することで、われわれが不足していたピースが埋まり、お客さまが望む最良のサービスを提供できる体制が構築されたのです。

―― 統合のシナジーは。

水田 人材紹介と人材派遣は人材を扱っていますが、運用が全く違います。インテリジェンスは人材や情報を収集する強いブランドや運用のノウハウを有しています。一方、当社は全国的に拠点があり、営業力がありますが、インテリジェンスは首都圏が中心です。例えば、インテリジェンスが当社地方オフィスを人材紹介時の手続きなどに必要なインフラとして活用できますし、当社営業社員がインテリジェンスのメディア事業をサービスラインアップの1つとして、顧客に提供することもできます。このようにお互いの強みやインフラを活用し、さらに付加価値を高めてシナジーを発揮していきたいと思っています。

 再就職支援事業については、再就職の手法やカウンセリングなどの就業支援と同時に求人情報も提供しています。そこでもインテリジェンスの紹介事業で収集した求人情報を組み合わせ、仕事に就くための支援と仕事情報の両方が同時にセットで提供できるようになります。このように強みが異なるので高いシナジーが期待できます。

 今後、一緒に実現したいことは、われわれが雇用のプラットフォームとして社会から必要な存在として認めていただくことです。数多くの方にご登録していただくことが、われわれのビジネスの出発点ですが、情報がないところに人は集まりません。そして、その情報量は規模に比例します。いたずらに規模を求めるつもりは全くありませんが、多くの方々のニーズを満たすためには多くの情報、すなわち規模が必要になってきます。そのためにも情報量を集められる強いブランドを持つインテリジェンスと連携することは非常に価値が高いと思います。

雇用の流動化と安定化を両立したいと語る水田正道氏

―― 統合後のオペレーションは。

水田 われわれは自然体がモットーです。グループ会社になったから、すべて一緒にする必要はないと考えています。大事にしたいのは、インテリジェンスやテンプスタッフの社員を含め、グループ社員一人ひとりが今回のM&Aにより、自分の仕事に誇りが持て、モチベーションが向上することです。人材ビジネスの最大の資産は人です。社員一人ひとりの思いやモチベーションを大事にしていくのが「テンプ流」です。そして、同時に相手を尊重し、お互いが理解し合い、共に成長するために切磋琢磨していきたい。

 今後は、インテリジェンスからホールディングスの役員を迎え入れますし、当社からも役員を派遣させていただく方向です。人材面だけでなく、あらゆる面で連携していきますが、基本は、今までの素晴らしいやり方でやっていただきたいと思っています。ですから、社名やブランドの変更は考えていません。

 市場からは、テンプスタッフとインテリジェンスが一緒になることは最適な組み合わせだと高い評価を頂いていますが、一番大事なのは5年後に「やっぱりそうだった」という状態にすることだと思います。

―― 今後の展望は。

水田 これからの日本の雇用は、流動化していきます。雇用の流動化については、各方面で失業者が増えて雇用が安定しないと不安視されています。しかしこの矛盾する雇用の流動化と安定をわれわれが両立させます。それこそが、われわれの社会的意義なのです。

 今後は、1社で長期間働くことでキャリアを形成するのではなく、会社は変わるけれど、複数の企業での就業経験により、多様な経験を積み、キャリアを形成するようになるでしょう。また、働く場所はますますグローバルになります。そのためには、何よりキャリア形成につながる最適な職業紹介や、スキルアップにつながる教育など、求職者と企業をつなぐわれわれのようなマッチング機能が必要になります。われわれが介在することで流動化と安定化が両立できるのです。雇用の流動化と安定化の実現をとおして、社会から必要な存在となり、日本を代表する世界企業を目指したいと考えております。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る