政治・経済

企業間のM&Aでは、交渉時にファイナンス・アドバイザーや弁護士が介在するケースは多い。日本企業のM&A分野で、国際的な評価機関や国内外の企業から高い評価を受けているのがモリソン・フォースターのケン・シーゲル氏だ。最近のM&Aの動向について、同氏に話を聞いた。

 

【ケン・シーゲル】1981年アマースト大学卒業、83年ジョンズ・ホプキンス大学でM.A.を取得、86年シカゴ大学ロースクールでJ.D.を取得。87年にモリソン・フォースターに入所。94年より現職。主にハイテク企業による買収、合弁事業や戦略的提携案件を手掛ける。近年担当した代表的案件は、ソフトバンクによる米スプリントへの投資およびイー・アクセス買収、東芝によるランディス・ギア社の買収など。在日アメリカ商工会議所ハイテク委員会副会長も務める。

【ケン・シーゲル】1981年アマースト大学卒業、83年ジョンズ・ホプキンス大学でM.A.を取得、86年シカゴ大学ロースクールでJ.D.を取得。87年にモリソン・フォースターに入所。94年より現職。主にハイテク企業による買収、合弁事業や戦略的提携案件を手掛ける。近年担当した代表的案件は、ソフトバンクによる米スプリントへの投資およびイー・アクセス買収、東芝によるランディス・ギア社の買収など。在日アメリカ商工会議所ハイテク委員会副会長も務める。

為替動向に関係なく、日本企業による海外M&Aは活発

 

 現在、日本はM&Aに関してブームと言える状況にある。その理由は、近年の為替レートが円高だった影響があるが、一概にそれだけが原因とは言えない。昨年後半の6カ月を見ても、そこまで為替は動いていない。中小企業はともかく、大企業は為替レートによって意思決定が変わることはないと言える。

 大きなM&Aの取引は、通常6~12カ月以上の時間を要する。ソフトバンクのイー・アクセスの買収は比較的早めに終わったが、それは日本国内の案件だったためである。クロスボーダー案件、つまり国境を越えて外国企業を買収する時には、独禁法のレビューや国家安全保障との調整などを、その企業が関連する各国で行うため、膨大な時間を要する。特に中国が関係する買収では、独禁法のチェックなどで1年以上かかるケースがある。取引に長い期間を要する場合には、為替レートは意思決定にはあまり影響しない。

 近年、M&Aが活発な理由の第1として挙げられるのは、日本企業が長期的かつ戦略的視点に則ってインパクトのあるM&Aに取り組んできた結果であるということだ。ここ10年、日本企業の戦略的なM&Aは成功している。このことは大きな変化だ。1990年代は、失敗例がかなり多かったが、最近の日本企業は、M&Aを戦略的にうまく使えるようになってきたと思う。

 第2の理由は、90年代に比べて、日本企業による買収が世界市場で歓迎されるようになってきたことだ。米国企業が他社を買収する目的は主にコストダウンである。米国企業に買収された企業は、マネジメントをはじめ8~9割の社員が会社を去ることが多い。一方、日本企業による買収は、売り上げ規模や事業領域を拡大するための買収であり、買収後の解雇も少ない。より長期的な事業計画を立てたり、より楽な条件で市場に参入することを目標にビジネスを展開するため、コストダウンは必ずしも重視されない。そのため、米国企業にとっても、日本企業に買収されるほうが良いという考え方が出てきている。

 さらに3番目の理由として、東日本大震災以降の日本国内のエネルギーコストの上昇や、国内需要の停滞がある。日本企業にとって海外市場への展開が必要になり、海外企業に対するM&Aが増えている。

 日本企業のM&Aが活発なのは、為替の影響も多少はあるだろうが、以上の3つの理由が大きい。したがって、為替は円安に振れようとしているが、M&Aの拡大傾向は変わらない。

 

海外企業による日本企業の買収も進む

 

 M&Aの地域的な傾向としては、米国市場での動きが活発である。中国や欧州については不確実性が多く、東南アジアについては市場がまだ未成熟なためだ。ただ、日本は政治的な問題があまりないため、日本の商社が東南アジアや南米に進出するケースなどは、それなりにうまく進んでいる。また、資源に関する買収が多く進んでいるのも最近の傾向と言えるだろう。具体的には、日本の商社と外国の鉱産資源を採掘する企業とのM&Aが多い。

 一方、今後の円安の影響で、外国企業が日本企業を買収するインバウンドのM&Aは増えてくる。インバウンドの買い付けサイクルは、最初に不動産から動き出す。まず外国の企業が日本の不動産を買って、それからしばらく時間がたって、日本の企業が買収される。インバウンドのマーケットが動くこのようなビジネスサイクルについて、詳細は分からないが、日本の文化と深いかかわり合いがあると思う。

 日本では、企業や事業をまるごと、あるいは一部を、売ったり買ったりすることに抵抗がある。特に伝統的な会社にはその傾向が強く、そう簡単には動かない。しかし不動産の場合は、物の売り買いのビジネスであるため、不動産会社やアセットが買われることにそれほど抵抗がないのではないかと思う。だから、不動産の買収が動いて、その次に企業の買収が進んでいくのだろう。

 実際に今年、米国のファンドが日本の不動産をかなり積極的に買い始めている。当社の不動産担当部門も、特にこの3カ月は前年比4割増の案件を抱えており、非常に忙しい。この状況を見ると、そのうち企業が買収され始めることが考えられる。

 特に買われる分野としては、電機メーカーが多いだろう。米オン・セミコンダクターによる三洋半導体の買収や米マイクロン・テクノロジー.によるエルピーダメモリの買収が代表例だ。日本の電機メーカーは、不採算ビジネスを切り離そうとしており、これらを買収しようとする外国企業は多いと思う。日本の伝統的な電機メーカーでも、財政的・金銭的に問題がある企業は買われ始めるだろう。

 日本企業が外国企業を買収するアウトバウンドのM&Aはこのまま増加傾向が続き、さらにこれからはインバウンドのM&Aがかなり大きくなる。このため、トータルのM&A市場は、今後も拡大すると思う。

 外資系の弁護士や銀行に関して言えば、東日本大震災の後、海外、特に香港へ出て行ったファーム・企業が多い。しかし、昨年香港の景気が悪かったため、その動きはシンガポールへ移った。シンガポールは市場規模が大きくないため、今後は日本に戻ってくると予想される。東京で、外国の証券会社や弁護士事務所の動きがこれから拡大するのではないか。リーマンショックからアベノミクスが始まるまでの5年間、ビジネス上では東京あるいは日本の国際化はいったん止まった。オリンピックが東京に再び来ることも含めて、国際化の動きが再び始まると思う。 (談)

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