マネジメント

労働政策など、人と組織に関する研究を行うリクルートワークス研究所で所長を務める大久保幸夫氏。多くの人事担当者と接してきた大久保氏は、現在の人手不足には偏りがあるとしながらも、バブル期やリーマンショック前などにはない、人材確保における「深刻さ」があると認める。この問題を経営者はどのように受け止め、対処していくべきかを聞いた。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお) 1983年一橋大学経済学部卒業。同年にリクルート入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年リクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年から2年間、内閣府参与を兼任。11年専門役員就任。12年より人材サービス産業協議会理事を兼任。著書に『マネージャーのための人材育成スキル』『会社を強くする人材育成戦略』(日本経済新聞出版社)など。

大久保幸夫(おおくぼ・ゆきお)
1983年一橋大学経済学部卒業。同年にリクルート入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て、99年リクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年から2年間、内閣府参与を兼任。11年専門役員就任。12年より人材サービス産業協議会理事を兼任。著書に『マネージャーのための人材育成スキル』『会社を強くする人材育成戦略』(日本経済新聞出版社)など。

収益を上げる機会を損失する深刻な事態と語る大久保幸夫氏

-- 厚生労働省が6月に発表した5月の有効求人倍率が1・09倍と、バブル崩壊直後の1992年6月に記録した1・10倍以来の水準でした。企業からも人手が足りないという声が聞こえてきます。

大久保 もちろん、すべての企業が人手不足ということではありません。必要としている人材を確保できていないと答える企業は全体の3割ほどと偏りがあり、人材不足に悩む企業の一部が深刻な状況に陥っているというのが実情です。

-- なぜこのように人手不足に注目が集まる状態に至ったのでしょうか。

大久保 ポイントは2つあります。1つ目は、今までの人手不足の時よりも、パートタイマー不足が特徴的です。年を追うごとにサービス業の比率が高くなり、パートタイマーに依存している業種の比率が高くなっています。そこにおいてパートタイマーが不足している。この状況が、より深刻度を増しています。

 もうひとつは、バブル期やリーマンショック前は、企業が成長を見据えて積極的な事業計画を立て、それに基づき必要な人材を採用していました。現在は先を見据えた人材確保よりも、明日必要な人手の確保ができないということに問題があります。同じような有効求人倍率であっても、今日の状態のほうがより切迫感があり、ダメージも大きいのです。

-- 従業員が足りずに店を開けられない、仕事の受注があっても人手が足りずに受けられないという状況です。

大久保 収益を上げる機会を損失し、会社の経営に対して大きなインパクトを与えています。例えば、建設業も受注が受けられない状況にあります。これは、建設業以外の会社が事業を起こすために新しい拠点を作りたくても叶わないわけですから、建設業以外の業種に影響が及んでいるということです。そういう経済に対してネガティブな影響が出るレベルに達しており、深刻さが現れています。

-- 深刻な状況に陥らないために必要なことはありますか。

大久保 人材マネジメントの問題に対して早い段階で解決へと動けば、多少いろんなやり方があります。同業他社が確保のために手を打つ中で、後手を踏んだところは人材を確保できません。解決できないまま、今ある従業員の労働時間を長くしたことで、仕事の負荷がかかって退職に追い込み、ブラック企業と評されるというような悪循環ができてしまうのです。

 しかし、この状況に陥るまでには、必ず兆候があるはずです。従業員たちが不満を持ち、労働環境が劣悪になり始めているという時に、経営者がそれに向き合い、対策を講じれば、事業に影響を与えない範囲にとどめられると思います。

大久保幸夫氏は語る いかに離職を防ぐかが鍵に

-- 処遇を上げて対策する企業や、非正規雇用の従業員を正社員化する企業も出てきました。

大久保 人手不足の場合、人を採用できないだけでは問題になりませんが、同時に離職率が上がると企業に与えるダメージは大きくなります。せめて離職率だけでも抑えれば乗り越えられる可能性があります。よって、離職に歯止めをかける対策は非常に重要です。

 処遇を上げれば、当面の人材を確保できる場合もありますが、若年層は賃金に対する感度は昔より下がっています。時給を上げようとしても、「時給が高くても休みもなく辛い思いをするぐらいなら、働きたくない」と考える若者が多いのです。だから、実際には時給アップでできることは限られています。

 人員が足りない中で無理して採用を進めると、今いる従業員には「新人に教える」という負担が増えます。その入れ替わりを抑えて、安定させたいという時の秘策が、地域限定社員化です。特にサービス業は繁閑の差が激しく、それを調整する社員に負担がかかりやすい構造があります。そこで、社員化は有効な手立てです。また人気業種の求人も増えるので、もともと人気のない業種からの労働力流出を避ける対策にもなります。

-- 正社員化といった処遇改善だけでなく、業務内容や組織を整理して少人数の人材でより効率良く仕事をすることで改善を図る策も必要です。

大久保 それにはトップを含めた組織のマネジメント力が必要となります。結局、人手不足の問題も突き詰めれば根源的な問題に行き着きます。1つは人材のマネジメントを整えるということ、もう1つは生産性を良くするということなのです。

 人手不足の時は、会社を良くするには一番いい時期です。業績の良い会社は景気が上向きの時に生産性を上げる仕組みを作るほか、処遇の改善、社員にかかる制度の整備、組織改編といった組織強化の工夫に投資しています。この時行った対策が、その後景気が悪くなったとしても非常に良い働きをする場合があります。人手不足の時にとる行動が、企業にとって分かれ道になります。

20140805_Tokushu_2_02y-- 根源的な改善策として挙げられた生産性の改善に、良い手立てはありますか。

大久保 生産性については20年間言われ続けていますが、まだITで解決できるところはあります。サービス業でもフル活用されてないですし、IT化の投資も、この時期には必要ではないでしょうか。

 女性の労働力を活用するというのも、良い方向に転換させる例として代表的なものです。シニア層の労働力活用もありますが、これには工夫が必要になります。例えば60代の人は体力の問題をはじめ、今までどおりの仕事の手順で働くのは厳しいという場合があります。仕事の組み直しや、設備投資が伴うケースがあるのです。外国人労働力を活用する機運がまだ広がっていませんが、活用する余地が残されています。女性やシニア、外国人労働者は長期的に考え、今後の人口減と高齢化を見据えて取り組む必要性があります。短時間勤務を可能にする、シフトを工夫するといったことを行うだけで、活用できる人材の幅が広がります。

大久保幸夫氏が危惧 マネジメント力のない「管理職相当職」

-- これらの労働力を活用するために必要となるマネジメントに関して問題点はありますか。

大久保 女性労働力の活用がうまく行っていない企業に関しては、特にマネジメントができていない場合が多いです。マネジメントを改善するだけで女性が戦力化する例は多くあります。

 日本の場合は管理職が必ずしもマネジメントのスキルを持っていません。いわば、「管理職相当職」という身分を表現しているだけなのです。業務の振り分けや部下のモチベーションを上げること、人事評価などを行うといったマネジメントの基本行動をトレーニングされていない。日本の管理職は、自分で仕事をする傍らにマネジメントしていますが、海外の管理職はマネジメント特化で、マネージャーと労働者とでは階層を分けています。

 こうしたマネジメントスキルの不足が結果的に「女性やシニアの労働力を扱うことが難しい」という話にすり替わってしまう。根本的なところで、日本の組織には欠点があると考えられます。

-- 管理職のマネジメント力を向上させるには。

大久保 まずは人材をうまく生かす人材を作ることが重要です。管理職に対してスキルトレーニングを行うだけでも改善されるはずです。

 先日、国の委員会で、「公務員の組織長には人を育てるという考え方はありません」と言われて驚かされました。つまり、管理職は部下に役割を分担するだけで、仕事を通じて勝手に育つと考えるようです。管理職に対して人を育てなさいというメッセージは強く発信されていない。それで良いはずはないと指摘してきましたが、恐らくそのような考えを持つ業種、企業は各地に根強く存在していると思います。

-- この人手不足時代に、経営者が持つべき姿勢はどのようなものでしょうか。

大久保 人材確保においてその企業に入りたいと思わせる魅力、価値を作ることは簡単にはできません。それは、企業の「山谷」を何度も乗り越えた先に初めて作られるものであり、直接の問題解決には結び付きません。

 経営者としてはまず、当面の人手不足問題に早急に、的確に、率先して対応することが必要です。好景気で営業機会は多いのですから、予算を投入してでも、自社が抱えるマネジメントと生産性の問題に対して解決に乗り出すことが必要でしょう。嵐が過ぎ去るのを待っていても遅いのです。

(聞き手=本誌・長谷川愛 写真=佐々木伸)

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