政治・経済

安倍政権下では無党派層が増加 その影響で減る大物族議員

 「どんどん族議員になってくれ。人から何と言われようと一生懸命働いていくということをはばかることはない」

 自民党の町村信孝元官房長官は5月29日の自らの派閥会合で、特に当選回数の若い議員らに向かってそうゲキを飛ばした。

 「族議員」――。長く続いた自民党の一党支配下では永田町と霞が関を跋扈した。特定分野で専門的知識などを背景に政策実施にかかわる議員のことだ。

 かつては大物族議員が数多くいた。例えば、渡辺美智雄元蔵相は有力大蔵族のひとりだった。予算陳情で、地方から大挙してやってきたお年寄りたちの話を聞いて、「そりゃ可哀想だ」と感じればすぐに手元の電話をとってその場で大蔵官僚に電話する。「おい。気の毒だ。予算つけろ」と一言。電話を受けた担当者が無理だと説明しても「俺の責任だ。やれ」とピシャリ。

 また、厚生族でもあった橋本龍太郎元首相は、紙と鉛筆を渡せば、福祉政策など5分もあればサラサラっと書いてしまうほどの政策通。厚生官僚が福祉政策などをまとめて説明に行っても、問題点を突いて「ダメ出し」。厚生官僚たちは、常に橋本氏に「ビビって」いたのだ。

 「つまりこれは政治主導という側面でもあった。霞が関は族議員を説得できなければ何もできなかった。迫力がありましたね」(旧通産省OB)

イラスト/のり

イラスト/のり

 ところが、「族議員」は同時に怪しさも併せ持つ。

 特定の分野で政策を実現することはその分野の業界団体への利益誘導になり、見返りに票や献金など財政的支援も受ける。省庁や官僚ともつながりが深くなり、その結果、「政官財」の癒着の構図の中心的役割を担う可能性もあるのだ。

 「族議員? 官僚へ睨みを利かす存在でもあるが、一方で癒着や政治とカネの問題なども引き起こす。まあ『必要悪』という表現が適切かもしれない」(自民党派閥領袖)といったところか。

 だが、そんな大物「族議員」も、最近ではすっかり減ってきた。その背景を自民党閣僚経験者が話す。

 「今や選挙で最も多いのが無党派層。特定の団体の族議員として頑張って、票をもらっても大した票にならない。また、中選挙区時代は、当選が複数だから、圧倒的な票を取らなくても3番手や4番手で当選できた。すると票は多くなくてもいいから、族議員になって一定の確実な組織団体の票があればよかった。しかし小選挙区は一人で過半数を取らなければならない。しかも特定の団体の族議員だと色が付きすぎて他の団体から反発を買ってしまう」

 また、ベテラン議員は、政策の変化の早さと多様化を挙げる。

 「今は政策が時代に応じて変化するため、同じ政策が長く続くことが少なくなり族議員もうまみがなくなってきた。例えば、今日まではある業界を保護する政策であっても、来年には規制緩和するため業界自体が壊れ新しい形になっていくといった具合だ。そこにはいったん族議員が生まれるが長続きせず、一夜漬けで終わってしまう」

安倍政権下で最もうまみのあるのはどの族議員か?

 数は減り、専門性も浅くなってはきているが、それでも、永田町にはいまも厳然と「族議員」はいる。そこで、私は旧知の自民党の閣僚経験者、それに官僚OBらと一緒に、懇親会の場でこんな検証をしてみた。題して、「族議員、最新うまみランキング」。今、安倍政権下で、最もうまみのある「族議員」は何族か?

 ランクインは、ざっとこんな感じになった。

 第5位は「防衛族」。安倍政権の新たな安全保障政策や武器輸出などで、予算や発言力も大きくなる。

 第4位は「商工族」。安倍政権のウリの成長戦略は経産省主導で商工族の出番。

 第3位はダークホースで何と「文教族」。文教関係は「利権も少ない」(前出ベテラン)と言われてきたのだがここへきて2020年の東京五輪開催で、さまざまな利権が集中することに。

 第2位は「建設族」。これも復権だ。小泉構造改革以降、公共事業は大幅に削られてきたのだが、国土強靭化など再びバラマキが……。

 そして第1位は、「大蔵族」。財布を握っている以上その権限は永遠だ。

 そして、ランク外に「農水族」。

 「TPP反対議連は今年初めに240人が名を連ねたが、安倍首相がTPPに参加するという方針を出した途端に活動は鈍くなり、その後の会合は出席者が10人。農水のうまみが消えていくということだ」

 決してお遊びと笑うなかれ。実はこうやって見ていくと、「ランキング」から安倍政権の政策的傾向も人間関係も、相関図も力学もくっきり見えてくるではないか。

 

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る