文化・ライフ

攻め続けても遠かったゴール

 期待が大きかった分、落胆も大きかった。

 上位進出が期待されたブラジルW杯、日本代表は2敗1分け、勝ち点1でグループリーグ最下位に終わった。

 大会が始まる前、代表監督のアルベルト・ザッケローニは宣言した。

 「今大会、自分たちにはやりたいサッカーがある。それを出すためには、主導権を握っていかなければならない。リアクションサッカーに徹するのではなく、自分たちがやりたいものを出せる選手を選考した」

 代表23人中12人がサッカーの本場ヨーロッパでプレーする選手。香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、本田圭佑(ACミラン)、長友佑都(インテル)のようにビッグクラブでプレーする選手もいた。

 W杯出場も、日本は今回で連続5回目。大会直前のFIFAランキングこそ46位だったが、前回の南アフリカ大会、45位で決勝トーナメント進出を果たしたことを思えば、前回なみ、あるいはそれ以上を狙うのは当然だった。

 しかし、世界は甘くなかった。初戦のコートジボワール戦。前半、本田のシュートで幸先よく先制したものの、後半17分、エースのディディエ・ドログバがピッチに入って流れが変わった。

 日本の弱点である左サイドを突かれ、たちどころに2失点。後半、指揮官は189㌢のCB吉田麻也を前線に上げてパワープレーを仕掛けたが、焼け石に水だった。

 キャプテンの長谷部誠は「相手が良かったというよりも自分たちのサッカーを表現できなかった」と語った。

 パワープレーを否定するわけではない。しかし、やるなら前もって準備をしておくべきだろう。転ばぬ先の杖、というではないか。

 2戦目のギリシャ戦は初戦の反省もあって前半から攻めに攻めたが、ゴールは遠かった。ギリシャは前半38分、主将のコンスタンティノス・カツラニスが2枚目のイエローカードで退場したことで、徹底して守りを固めた。強固な城壁を攻略する術を、日本は持ち合わせていなかった。

 試合後、本田は語った。

 「攻撃的に行ってもゴールが割れないのはアイデアが足りないからだ。サイドから同じ攻めをしても相手DFにはね返されるだけ。違うかたちでゴールを破るアイデアに欠けていた」

 3戦目のコロンビア戦、日本は相手が控え組を数多く先発させたこともあって、前半から主導権を握った。しかし、このゲームもフィニッシュのアイデアが欠けていた。

 後半、司令塔のハメス・ロドリゲスが投入されると、ゲームの支配権はコロンビアに移った。ボールポゼッションこそ、日本の55%だったが、この数値は全く意味をなさなかった。

コロンビア戦に敗れ引き上げるザッケローニ監督と選手(写真/時事)

コロンビア戦に敗れ引き上げるザッケローニ監督と選手(写真/時事)

 この試合を観戦した元日本代表の中田英寿は『文藝春秋』8月号「この人の月間日記」で、こう述べている。

〈この試合のような「攻めている」というより、「攻めさせられている」という展開は、過去の日本代表の試合でも何度か目にした。こうやって攻め続けて、点が取れないと、徐々に疲れが溜まっていく。ブラジルのような暑い気候のなかでは、いかに相手を疲れさせるかというのも、重要な戦略だ。攻撃を仕掛けているのは日本なのに、試合のペースはコロンビアが握っているようにしか見えなかった。〉

 1対4。スコアの上では惨敗だった。

W杯の総括なくして進歩はない

 この結果を受け、日本サッカー協会はポスト・ザッケローニの人選を急いでいる。

 報道によると、W杯でメキシコ代表を2度(2002年日韓大会、10年南アフリカ大会)、ベスト16に導いたハビエル・アギーレの代表監督就任が有力だと見られている。

 メキシコ人も概ね日本人同様、小柄である。いわゆる〝小よく大を制す〟サッカーを日本に移植したいと技術委員会が考えているのだとしたら、それは間違いではない。

 しかし、と思う。次期監督を選任する前に、勝ち点1に終わったブラジル大会を検証し、総括するのが先ではないか。

 「早く、次期監督選びに取りかからないと、後手に回ってしまう」との声も一部にはあるが、拙速は避けるべきである。

 元技術委員長の小野剛(現ロアッソ熊本監督)は「ちょっと遅れたからといって致命傷になるわけじゃない。バタバタと決めるほうがリスクは大きい」と語っていた。

 そのとおりだろう。検証なくして改善なし、総括なくして進歩なし、である。

 ザック路線の何を改め、何を継続するか。そのためには、どんな指揮官が必要か。まずは、その議論を徹底して行うべきだろう。

 表紙を替えるだけで窮地をしのごうとするやり方には違和感を禁じえない。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る