テクノロジー

原発に関して複雑な議論を避けたがる政府

 

 4月26日と28日の日本経済新聞に台湾の原発に関する記事が掲載されました。

 26日の記事は、台湾の馬英九総統が建設中の第4原子力発電所の稼働の是非を問う住民投票を先送りにする考えを示したという記事であり、28日の記事は、与党がその原発の建設を凍結する方針を発表したという記事でした。

 つまり、野党や住民から建設反対の声が強まったので、取りあえず、凍結という選択をしたようです。

 この結論自体もさることながら、この結論に至ったプロセスが重要です。

 これらの記事だけを読むと、政府側が民意の雰囲気を斟酌して、結論を出したようですが、本当の意味で、民意を問うたのかという点についてははっきりしません。

 住民投票をしなかったという意味では、民意がはっきりと示されることを避けた感じすらあります。

 原発については、世界中で、さまざまな議論があり、国によっては、国民投票を実施したり、東日本大震災直後のドイツでは、倫理委員会という有識者の会議において議論し、それを踏まえて、首相が脱原発を判断したりしました。

 日本では、震災後、エネルギー政策を白紙から見直すことになり、その見直した結果をエネルギー環境戦略という形で取りまとめることとしました。

 私自身、その取りまとめに携わったのですが、その際、「国民的議論」として、これまでにない政策立案のプロセスを実施しました。

 短い時間の中で、パブリックコメントのすべての原文を公表し、外部から、政府の分析が正しかったかどうかを確認できるようにしました。また、討論型世論調査という新しい手法も採用しました。

 その他、マスコミでの世論調査の結果や11地域での意見聴取会でのアンケートなども集計・分析しました。さらには、それらの分析結果を検討するための有識者会議を立ち上げ、その結果の解釈などについて議論してもらい、政府が恣意的な結論を導き出すことにならないようにしました。

 もちろん、この国民的議論のやり方について、多くの批判もありました。それらの批判も踏まえると、改善の余地はあると考えています。

 ただ、重要な政策課題について、国民的な議論を行い、民意を確認するための新しい手法として、1つのたたき台は作ったつもりです。

 もちろん、この国民的議論から導き出された民意に対して、政府は異なる決定を下すこともできます。ただ、その場合には、なぜ異なる結論を選択したかについて明確な説明責任を負います。そして、その説明と異なる状況が生じた際には、その結論についても見直すことがはっきりします。

 それに対し、形式的なパブリックコメントをしただけで、結論を出してしまった場合は、どうしてその結論に至ったかが不透明であり、その後事情が変わった場合、どうすべきかについて建設的な議論ができません。

 政策決定のプロセスは、政策課題が複雑になればなるほど、多様な意見があり、議論が盛んになればなるほど、1つの結論を得ることは難しくなります。したがって、結論を出さないといけない政府は、できる限り議論を避けたほうが容易に意見をまとめられると思いがちです。

 

原発議論の正当性確保のためには国民が納得するプロセスが必要

 

 6月24日号の本連載で言及した使用済核燃料の扱いについての議論は、原発を使うかどうか以上に難しい問題です。この問題は、Not In My BackYard(NIMBY)「自分の裏庭には来ないで」と言われる問題で、施設が必要なことは分かっているけど、自分の近くではないところに持っていってほしいというものの典型であり、結論を出すことは至難の業と言えるでしょう。

 しかし、既に使用済核燃料は発生しており、それを再処理しようがしまいが、高レベル放射性廃棄物は存在している以上、その処理をどうするかという課題は、原発に賛成か反対かにかかわらず、取り組まなければならない問題なのです。

オンカロ

フィンランドで使用済み核燃料最終処分場の予定地となった「オンカロ」

 世界では、ドイツ、米国、英国で、処分場の場所が決まりそうになりながら、最後の段階で反対され、振り出しに戻ったのに対し、フィンランドとスウェーデンでは地中処分の場所を決定しています。それが可能となった大きな要因は、政府に対する信頼度の高さであり、その背景には、政策決定のプロセスへの理解があるからではないかと思います。

 この核廃棄物の処理の問題も含めた、エネルギーに関する問題については、政府は、できる限り多くの国民が納得できるような丁寧な決定プロセスを経ていくことが、信頼を勝ち得る方法であり、適切な結論を得るための最も近道ではないでしょうか。

 こうして到達した結論こそが、将来にわたって正当性を持つ結論となり得るものでしょう。

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