国際

13億人の人口=13億人の巨大市場にはなり得ない中国

 中国には、約2万5千社の日本企業が直接投資している。そのうち、約8千社が赤字経営に陥っているといわれている。長い間、中国はその廉価な労働力を背景に世界の工場と位置付けされてきた。近年、1人当たりGDPが拡大し、中国は世界の市場として大きく躍進した。中国は13億人の人口を有する大国であり、巨大市場であるという認識が広がっている。

 しかし、中国には13億人の人口がいるのは間違いないが、13億人の巨大市場にはなり得ない。所得格差の大きい国であるため、中国で商品や製品を売る企業にとってターゲットを厳しく絞る必要がある。また、有望な市場には新規参入者がたくさん集まることから1社当たりのマーケットシェアが限られてしまう。要するに、有望な市場ほどし烈な競争になるため、各々の企業が生き残るためには、周到な経営戦略を用意することが重要である。

 結論を先取りすれば、中国が巨大かつ有望な市場であることは確かであるが、企業にとって簡単に攻略できる市場ではない。日本企業の中国進出の意思決定をみれば、中国市場の認知、商品戦略、販売戦略、人材管理などについて十分な準備を行わないまま、進出した企業がほとんどではなかろうか。

無防備な日本企業の中国進出

 中国の「改革・開放」政策は国内の外貨不足と低い技術力を補うため、外資を積極的に誘致する「招商引資」だった。外資を引き付けるために、中国政府は外資系企業に免税や減税といった優遇政策を導入した。外資にとり中国市場の魅力は、有望な潜在市場と豊富かつ廉価な労働力に加え、中国政府が約束する種々の優遇政策だった。一方、チャイナリスクについては、政策が勝手に変更されたり、カウンターパートの地場企業が契約不履行を行ったりすることが挙げられる。

 世界的にみれば、最初に中国に進出したのは香港や東南アジアなどの華僑系企業だった。華僑系企業は故郷に錦を飾る目的で中国に進出したが、チャイナリスクを見て見ぬふりをしたわけではなく、そのビジネスモデルの特徴といえば、資金回収周期がいずれも短く抑えられていた。華僑ほど中国の怖さを知るものはいない。

 実は、中国進出企業の2番手は中国のことをあまり知らない日本企業だった。無論、日本企業はビジネスの軸足を中国に置いたわけではなかった。初期の段階で日本企業の多くは中国ビジネスをテストする目的で工場を設立した。

 また、日本人経営者の中に戦争で中国に申し訳ないことをしたため、一企業家として中国の「改革・開放」政策に協力したいと考える者も少なくなかった。日本企業のこうした動機を支えたのは日本国内のビジネスが順調に拡大していたことだった。

 日本企業の中国進出の動機からも分かるとおり、その本気度が不十分だったため、きちんとした投資戦略を用意しないまま、進出した企業が多かった。中国進出に失敗した日本企業にとり好都合だったのはチャイナリスクを誇張してそれを口実にできたことだ。しかし、チャイナリスクは日本企業にのみ向けられるものではなく、地場企業を含めてすべての企業が直面するものである。

日本企業が射程内「招商引資」から「招商選資」へ

 信じられないことだが、中国経済の発展は外国企業にとり必ずしもグッドニュースとは限らない。かつて、外貨不足と低い技術力を補うために、中国政府は低姿勢をもって「招商引資」していた。今、中国政府が保有する外貨準備は3兆8千億㌦に上り、中国企業の技術力も以前に比べればはるかに強化されている。

 その結果、中国政府の外資誘致姿勢は「招商引資」から「招商選資」に変わりつつある。「招商選資」とは、進出するすべての外資企業を受け入れるのではなく、セレクティブに(外資を選別して)受け入れるとのことである。また、これまで導入されていた外資優遇政策も大きく変更されている。その大義名分は外国企業と地場企業のすべてについて内国民待遇を適用するとのことである。

 今後、予想される動きとして、セメントや製紙といった環境汚染につながる恐れのある外資系企業が退出させられる可能性が高い。そして、中国国内で過剰設備の問題が浮上している自動車製造業などについて地場企業への技術移転に消極的な外国メーカーが退出させられよう。これは一石二鳥の政策と言える。問題は日本企業がこうした政策変更リスクの射程内にあることである。

 日本企業の中国ビジネスを立て直すためには、赤字経営に陥っている、再生する見込みのない現地法人をリソースリアロケーション(経営資源の再配置)によって配置転換する必要がある。経営の効率性を基準に考えれば、日本企業の中国進出は明らかに行き過ぎて肥大化している。中国市場の現実からすれば、日本企業は限られた経営資源を集約して競争力を強化しなければならない。

 

【グローバルニュースの深層】記事一覧はこちら

柯 隆氏 記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る