マネジメント

森猛・セントケア社長の戦略 正社員比率を増やし高度な介護に対応

介護職員数の推移 介護職員の採用率と離職率の推移

 高齢化社会の進行で今後も市場が拡大するのが確実な介護業界。「需要が大きく社会貢献できる仕事」として、ホームヘルパーや介護福祉士などの関連資格も人気が高い。

 それでも、同業界では人手不足が叫ばれて久しい。理由の1つとして挙げられるのは、「キツイ・汚い・危険」といういわゆる3Kのイメージが定着してしまっていること。これに加えて「給料が安い」という要素を付け加えて、4Kと言われるケースもある。2025年に必要な介護職員数は249万人と見積もられているが(次ページのグラフ参照)、従来のイメージが、企業にとって人材獲得の阻害要因になっているのは否めない。

 離職率の高さも解決すべき課題だ。業界全体で介護職員の離職率は、00年の介護保険導入から07年ごろまで高水準で推移してきた。直近では17%程度と徐々に改善の兆しが見えているものの、まだ満足とは言えない状況にある。

 そうした中、年間3千人の採用目標を掲げ、正社員比率も増やそうとしているのが介護大手のセントケア・ホールディングだ。この狙いについて、森猛社長はこう説明する。

 「介護保険は家事援助などの生活支援的なサービスに関しては報酬が低いのですが、今後は国の方針として、重度の介護が必要な方への給付を厚くしていく動きがあります。こうしたサービスは単価が高いため、正社員を増やしても十分採算が取れると見ています」

森 猛

森 猛(もり・たけし)
1965年生まれ。99年日本リロケーション入社。2001年セントケア・ホールディング入社。07年執行役員マーケティング部長、08年専務取締役マーケティング部長兼経営企画部長、12年より現職。

 例えば同社では、24時間体制の定期巡回、随時対応型訪問介護サービスを昨年開始した。対象となるのは要介護1〜5の利用者で、医療ニーズが高いケースが多く、オンコールで随時対応が可能なところも特徴だ。

 「今までは契約社員中心で行える業務が多かったのですが、今後は高度な介護が増えるので専門職だけができる仕事に変わっていきます。そこで、介護福祉士の資格などを持っている人材の採用を進めたり、社員の資格取得を後押ししたりしていく方針です。契約社員の正社員化も進めていきます」

 セントケアの場合、全体売上高の約50%を訪問系の介護・看護・入浴サービスが占める。この領域で、報酬単価が高い仕事に対応できる体制を拡充させることで、収益向上を図っていく。そのために、専門的な技能を持った人材がますます必要になってくるというわけだ。

森猛氏が考える離職率低下の方策とは

 それでは、どのように自社の魅力を訴え、人材を確保していくのか。

 具体的な施策の1つとしてセントケアが進めているのが、今年度から始めた職員に対する資格取得支援だ。

 例えば、高卒の新入社員は入社時に介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)、1年後に介護職員実務者研修(旧ホームヘルパー1級)の資格を会社の費用負担で取ることができる。3年以上の実務経験が必要な介護福祉士の資格も、働きながら取れるようバックアップしていく。国の方針によって、資格取得の条件が年々厳しくなっていく中、働きながらプロになれるという点をアピールする考えだ。

 一方、労働環境の改善という点では、事務処理のICT化を進めていく。

 介護の仕事は現場作業の厳しさそれ自体が離職率の高さにつながっていると思われがちだが、森氏によると、社内のコミュニケーション不足による人間関係などの問題が大きいという。これをもたらす要因として、現場のリーダーが膨大な量の事務作業に追われて、「忙し過ぎる」という状況がある。

 業界の決まりとして、スタッフ10人につき1人を、職員のシフト調整やサービス利用者宅への訪問ルート作成などを担当するサービス提供責任者として配置しなければならないが、現状では責任者が地図を広げ、電話を掛けつつ、何時間もかけてこの作業を行っているという。こうした作業を効率化することによって、本来、現場のリーダーが行うべきマネジメントの仕事がもっとできるようになると、森氏は期待する。

 「営業所内で上司との会話やコミュニケーション不足で疎外感を感じたり不満を募らせたりすることで、離職するスタッフは非常に多い。アナログなところをシステム化して、こうした状況を改善したい。作業を効率化することで、管理者に地図ではなく、もっとスタッフと向き合う時間を増やしてもらいたいと考えています」

森氏

「ITC導入による業務の効率化で労働環境を改善する」と語る森氏

 既存のシステムでは、個々のヘルパーの能力やヘルパーとサービス利用者の相性といった細かな事柄までは対応できないが、自ら開発を手掛けることで、現場の状況に即した訪問ルート作成が可能になるという。新システムは今年秋ごろ導入予定で、将来的には外部への販売も行う予定だ。

 介護業界は安倍政権が進める女性労働力の活用という点でも、期待される分野だ。もともと社会貢献に対するモチベーションが高い人材が集まりやすいが、それでも全産業の平均と比べて3割ほど低い介護職員の収入を高めていく工夫が必要になる。

 加えて、さらなる労働環境の改善も必須となるだろう。セントケアが進めている正社員比率の増加やICT導入といった動きは、他の業者にも広がっていくことが予想される。

 「世間的な3Kのイメージについては昔とあまり変わりませんが、新卒で入社した職員から、実際は全く違ったという感想を聞くこともあります。今後は、業界を挙げて新たなイメージを作っていきたいと思います」と、森氏は言う。

(文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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