マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

著作権法に激震を与えた事例

 近年、「著作権」を抜きにして企業活動を考えることが難しくなっています。ウェブページの記載から、パソコンで使うソフトウエアに至るまで、至るところで著作権が問題となってきます。

 そこで今回は、「著作権を取り巻く環境の変化」について、著作権法務に激震を与えた事例を基に説明します。

【事例】

 次世代デジタル家電の開発・販売を手掛ける株式会社日本デジタル家電は、インターネット機能付きのビデオデッキ(ハードディスクレコーダー)「ロクラクⅡ」を開発。同レコーダーの貸与・販売はもとより、親機の設置・管理代行のサービスも展開していました。ロクラクⅡのシステムは親機と子機から成り、以下の手順に従うことで、親機で受信したテレビ番組を遠隔地の子機から視聴することが可能でした。

(1)ユーザーが子機を操作し、インターネットを介して録画の指示を出す。

(2)親機は、指示のあった番組を自動的にデジタルデータ化した上で録画する。

(3)録画されたデジタルデータは、インターネットを介して子機に送信される。

(4)ユーザーは、子機を操作して受信したデータを再生し、番組を視聴する。

 ロクラクⅡの使用料金は初期登録料が3千円で、機器レンタル料が月額6500円〜8500円。多少高額のサービスながらインターネットを介して、いつでも、どこからでもテレビ番組が視聴できることから、一定の人気を博していました。ところが、NHKをはじめとするテレビ局が、ロクラクⅡを用いたサービスが、番組に関する著作権等を侵害するとして、親機の廃棄や損害賠償などを求めて提訴したのです。

【解説】

著作権法のグレーゾーン

 ロクラクⅡ事件の1審ではテレビ局側の請求が認容されましたが2審で逆転。テレビ局側の請求が退けられました。ところが最高裁で、再度テレビ局側が勝利し、著作権法務に激震を与えたのです。

 ロクラクⅡのサービスは、著作権法が私的利用を目的とした著作物のコピーを許容している点に着目したものです。言い換えれば、ロクラクⅡのビジネスモデルは、著作権法のグレーゾーンを限りなく白に近い形で潜り抜けようとしたモデルだったわけです。それだけに、最高裁の判決に衆目が注がれていたのですが、結果は「ロクラクⅡは違法」。リベラルなビジネスモデルが裏目に出た格好です。

コピーによって著作権を侵害したのは誰か

 ロクラクⅡ裁判で争点となったのは、著作物に対するコピーの主体が、「利用者個人なのか、それとも日本デジタル家電なのか」という点です。先の記述からも分かるとおり、最高裁は、コピーの主体を日本デジタル家電と断定しました。

 その判断基準はおおよそ次のようなものです。

 「コピーの対象、方法、関与の内容、程度等の諸要素を考慮して、誰が著作物をコピーしていると言えるかを判断するのが相当」

 こうした判断基準は、良く言えば「柔軟」ですが、革新的なビジネスモデルを確立しようとする事業者にとっては、自分たちの着想したアイデアが司法的にどう判断されるかが予測しづらくなったと言えるでしょう。

 ちなみに、最近では「自炊代行問題」にも注目が集まっています。「自炊」とは、紙媒体の書籍を電子書籍化するために、各ページをスキャンして電子ファイルを作成する行為のこと。近年、それを代行する業者が現れたのです。

 自炊によって書籍をコピーしているのが個人か業者かの司法の最終的な判断はまだ下されていませんが、昨年9月には、「コピーの主体は業者である」との初めての判決が東京地裁で下されました。

 これはあくまでも地裁判決なので、自炊代行業の芽が完全に摘まれたわけではありません。ですが、現行法の下では、自炊代行が採用しづらいビジネスモデルになったことは確かです。

著作権の現在と今後はどうなる

 デジタル技術の発達に伴い、新しいビジネスモデルを志向する側と、権利者側との対立が著作権法を軸にますます激化しています。

 そんな中、文化庁では最近、台頭するクラウドサービスの対応に向けた法整備を進めています。それに対する批判も少なくありませんが、企業活動と著作権法との結び付きが強まる今日、文化庁の動きや著作権法改正の動向にはやはり注意を払うべきだと思います。

 また、著作権をめぐる世の中の動きを注意深く観察していれば、新たなビジネスチャンスをいち早くつかめるかもしれません。

筆者の記事一覧はこちら

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る