マネジメント

 「当初は『当たり前のことをやっているのに、なぜ褒めるか』と言われたこともありました。100人のうち1人が行ったことが事故やクレームにつながることがあります。多くの経営者はこれをなくすために必死になりがちですが、本来このTESSEIを支えているのは残りの99人です。その人たちが地道に当たり前のことを当たり前のようにやってくれるから会社が成立しています。だから、当たり前のことを褒める必要がないと言うのは違うと考えます。平凡な人に非凡なことをやらせるのは難しいこと。平凡な人が平凡なことをちゃんとやる。それが大きな力になるんです」

ベビー休憩室

現場の提案で設置されたベビー休憩室を清掃する従業員

 従業員は清掃業務という受託された仕事を淡々とこなすだけではなく、利用者に新幹線を通した「よい思い出」を作ってもらうためにもてなす役割と、新幹線利用者の大半を占める「サイレントカスタマー」の代弁者としての役割も担うようになった。乳児を連れた利用者が休めるようにベビー休憩室の設置や、新幹線内に女性専用トイレを作ることなども提案し、実現した。こうした成功体験を積み重ね、着実に従業員は仕事に誇りを持つようになった。

 これらの取り組みも、矢部氏が入社した当初は受け入れられないことも多かった。例えば、新幹線の座席にあるテーブルを拭くのも当初はなかった作業だ。目視のみで汚れを見落とし、クレームにつながることもあった。矢部氏はテーブルを開けたついでに拭く作業も組み込むことを提案した。しかし限られた清掃時間にひと手間加えることは不可能だと突き返された。2年ほどたち、ある従業員が作業を試したところ時間内に作業を終えられることが分かった。その時のことを矢部氏はこう振り返る。

 「改革が進まない4つの理由があると思います。まず、改革をしなければいけないということを従業員が認識していない。2つ目は、改革が面倒くさくて人も組織も動かない。3つ目は改革によって発生するリスクが怖くて乗りだせない。しかし、何より大きい要因は、改革の先導役が気に食わないからやらない。私自身も言葉で発信し、新しい取り組みを導入することを通して態度を示しました。そうすることで現場から『矢部さんの言う通りやってみよう』という言葉が聞こえるようになりました。人を動かすためには『あの人のためなら』と思わせる信頼関係が必要だと再確認しました」

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