政治・経済

みずほフィナンシャルグループによる委員会設置会社化が、銀行業界に大きな波紋を投げ掛けている。これまで出身母体となる旧銀行をベースにしたバランス型人事を取ってきたメガバンクの多くが、これを皮切りに大幅な改革を余儀なくされる可能性が高くなったためだ。

佐藤康博


委員会設置会社への移行について会見した佐藤康博・みずほFG社長(Photo=時事)

みずほFGの委員会設置会社化は業界改革に向けた布石

 みずほFGは、昨秋に発覚した反社会的勢力との取引問題を契機に、企業統治能力が厳しく問われ、その解決の一環として、経営形態を委員会設置会社に移行することが金融庁に求められ、それを実行に移した。大手銀行クラスでは初めてのケースであり、それだけをとってみても、余波の発生を大手銀行クラスが懸念していた。

 みずほFGによる経営形態移行の中でも、銀行業界があっと驚いたのは役員人事を決定する指名委員会と、報酬委員会のメンバー構成にほかならない。2つの委員会ともに、委員のすべてが社外取締役という構成となったからだ。従来、企業のトップがその権力を保持してきた源泉は人事権であり、それが社外取締役の手に渡ったということは「劇的な変化」だ。

 みずほFGの場合、第一勧銀、富士、興銀という母体の旧3銀行ごとの人事体系が継続し、結局、旧3銀行によるバランス型人事が行われてきたことは明らか。その状況を打破するためにも、今回の劇的変化は極めて効果を発揮する可能性はあるが、一方では、ライバル銀行グループも程度の差こそあれ、旧銀行をベースとしたバランス型人事が踏襲されている「五十歩百歩」の状況がある。つまり、こと人事問題に関する限り、「みずほは他人事ではない」という認識が他のメガバンクなどにもある。

 「みずほの委員会設置会社化、あるいは、社外取締役人事に、金融庁が影響力を発揮したことは間違いない」

 こうみているライバル銀行の役員は「金融庁は、われわれにもプレッシャーをかけようとしているのではないか」と心穏やかではない表情で話している。

 そんな思いを抱いていた銀行業界にとって衝撃だったのは自民党が5月23日にまとめた「日本再生ビジョン」の内容だった。自民党の日本経済再生本部が策定したもので、その後、政府が公表した成長戦略のたたき台と言えるものだった。

 中でもインパクトが強かった提言の1つが、銀行のガバナンス問題の部分だった。具体的には、銀行業界は他の業界の指針になるような厳格なガバナンス体制を作り上げていく必要があるというもの。

 この文言は構成上、「地域金融機関を通じた地方経済活性化」の項目の中に盛り込まれている。読み方次第では、コーポレートガバナンスの強化は、地銀など地域金融機関に限定した政策ということにもなるが、内容そのものは、決して地域金融機関に限られる性質のものではない。具体的には、「でき得る限り複数の独立社外取締役導入を強く促すべきで、100%出資銀行子会社に関しても、独立社外取締役の導入について検討すべきである」とし、金融持ち株会社はもとより、銀行子会社にもガバナンス強化イコール、独立社外取締役の導入を求めている。

 「日本再生ビジョンの金融分野の項目については、金融庁が根気強く、関係議員の間を説得して回っていた」(自民党関係筋)

 こうした経緯からすれば、みずほの委員会設置会社移行と、日本再生ビジョンの提言内容は、金融庁が着実に布石を打った「ペアの政策」という位置付けとなる。

みずほFGを皮切りに金融庁が目論む銀行のガバナンス改革

 取締役以上の人事については、メガバンク再編以降、「ポストが母体銀行で固定化している」という評判が定着している。例えば、三菱UFJグループでは、銀行の頭取は、旧東京三菱出身者が務める一方で、持ち株会社会長である三菱UFJフィナンシャル会長には、沖原宗隆氏に続いて園潔氏と、2代続けて旧UFJ出身者が就任している。

 「実権は、旧東京三菱が握っている中で、旧UFJに一定の配慮を払っている人事体制」と、同銀行関係者はホンネを漏らすが、本来、上場会社の経営体制としては、そんな痛み分け的な経営体制に妥当性があるわけではない。いずれの銀行にしても、頭取経験者が顧問なり、相談役なりの肩書で、半ば終身的なポストを得ていることまでみると、誰が見ても、首をかしげたくなるような部分があると言える。

 一方、みずほの指名、報酬委員会をめぐっては、早くも銀行業界の中に異論が噴出し始めている。その典型が「銀行経営、銀行業務を知らない人たちがどのようにして、人事を行えるのか」という反論だが、これも、自らのもとに、余波を及ばせないための防波堤的な反論というムードが漂っている。

 自民党の日本再生ビジョンに盛り込まれた銀行ガバナンスは結局、政府の成長戦略には盛り込まれなかった。これは銀行業界の強い抵抗があったかららしいが、その一方では、銀行のガバナンス改革に向けた金融庁の意思までも消え去ったというわけではない。むしろ、銀行業界の抵抗が金融庁の意思をさらに強めたという見方すらできる状況である。この先、金融庁VS銀行業界の静かで激しい闘いが永田町を舞台に繰り広げられる可能性は高い。

 その意味でも、委員会設置会社に移行したみずほが今後、役員人事問題などを中核にして、いかなる経営を行うかが大きな焦点となってきている。

(文=ジャーナリスト/黒田和夫)

 

【みずほ】関連記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る