政治・経済

政府は2015年10月からの消費税の再増税(10%)を、年内にも判断する。同時に大きな課題になっているのが、食料品などの生活必需品に対する軽減税率を導入するかどうかだ。財界がこぞって導入に反対する理由は何なのか。

 

財務省

軽減税率の効果はいかに(写真は霞が関の財務省)

軽減税率導入に反対する経済団体

 

 軽減税率導入の導入に関しては、与党である公明党が導入に強い意欲を示し、消費者団体もこぞって要望。肝心の自民党も大きく揺れている。

 安倍晋三首相は消費増税の一方で、成長戦略改訂版の中で数年で法人実効税率を「20%台まで引き下げる」ことを明記した。「庶民を圧迫して企業を優遇する」という、極めて素朴な不満の高まりに多くの与党議員がおびえている。

 加えて、マスコミの態度が問題だ。軽減税率は一種の減税策であり、品目指定を受けることは業界の利権に直結する。そして日本新聞協会は、新聞代金への軽減税率適用を求めている。

 身内の「利権追求」を抱えていては、大手新聞社も軽減税率に対する意見を言いにくい。こうしたこともあって、社会の広範な意見形成が進まない。

 そんな現状を打破しようと声を上げたのは、財界だ。

 経団連など9団体は7月2日に連名で「消費税の複数税率導入に反対する意見」を発表。名を連ねたのは、経団連と日本商工会議所、経済同友会の経済3団体と、全国商工会連合会などの中小企業3団体、日本チェーンストア協会などの小売り3団体だ。各団体は、その後の与党税制協議会による業界ヒアリングでも、こぞって軽減税率に反対した。

 

軽減税率導入反対の3つの柱

 

 反対意見の柱は3つある。

 第1に、軽減税率導入による減税効果は消費増税によって得られるはずの社会保障財源を減少させ、持続可能性を損ないかねないこと。第2に、対象品目の線引きが不明確で、小売りの第一線に大きな混乱を招くこと。第3に、新たに通常税率と軽減税率の区分経理の事務が発生し、特に中小企業の事務負担が増すこと。

 注目すべきは第1の「社会保障財源を減少させる」という反対理由である。意見書の提出団体のひとつは、軽減税率導入による減税額は1%当たり最大6600億円に及ぶと試算している。「大幅な税収減を招く」という批判は、企業の意見としてはやや違和感がある。

 この意見の中で軽減税率を「逆進性対策としては非効率」と批判していることも特徴的だ。消費税は一般に、低所得者ほど負担が重くなる「逆進性」が問題になるが、低所得者は消費に占める生活必需品の割合が高く、その税率を軽減すれば逆進性は緩和される。しかし意見書は、真っ向からこれに反対している。

 第2、第3の反対理由が企業の事情であるのに対して、第1の理由は妙に政策論的だ。その背景を財界関係者は「実はね、われわれの側には官僚がいるんですよ」と打ち明ける。

 官僚とはこの場合、税・財政当局、すなわち財務省だ。官僚は政権の〝黒子〟であって、大きな政治課題であればあるほど口を閉ざす。しかし、彼らなりの意見がないわけではない。

 財務省にとって、念願の消費税増税が実現したのに、その税収効果を減殺する軽減税率は受け入れがたい。そうした反対意見を自ら言い出すわけにはいかないから、財界に反対意見の表明を働き掛けた。法人減税が決まっている分、財務省と財界との関係はこれまでになく良好で、パイプも太い。

 そう見れば、財界の意見書が「軽減税率」を「複数税率」と言い換えた理由も推察できる。「軽減」は国民の期待を集めてしまう。しかし「複数」と呼べば「何だかやっかいなもの」という印象を植え付けられる。実に官僚的なプロパガンダの小細工である。

 政府は秋までに、軽減税率の当否を判断することになる。財界と官僚の強力な「反対同盟」は、間違いなく政府の判断に大きく関係するだろう。

 

軽減税率をめぐる議論の早期決着は困難

 

 財界の主張する軽減税率の反対理由について、その当否を検討しておきたい。

 「対象品目の線引きが不透明」という主張は、全くそのとおりである。食料品は軽減税率、外食は通常税率、ではテイクアウトはどうするか、といった課題を考えるだけでも、第一線の混乱は想像に難くない。

 欧州諸国の場合、軽減税率は「基礎的食料品」に限るケースが多い。コメやパンは軽減でも、弁当やサンドイッチは「加工品」として通常税率を適用する。この方式だと、一部が期待するほど負担感の軽減効果はない。

 「事務負担が増す」という主張は、一見すると消費者には関係ない。確かにレジの自動計算システムがない中小の商店などの精算は大変だが、最初から税込み表示にしてしまえばいいからだ。問題は、決算と納税がやっかいになることだ。

 企業は、軽減と通常の2種類の税額計算をしなければならない。その過程で多くの不正・脱税が入り込む。財務省は、それを恐れている。

 かといって、欧州型のインボイスによる書類管理を導入するとなれば、本当に巨額の社会的コストが掛かる。「果たして税率10%で、そこまでやる必要があるのか」という財界の指摘は、間違っていない。

 しかし消費税率が、10%で止まるとは考えにくい。もし今回、軽減税率が見送りになっても、また消費増税が浮上するたびに制度導入が議論されよう。この議論が決着することは当面、考えにくいのである。

(文=ジャーナリスト/遠山正人)

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