政治・経済

「外国人技能実習、230団体で不正…昨年」

外国人技能実習制度で来日した外国人に対し、賃金の不払いや人権侵害などの不正を行った受け入れ団体・機関が、昨年は計230団体に上り、2010年に現行制度が始まって以降、3年連続で増加していることが法務省の調べで分かった。

(読売新聞2014年7月12日)

外国人技能実習制度とは

アジア諸国などの労働者を一定期間産業界に受け入れ、産業上の技能等を修得してもらう仕組み。技能実習生へ技能等の移転を図り、出身国の経済発展を担う人材育成を目的としたもので、日本の国際協力・国際貢一翼を担っている。

外国人技能実習制度は「外国人短期労働プログラム」ではない

 現在の日本は、人手不足が深刻になりつつあるといわれている。とはいえ、わが国は「真の意味」における人手不足に陥っているわけではない。

 何しろ、失業率はいまだ完全雇用には達せず、労働参加率も世界最高水準というわけではない。労働参加率とは、15〜64歳までの生産年齢人口の内、労働市場に参加している人の割合だ(失業者であっても、労働市場に参加していることになる)。

 ちなみに、日本の生産年齢人口は約8千万人であるため、労働参加率が2%上がるだけで、新たに160万人もの労働者が市場に参入することになる。日本の労働参加率が2%上がっても、いまだ労働参加率主要国最高のオランダには及ばない。

 さらに、若年無業者(いわゆるNEETに近い概念)の数は約60万人。生活保護受給世帯のうち、「高齢者世帯、母子世帯、障害者世帯、傷病者世帯」以外の「その他の世帯」の世帯数が28万3千世帯。普通に働けるにもかかわらず、生活保護を受給している世帯が30万近いのだ。

 要するに、現在の日本の人手不足状況は「人手がいない」ために起きているのではない。単に「働いていない日本人が少なくない」ために、人手不足が発生しているように見えるだけなのだ。

 それにもかかわらず、政府の諮問機関である産業競争力会議を中心に、外国人労働者の受け入れが推進されている。東京五輪などで需要増が見込まれる建設業に続き、造船業でも外国人技能実習生の受け入れ要件の特例的な緩和が決定された。日本の技能実習生国籍別外国人登録者数の推移

 さらに、法務省の有識者会議は外国人技能実習制度に「介護」などを加える案をまとめ、成長戦略(日本再興戦略)には、対象職種拡大や最大3年の在留期間を5年に延長する方針などが盛り込まれた。加えて、国家戦略特区において外国人による家事支援労働を認めることにもなった。理由は「女性の活躍促進」のためとのことである

 そもそも、外国人技能実習制度は「外国人短期労働プログラム」ではない。彼らはあくまで「技能実習生」であり、外国人労働者ではないのだ。技能実習生に技能や知識を身に付けてもらうという、日本国の国際貢献の一環であり、「低賃金な外国人労働者」により人手不足を解消するという発想自体が、趣旨を完全に逸脱している。

 しかも、冒頭の記事にもあるとおり、外国人技能実習制度をめぐる賃金の不払いや、過酷な労働を強いる人権侵害が相次いでいる。2013年には、技能実習制度関連の不正件数が大幅に増え、対前年比126件増の366件となった。

 不正の内訳は、やはり「賃金等の不払い」が99件と最も多い。さらに、受け入れ当初に必須の講習を実施しないなど「研修・技能実習計画との齟齬」が87件。「講習期間中の業務への従事」が79件という順番になっている。

外国人技能実習制度拡大と企業の姿勢で社会問題化

 筆者が個人的に恐れているのは、現在の外国人技能実習制度がなし崩し的に「外国人短期労働プログラム」化し、さらに上記の類の問題事例が相次ぎ、日本国民に妙な「罪悪感」が醸成されてしまうケースである。

 現実問題として、日本には既に中国人を多数派とする技能実習生たちが15万人滞在している。彼らに対する日本の世論的な見方が、「被害者」という形になってしまうと、かつての「人権侵害救済法案」と似たような「環境」が生まれてしまう。

 すなわち、日本人に加害者意識を持たせ、「自分たちは被害者だ。救済せよ。具体的には、永住許可を寄越せ!」と、技能実習生たちに叫ばせる。彼らを後押しする「人権派弁護士」たちがマスコミを使い、大騒動を繰り広げ、結局は技能実習生が「外国移民」と化す道の1つを構築されてしまう可能性があるのだ。

 繰り返すが、そもそもわが国は真の意味で人手不足ではない。それにもかかわらず、政府は外国人技能実習制度を拡大しようとする。経営者が彼らを「単なる安い労働力」として認識してしまうと、外国をも巻き込んだ社会問題と化す。結果的に、日本の移民国家化を食い止めることが不可能になる。そんな未来を筆者は恐れる。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る