政治・経済

安倍政権の暴走と戦争を体験した自民長老たち

 「な、言ったとおりだろう。これで、またあの人たちがいろいろ仕掛けてくるよ」

 かつて官房長官や主要閣僚を歴任した自民党国会議員の元老秘書が、あきれ顔で語った。7月13日投開票の滋賀県知事選の結果を受けてのことだ。自民、公明両党推薦の小鑓隆史氏が前民主党衆院議員の三日月大造氏に敗れたのだ。

イラスト/のり

イラスト/のり

 小鑓氏の選対関係者はこう言って肩を落とす。

 「7月1日、集団的自衛権行使の限定容認に関する新たな政府見解が閣議決定されてから風向きが変わった。投票率も50%を超えるとは想定外だった」

 集団的自衛権行使の限定容認--。これまで国民の関心の枠外で、とりわけ首長選挙には関係ないと思われていたが、この閣議決定が大きく影響したというのだ。前出の元老秘書の言葉に耳を傾けてみる。

 「安倍晋三首相は、憲法改正がやりたくて仕方ない。だから、最初は96条改正を持ち上げ、なかなか進められないと見ると解釈改憲に路線を変更した。やるのは構わない。しかし、手順が悪過ぎる。百歩譲って閣議決定するにしても、国会会期中に定例の閣議でやるべき。それが閉会後に臨時の閣議を開いて行うなんて、あまりにも強引で姑息。これまでの自民党の〝保守の王道〟から逸れた手法だ」

 30年以上、自民党の政権中枢で権力者の所作を見続けてきた男はこう嘆くのだ。その元老秘書が冒頭語った〝あの人たち〟とは誰を指すのか。

 「引退した長老たちのことだよ。野中広務元幹事長、青木幹雄元参議院議員会長、古賀誠元幹事長、山崎拓元副総理たちのことだ。彼らは自民党リベラル派として、安倍政権の危うさを事あるごとに訴えてきた。今後は、早晩崩れるだろう安倍政権を見据え、ポスト安倍に向けて動き出すに違いない」

 彼らは権力者として長年君臨し、利権の象徴として批判の矢面に立ってきた。しかし、一方で彼らに共通するのは、幼少期に戦争を体験していること。焼け野原の日本を立て直すことを目標に政治家を志したことだ。

 この約半年内で山崎氏、古賀氏が語ってくれた言葉がよみがえってくる。

 「今は政高党低の特別な状態。僕の経験上で振り返れば、田中角栄政権、中曽根康弘政権、小泉純一郎政権が、首相のリーダーシップが目立った時期。しかし、田中政権時は党内に青嵐会ができ、党内で激しい摩擦が生じた。中曽根政権時は、田中角栄氏の影が見え隠れして〝田中曽根内閣〟と呼ばれ、党内からも批判を浴びた。小泉政権時は、郵政民営化で大混乱に陥った。いずれも党自らが権力の暴走を許さなかったが、今は〝権力の暴走期〟だ」(山崎氏)

 自民党の劣化を憂い嘆く、山崎氏の思いがひしひしと伝わってくる。

 「勇気のある国とは、どんなことを指すのだろうか。イケイケドンドンが勇気ある国なんだろうか。本当の勇気とは、1歩も2歩も立ち止まって、経済的な繁栄が100から80になっても、各地域の産業をどう育てるのか、地域の特性をどう生かすのか、そういうきめ細かさが必要だと思う。日本はホワイトカラーだけで成り立っているわけではありません。だけど、痛みが出てくるところもあるでしょう。何が一番大事かといえば、思いやりや温かさが(政治に)にじみ出てくれば、国民は理解してくれると思う」(古賀氏)

 小泉純一郎政権以降、疲弊した地方経済に思いをはせる古賀氏の心情が伝わる言葉だ。

バッジを外した自民長老たちの来年の総裁選シミュレーション

 いずれも、変質した自民党への危機感が根底にあり、バッジを外した今も、自分にできる役割を模索しているように感じる。それは決して、再度バッジを付けたいとか、権力を握り院政を敷くとかいう、低俗な欲望ではない。自分たちが築いてきた、道半ばの日本の再生が崩れてしまっているという危機感からの発露だと感じるのだ。

 政治スケジュールを見れば、今後は9月に内閣改造、10〜11月に沖縄と福島の県知事選、12月に消費税10%への再増税決定、来年4月統一地方選、9月に自民党総裁選となっている。それぞれが難しい関門となっていて、1つ手順を間違うと政権が瓦解する恐れがあるという。

 バッジを外した長老たちは、このような政治スケジュールを見据え、さまざまなシミュレーションを想定しながら、来年9月の総裁選で安倍外しに動くというのが、永田町関係者たちの共通した見方だ。果たして、あからさまな安倍降ろしの旗振り役をするのか、それとも自民党リベラル派の再構築の黒子となるのか。間もなく69回目の終戦記念日だ。バッジを外した長老たちの真夏の闘いは続く。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

多くの経営者が目標とする株式上場。しかし、上場に掛かるコストや時間、その他諸々の条件を考慮して、「上場は到底無理」と諦めてしまうケースも少なくない。そんな経営者にとって有力な選択肢となるのが東京証券取引所の運営する第五の市場TOKYO PRO Marketへの上場だ。2018年に同市場に上場を果たした、株式会…

前田浩氏

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

一般には馴染みが薄い産業廃棄物処理の世界。古い慣習が残る業界を、ITによって変えようとしているのがトライシクルの福田隆社長だ。業界の老舗企業がテクノロジー導入に舵を切った背景と今後の展望を聞いた。(吉田浩)福田隆・トライシクルCEOプロフィール 産廃処理で「B to B版メルカリ」を目指す&nbs…

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

佐藤輝英・BEENEXTファウンダーに聞く「起業家から投資家に転身した理由」

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る