文化・ライフ

東京五輪の会場プラン見直しが相次ぐ

 ここにきて2020年東京オリンピック・パラリンピックで実施される競技会場の見直し案が相次いでいる。

 バスケットボールとバドミントン会場の「夢の島ユースプラザ」、カヌーのスプリントが行われる「海の森水上競技場」、カヌーのスラロームが予定されている「葛西臨海公園」、そして水球会場の「ウォーターポロアリーナ」……。

 見直しの理由を、舛添要一都知事は、こう述べている。

〈財政の制約、環境との両立、選手にとっての利便性、後利用の採算性などについて、厳しい視点から検討し、すべての建設計画について見直すことにした。税金という形で費用を払うのは都民であるから、納得しないような高コストでは話にならない〉(『現代ビジネス』2014年6月17日)

 招致段階で1538億円と見積もられていた施設整備費は、3800億円に膨らむ見込み。いくら人件費や建築資材費が高騰したとはいっても、当初の2・5倍というのは異常だ。見直しは当然だろう。

 これにより、「競技会場の85%を選手村から半径8キロ圏内に集中させる」とのプレゼンテーションでの公約を守るのは困難になってきた。

 一例を挙げれば、バスケットボールの代替施設として候補に挙るさいたま市の「さいたまスーパーアリーナ」。ここは選手村予定地から約40キロも離れている。

 開催都市決定後に招致計画を変更するのは珍しいことではない。前回のロンドン五輪でもバドミントンや新体操の会場は経費削減のため当初のプランを変更している。

 大会組織委員会との会議のため、準備状況の視察も兼ねて6月に来日した国際オリンピック委員会(IOC)のメンバーは「コンセプトは重要だが、競技会場の持続性や予算も重要」とプランの見直しに理解を示した。

東京五輪後、会場は廃墟になるのか?

 重要なのは、むしろ20年以降だ。オリンピック・バラリンピックは成功した。しかし、巨費を投じた施設は〝廃墟〟となり、次世代にはツケだけが残された--これでは意味がない。

 IOCが錦の御旗とする「レガシー」とは、ハードにしろソフトにしろ、後世に役立つものでなければならない。

 2年後のリオデジャネイロ五輪で112年ぶりに正式競技として復活するゴルフにおいても見直しの声が上がっている。東京五輪では埼玉県川越市にある霞ヶ関カンツリー倶楽部が会場として予定されている。

 これを都内の臨海部にある若洲のコースに変えるべきだと主張しているのが、ゴルフ解説者のタケ小山である。「霞ヶ関ではゴルフ界全体を考えた時に五輪後のメリットが少ない」と言い、こう続ける。

 「前回の1964年の東京五輪後、選手たちが試合をした体育館やプールなどの施設は皆が使えました。でも、霞ヶ関だと、ここでプレーするには会員になる必要がある。誰にでも開かれたコースではないんです。ゴルフファンの大半は中に入ることもできずに一生を終えてしまうのではないでしょうか。ゴルフに携わっている人間のひとりとして、後世に財産を残すにはどうすればいいか。その観点からも、誰でも利用可能な若洲で競技を実施すべきだと考えます」

 距離的な問題もある。

 「霞ヶ関のコースは都心からは50キロも離れています。選手は朝早くからプレーしなくてはいけない可能性もあるのに移動が大変です。立地面を考えても真夏の暑い時期に内陸部の川越でゴルフをしたら、選手は熱中症になってしまいますよ。臨海部で海風の吹く若洲のほうが選手のコンディション面からも適しています」

 仮に若洲に変更するとして、整備費など出費がかさむことはないのか。

 「コース自体は現状でも十分、競技は可能です。ただ、会場の基準として、36名が1度に打てる360ヤードの練習場を備えることが条件になっていますから、それさえクリアすればいい。練習場を設けるだけなら、莫大な資金は掛からないはず」

東京五輪のコンセプトを踏まえた会場計画を

 東京オリンピック・パラリンピックのコンセプトは「成熟」である。前回の「成長」とは趣を異にする。そこを踏まえた計画でなければならない。

新国立競技場の完成予想図

建設計画をめぐって議論が起きている新国立競技場の完成予想図(写真/時事)

 建設計画をめぐって議論が起きている新国立競技場を見てみよう。可動式の観客席や開閉式の屋根、天然芝を養生するための照明や送風機などが設置されるため、年間維持費は46億円にも上る見通し。これは現競技場の7倍以上だ。

 必要な施設は造らざるを得ないとして、低成長の時代、持続可能性を担保するには、運用計画に対し、今以上に厳しい視線が向けられなければならない。

 大会組織委員会が競技会場や日程を盛り込んだ基本計画をIOCに提出するのは来年の2月である。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年3月号
[特集]
環境が経済を動かす

  • ・総論 災い転じて福となせるか 持続可能な社会の成長戦略
  • ・越智 仁(三菱ケミカルホールディングス社長)
  • ・100年後を考える 世界最大級の年金基金「GPIF」
  • ・金融業界はこう動く
  • ・脱炭素化の遅れがはらむ「座礁資産」の危険性
  • ・脱炭素化で移行する「地域循環共生圏」とはどういう社会なのか!?

[Special Interview]

 中田誠司(大和証券グループ本社社長)

 「SDGsを経営戦略の根幹に据えることで企業は成長する」

[NEWS REPORT]

◆稲盛哲学を学ぶ盛和塾解散を塾生たちはどう聞いたか

◆米中経済戦争の象徴となった「ファーウェイ」強さの秘密

◆EV時代にあえてガソリンエンジンにこだわるマツダのプライドと勝算

◆それは自由か幸福か——「信用スコア」で個人の信用が数値化された世界

[特集2]関西 飛躍への序章

 大阪万博開催で始まる関西経済の成長路線

ページ上部へ戻る