政治・経済

近頃、メディアは「景気回復による人手不足が問題」だと言う。しかし、人手不足は景気に左右される一過性の問題ではなく、今後は、さらに深刻な労働者不足が予想される。冨山和彦氏が近著『なぜローカル経済から日本は甦るか』(PHP新書)で主張したのは、グローバル経済とローカル経済のふたつの経済圏の存在と分離。さらに、日本の70%のGDPと80%の雇用を占めるローカル経済の危機だ。少子高齢化が世界最速で進む日本で何が起こっているのか、地域の課題を俯瞰できなければ解決もない。日本の現状と今後を経営共創基盤の冨山氏に聞いた。20140826_Tokushu_2_01y

グローバルとローカルふたつの経済圏

日本では80%の人がローカル経済に従事

-- グローバル経済とローカル経済のふたつの経済圏があるそうですが、その違いは。

冨山 競争がグローバルで行われている産業なのか、実質的に地域、ローカルの中で完結するのか。経済の地理的な広がりで分けていて、産業の中身によっても違うわけです。

 製造業やIT産業に加え、エネルギーとか油のようなコモディティーなどがグローバル経済ですね。一方、ローカル経済というのは、サービス産業などがそうで、分かりやすく言うと、例えば東京に住んでいる限りは、東京の床屋にしか行けないわけです。また、私たちは岩手県でみちのりグループというバス会社を経営していますが、人件費が高いからといってベトナムで走らせても岩手県の人は乗れないわけです。つまりは、地域で完結する経済圏。これがローカル経済です。ですから、この先いくらグローバル化しようとしてもグローバルワンマーケットにはならないんです。グローバルワンマーケットになっていく産業領域とローカルで帰結する産業領域との間は離れるどころか実際には分断してしまっているのです。

-- トリクルダウンも起きないということですね。

冨山 かつての加工貿易立国のモデルであれば、大手組立メーカーの下に部品メーカーがぶら下がる形でしたから、世界で売れたものがローカルの部材メーカーにも大きな影響を及ぼしたのですが、今のグローバルな競争下では、世界中から参加したプレーヤーが熾烈な競争を行っています。この世界では、部材の調達も世界中から最適なものを持ってくるわけですから、国民経済という単位で見れば、この分野の経済の調子が良いからといって、国民経済のローカルの分野にこぼれ落ちるわけではありません。ですから、いくら大手製造業の業績が良くなっても大半の人には関係ないのです。

 しかし、これはしょうがないことで、日本だけの問題ではなく世界中が同じ条件のもとで戦っているからです。言うなれば、グローバル経済はワールドカップやオリンピックの舞台で戦っているようなものですね。

 日本のグローバル企業は世界的に見ても生産性が高く、プレーヤーは優秀ですから、また復活するのではないでしょうか。

-- では、ローカル経済のほうはいかがですか。

冨山 ローカルの経済圏、その多くは対面で行うようなサービス産業が主役で、規模の経済性があまり効かないので中小企業が多いんです。こちらは空洞化しようがありません。先進国ではこのローカルなサービス産業でご飯を食べる人が増えて、日本でも80%の人たちがこちら側の世界で働いています。

 ただ、労働生産性が低いという問題を抱えています。アメリカの半分でイギリスやフランスにも負けています。

高齢者需要の影響を受けやすいローカル経済

-- その原因は何ですか。

冨山 明確に言えることは中小、零細の企業数が多過ぎるということです。結局、ものすごい数の経営者がいるわけですが、現実には優秀な経営者の数は限られる。さらに、政策として、会社が潰れないようにしてきたことも大きいですね。

 日本は、過去20年間需給ギャップにあえいでいました。設備の過剰、雇用の過剰、債務の過剰で、供給力過多の状態で人間も余っていました。この時期、労働集約型のサービス産業は雇用吸収力の最後の砦でしたので、労働生産性が低いのはいいことだったんです。人が余っていたので、賃金は低いがメシを食わすことができる。社会政策的には、総動員で中小企業の破綻を止めていたことに意味があった。ある種のワークシェアリングだったんですね。

 でも、アベノミクスが始まって、第1の矢と第2の矢は需要刺激策でしたから、その結果、株価が上がって、土地の値段も上がってきました。需要も高級品から活発化してきました。円安によって企業業績も良くなった。そうなると、需給ギャップが埋まってくるわけです。

 しかも、じわじわと生産労働人口が減り続けているので、グッと需要が高まったある日「人手が足りない」となった。確かに団塊世代の大量退職で、ここ数年、急激に減った事実もあります。ただ、人が足りないのは長期的な構造要因ですから、短期的に効く手はありません。

 また、地方ではもっと前から生産労働人口の減少による人手不足は始まっていたんです。ローカルを支えるサービス産業の多くが介護士や交通機関などの公共サービスですから、需要は高齢者の数が大きく影響します。地方は高齢者が多いですから昔から人手不足で、私たちが経営する、みちのりグループではリーマンショックの時でも人手不足でした。だって、グローバル経済とは関係ないですから。トレンドは先に地方で起きているんです。それがようやく、東京でも顕在化した。

ローカル経済の再生こそが本丸

生産性向上を真剣に考えるとき

-- 今後、どうすればいいのでしょうか。

冨山 日本経済の持続的成長を促すのは、サービス産業の潜在成長力、すなわち労働者の頭数の確保と労働生産性の向上しかありません。そのためには、まず何とか生きながらえているゾンビ企業の速やかな退出と、今後増えると見込まれる人件費倒産を放っておくことです。間違っても倒産を止めちゃいけない。

 右肩上がりの高度成長時代は旺盛な外需に対して生産性を上げてきたのですが、今の右肩下がりの時代でも生産性を上げなければならないわけです。

-- 人が路頭に迷う危険性は。

冨山 ないです。今こそ、もう一度生産性を高めることを真剣に考えなければ、この国の経済成長は持続しなくなります。

 ただ、今後多くの倒産が起きてもそれが、人生の悲劇にならないようにしなければなりません。大事なことは2つあって、ひとつは、倒産すれば職場を移動しなければなりませんから、移りやすいような仕組みが必要になります。サービス産業の職の多くが総合職型ではなく運転手や保育士などのいわゆるジョブ型と言われる職です。そのためにも職業訓練と転職支援の充実が求められます。

 もうひとつが、移った先で賃金が上がるようにすることです。

 労働生産性と賃金は比例しますから、当然、労働生産性の高い会社に移れば賃金も上がるはずです。

 また、経営者もクビをくくらないでいいようにしなければなりませんね。これは、制度を変えてしまえばいい話ですけどね。

-- 海外は連帯保証制度を取ってないのですか。

冨山 連帯保証を取る商習慣はないですし、中小企業を守る政府の厚い保護も海外ではありません。会社がつぶれるのは当たり前のことですから。その代わり、欧州などは職業訓練などが充実していますよね。

-- 近い将来、日本の経済は変わっていると思いますか。

冨山 変わっていないと日本経済は大変なことになりますよ。潜在成長力は下がってくるわけですから。シニアと女性の就労参加は大事なんですが、劇的に労働力は増えませんし、既に地方ではかなりの高参加率です。

 みちのりグループも、キーワードは女性ドライバーとシニアです。既に定年制も事実上なくなっています。政府が女性の就労という前に、民間は生き残らなければなりませんから、既に活用しているわけです。

 アベノミクス第3の矢も、グローバル経済関連メニューはもうおおむね十分です。どんなに応援してもグローバルの雇用は20%ですし、GDP比は30%でしかない。もちろんグローバルも大事ですが、彼らは既に世界トップレベルで戦っています。

 むしろ、今後の本丸はローカル経済圏の再生なのです。繰り返しますが、労働生産性の向上と労働者の頭数の増加しかないんです。労働者も増やしますが、これだけでは無理なので、国内製造業の半分といわれている労働生産性を上げて、実質賃金を上げていく。この実質賃金が持続的に上がることで、消費に回って、投資に回って、さらなる生産性の向上という循環につなげていかねばなりません。

 そうしなければ、日本の未来は厳しいですよ。

(聞き手=本誌・古賀寛明 写真=佐々木伸)

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