文化・ライフ

食事と健康に関する俗説とウソ

レバーを食べれば貧血は治るのか?

 最近、患者さんから、「〇〇って、からだにいいんですよね」、「〇〇を食べると脳にいいんですよね」といった質問をよく受ける。

 薬で病気を治すよりも、まずは食事を改善し、病気の予防や治療をしたいと思うのは当然だろう。しかし、だからといって、食に対する過大な期待や、「この病気には、この食品」といった安易な考え方が横行するのもどうかと思う。

 食事が健康にどう影響するかについては、古来よりさまざまに論じられてきた。そうして生まれた「説」の中には、単なる「迷信」に類するものや、医療関係者の間違った解釈によるものも少なからず含まれている。

 例えば、貧血には鉄分を多く含むレバーが効くとされるが、レバーの鉄分は体内での吸収が悪く、レバーを食べれば貧血が治るという単純な話ではない。だが現状では、成分の吸収率については何も考慮せず、「この成分を多く含んでいるから」といった単純な理由だけで、特定食品の摂取を勧める安易な健康法がやたらと目立つ。

食品のカロリー計算もいい加減

 食品のカロリーについても、かなりいい加減だ。

 あらためて言うが、カロリーとは食品から得られるエネルギー量のこと。「1キロカロリー」は、「1キログラム」の水の温度を1度(℃)上げるのに必要なエネルギーを意味し、脂肪は1グラムで9キロカロリーのエネルギーを持ち、炭水化物とタンパク質はそれぞれ1グラムで4キロカロリーのエネルギーを持つ。ゆえに、脂肪は高カロリーとされる。

 ただし、こうした食品のカロリーが、それを煮たり焼いたりすることでどう変化するかのデータはない。つまり、先に述べた脂肪のカロリーにしても、あくまでも生の状態のカロリーであって、調理した後のカロリーではないわけだ。

 また、生野菜よりゆでた野菜のほうが腸内での吸収率は高まるが、調理によるそうした食品素材の変化も、カロリー計算では勘案されていない。さらに、食品成分の吸収率は「一緒に何を食べるか」によっても変化するが、この点もカロリー計算では無視される。

 要するに、「この食品は何カロリーだから、ダイエットに有効」といった判断は、簡単には下せないのが本当のところなのである。1つ言えるとすれば、食材は煮たり焼いたりで体内吸収率が増すので、(同量を食べるなら)温野菜よりも生野菜、煮魚より刺身を食したほうが体重は増えない、といった程度だ。

食事と健康は永遠のテーマ

信頼できるデータの不在

 実のところ、特定の食品と健康との因果関係を突き止めるのは極めて難しい。

 と言うのも、そのための疫学調査を行おうとすると、それこそ数万人規模の被験者の食事をコントロールしながら、特定の食品を食べさせ続けなければならないからだ。このような調査には巨額の資金が必要であり、膨大な手間と長い歳月がかかる。現実問題として、1つの食材のために、そのような調査を行うのはまず不可能であろう。また、大がかりな調査を行ったとしても、常に1つの真実が突き止められる保証もない。

 例えば、日本を含む各国の研究機関が、食物繊維の摂取量と大腸がんの発症率との因果関係を突き止めるべく、大がかりな疫学調査を行ってきた。ところが、その調査結果は国によって異なり、「食物繊維を多く摂取すれば、大腸がんになりにくい」とは一概に言えない状況が続いている。

 これらの調査から現時点で言えることは、「野菜を全く食べないと、大腸がんになりやすくなるが、たくさん食べればいいというわけではない」という点と、「心臓病やほかの病気の予防も考えると、やはり野菜は食べたほうがいい」という、ごく当たり前の結論でしかない。

 世界的に実施された食物繊維の疫学調査ですら、この程度の結論しか導き出せていない。その点だけを見ても、「ナスが体にいい」とか、「このサプリメントが関節の痛みにいい」といったことの証明がいかに困難であるかがご想像いただけるだろう。

食事と健康に関する医学的知見も疑うべき理由

 また、食事と健康にまつわる医学的な知見についても、「怪しいものが多い」と考えたほうが賢明と言える。なぜならば、そうした知見には自分の専門分野に話を引き込もうとする学者のバイアスがかかっているからだ。

 例えば、医学研究者の中には、「舌炎」なら「亜鉛不足」といった具合に、すべての病気を「欠乏症」に結び付けたがる向きが少なくないが、現代の食生活において、何らかの食物成分・栄養素が欠乏する可能性は低い。そんな中で、欠乏症の回避を声高に唱えても、サプリメントのPR活動にしかならない。

 食と健康は永遠のテーマであり、結論の出ていないことが非常に多い。だからこそ、もう少し冷静な判断・行動が各自に求められるのではないだろうか。

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