国際

ロシアでエボラ出血熱に関するニュースが増加

 エボラ出血熱に関する露国営ラジオ「ロシアの声」の報道が興味深い。8月2日にエボラ出血熱が流行する地域が隔離されるというニュースを伝えた。

 〈ギニア、シエラレオネ、リベリアは、エボラ出血熱の流行地となっている3カ国の国境が接する地域を隔離すると発表した。AFP通信によると、ギニアの首都コナクリで開かれたエボラ出血熱に関するサミットで、関係国の首脳らは、「発生数の70%を占めている国境をまたぐ地域に集中して、国家間レベルの重要かつ特別な措置を取ることで合意した」。これらの地域は警察や軍が隔離するという。/サミットに参加した世界保健機関(WHO)のチャン事務局長はこれより先、エボラ出血熱について、状況が悪化した場合には壊滅的な結果を招く恐れがあるとの見方を示した。/チャン事務局長によると、8月6日にWHOの緊急委員会の会議が開かれ、国際的な懸念のある公衆衛生上の緊急事態を宣言するか否かについて決定されるという。〉

 現在のロシアではアフリカ関連のニュースがメディアで報じられることはあまりない。しかし、エボラ出血熱に関するニュースだけは詳しく報じられる。8月3日の「ロシアの声」は、リベリアでエボラ出血熱に感染した米国人医師が治療のために米国に帰国したことについてこう報じている。

〈2日、西アフリカでエボラ出血熱に感染した米国人医師ケント・ブラッドリー氏(33歳)が、ジョージア州アトランタ郊外のドビンズ空軍予備役基地に到着した。彼は、非常に強い感染力を持ち致死率の高いこの病気を、米国内で治療する初めてのケースとなる。/今後治療に当たるのは、アトランタにあるエモリー大学の専門家達だ。ブラッドリー医師は、病人を隔離する特別設備のあるチャーター機で米国に搬送された。また空軍予備役基地から大学付属病院へは、警察護衛のもと衛生機器の整ったバスで運ばれた。なおバスから病室へは、感染を予防する特別服を着て、本人が自力で歩いて向かった。/ブラッドリー医師は、米国の民間慈善団体「サマリタンズ・パース」などがリベリアで運営するエボラ出血熱の治療センターで活動中、この病気に感染した。〉

 

 報道だけではない。ロシア政府自体がこの問題に深く関与し始めている。8月3日の「ロシアの声」の報道を引用する。

 〈ロシア保健省の専門家グループが、西アフリカで猛威をふるうエボラ出血熱と戦う地元医師達を支援するため、ギニアに到着した。保健省のオレグ・サラガイ報道官が伝えた。/それによれば、ロシア保健省とロシア消費監督庁(連邦消費者権利擁護・福祉分野監督庁)の指示により、ギニアに派遣されたのは、ヴィクトル・マレーエフ・アカデミー会員、ミハイル・シチェルカノフ教授といったロシアを代表するウイルス問題の専門達だ。両者は、エボラ出血熱が発生し急激に蔓延した原因を調査する上で、豊かな経験を持っている。/エボラ熱にはワクチンが無いため、1300人を越える感染者のうち、既に729人が亡くなった。この病気の死亡率は、90%に達する可能性があるが、今のところそれは55%に抑えられている。〉

エボラ出血熱が生物兵器として使用される恐れ

 ヴィクトル・ヴァシーリエヴィッチ・マレーエフ教授(1940年7月22日生まれ)は、ロシアにおける感染症研究の第一人者だ。ソ連時代から保健省感染症中央研究所で勤務した。

 インテリジェンスの世界で、感染症の予防、治療と生物兵器開発は、メダルの表と裏の関係にある。感染症中央研究所は、軍の生物兵器開発とも深く関係している研究所だ。

 仮にどこかの国の研究機関がエボラ出血熱に対して有効なワクチンの開発に成功したとすれば、その国の軍隊は、エボラ出血熱を生物兵器として使用することが可能になる(自国軍の兵士には予防接種をしておけばよい)。

 また、イラク北部の油田地帯を占拠している「イスラーム国」(IS)やハマス、あるいは北アフリカで影響力を拡大している「マグレブのアルカイダ」などのイスラーム原理主義過激派が、テロの手段としてエボラ出血熱を用いる可能性も排除されない。

 エボラ出血熱の潜伏期間は2〜21日間である。自爆テロリストがエボラ出血熱に感染し、潜伏期間中に欧州や米国に渡航し、そこで死亡した場合、感染が急速に拡大する危険がある。あるいは、エボラ出血熱に感染した血液や体液を注射器に入れれば、それ自体が生物兵器になる。

 エボラ出血熱が生物兵器として用いられる危険を強く意識しているからロシアはこの感染症に有効なワクチンの研究に力を入れているのだと筆者は見ている。米露関係の悪化で、エボラ出血熱の予防、治療に関して、感染症研究の分野(裏返して言えば生物兵器開発の分野)で最も進んでいるこの2国が、全面協力を行うにはほど遠い。

 このような状況がテロリストに付け入る隙を与えることを強く懸念している。

 

筆者の記事一覧はこちら

【グローバルニュースの深層】記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る