政治・経済

武闘派政治家 梶山静六が見せた意外な素顔

 「私が何で政治家になったと思う?」

 奥の部屋から居間へ出てきたとたん、私にそう問い掛けてきたのは当時自民党幹事長だった梶山静六氏。今から約20年も前のことだ。

イラスト

イラスト/のり

 梶山氏の番記者だった私は、東京・九段の議員宿舎でたまたま2人きりになる時間があった。

 奥の部屋には、既にこの世にはいない梶山氏の母親の写真が置いてあった。秘書によると、毎晩宿舎に帰宅した後、梶山氏はその写真に向かって今日1日を報告するのが日課だという。

 つい今しがたも、いつもどおりその部屋で親子2人の無言の会話の時間を過ごしたようだった。だからこそ、出てきてすぐ私にそんな話題を振ったのだろう。

 「ずっと母への思いがあるんだな。私が政治家になったのは、平和のために自分も何かやりたいと思ったからなんだ」

 梶山氏といえば、その政治手法から、「武闘派」「剛腕」「乱世の梶山」「国対のプロ」などの代名詞があった。一方政策面でも周辺事態の重要性や憲法改正の必要性も説いていた。政治家としての全体像は、とてもじゃないが、「穏やかな平和主義者」のイメージとは懸け離れていた。

 だからこそ、梶山氏の口をついて出た話は私には意外であり強烈な印象を残した。

 「私は10人兄弟。母は女手一つで私たちを育てた。その苦労は相当なものだったと思う。母の一番の思い出は、兄が戦死した時に三日三晩泣き通しだったあの姿。その時、『貧しくても粗食でもいいから、一家そろって食事をすること、ささやかだがそれが幸せなんじゃないか。兄を母から奪った戦争は絶対に嫌だなあ』と思った。もう二度とあの戦争に戻っちゃならない。戦争はダメだ」

 梶山氏自身は、中学を出た後、陸軍航空士官学校へ進み19歳で終戦を迎えた。あと半年戦争が続いていたら、特攻隊員として戦死していた。

 梶山氏は、幹事長の後、橋本龍太郎内閣で大物官房長官として力を発揮。その後自民党総裁選にも出馬したが、交通事故などをきっかけに体調を崩し、2000年4月に引退、その2カ月後に死去した。通夜の日、私は穏やかな表情で横たわっている梶山氏に手を合わせた後、夫人と話した。

 「病気のこともあってそう長くないと分かってから、梶山がどうしてもというので一緒に行ったのが、特攻隊が出陣して行った鹿児島県の知覧飛行場です。特攻隊員たちの展示や慰霊碑があって、私たちも灯篭を納めさせていただきました。主人は向こうでずっと声を上げて泣いていました。武闘派とか言われていましたが、主人は戦争は悲惨だ、絶対やっちゃいかん、というのが口癖でした」

梶山静六が感じる抜け落ちた議論に漂う危うさ

 梶山氏はPKO法や周辺事態法、沖縄の米軍基地問題など日本の安全保障については「時代とともに新たに対応していかなくちゃなんない」と語り、法整備も含め積極的だった。ところが、梶山氏はそう言った後に続けて必ずこう付け加えていた。

 「しかし、法整備したからすぐそれを行使しようというんじゃない。平和のために政治がやらなきゃなんないのは、同時にそれを行使しないためには今度は何ができるか、どんな外交や政策をやるべきかを為政者が提案して議論して実行することなんだ。セット論だな。行使できるような状態にするが行使しないために同時に手を打つ︱︱、それが平和のために政治がやるべきことなんだ」

 激変する国際情勢と安全保障には政治として責任を持って対応していくが、同時に二度と戦争はしないと決めたこともまた揺るがない。安全保障改革そのものが目的ではく、目的は「平和」だ。改革をやるなら常にセットでそれを行使しないでいいように何かを考える。それが政治だ--、と。

 ある派閥領袖は言う。

 「これまでは、戦争を体験したベテラン議員たちが、血気盛んな若手の安全保障論に対して、いつも自らの体験や梶山さんの言うセット論をもって慎重さを求めてきた。今回の集団的自衛権問題をめぐっては、片方の『行使しなくていいための外交論や日本の役割』についての議論が抜け落ちているんじゃないか。そこに軽さや危うさを感じる」

 集団的自衛権はこれから法案が作られて国会に提出され、そこから初めて国民的議論がスタートする。

 前出領袖は「極端なことを言えば、例えば今日1日集団的自衛権の中身について集中審議するなら、明日は1日中行使しなくていいために外交政策を集中審議したっていい--、そんな姿こそが、自民党らしい懐の深い平和論議だと思う」と話す。

 そんな国会論議を望む。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る