文化・ライフ

W杯で誤審防止に効果を発揮したGLT

 人間の目はごまかせても、科学の目は欺けない。これまでの大会に比べて〝誤審〟が減ったのは事実だろう。

 ドイツの4回目の優勝で幕を閉じたブラジルW杯。ピッチの〝影の主役〟は今大会から導入された「ゴールライン・テクノロジー(GLT)」だった。

 1試合における総得点の少ないサッカーにおいて、放った1本1本のシュートがゴールと認められるか否かは、そのまま勝敗に直結する。

 そこで微妙なシュートを判定するために導入されたのが、先のシステムだ。グループリーグE組第1節のフランス対ホンジュラス戦でGLTは早くも効果を発揮する。

 フランスが1対0とリードして迎えた後半3分、フランスのFWカリム・ベンゼマが放ったシュートは右ポストに当たってはね返った。

 さらには、それがホンジュラスのGKノエル・バジャダレスの左手に当たり、インゴールへとこぼれた。それをバジャダレスは左手で引き戻した。

 際どい判定だったが、主審は「ノーゴール」。ここで腕時計が振動した。受信機の表示を確認した主審は一転、ゴールを認めた。つまりGKのオウンゴールという判定だ。

ブラジルW杯のGLTは14台の高性能カメラを採用

 今大会で採用されたGLT「ゴール・コントロール4D」は計14台の高性能カメラで、いろいろな角度からボールを追う。ゴールラインを通過すると1秒以内に受信機が振動し、「GOAL」と表示される。これは13年コンフェデレーションズ杯でも採用された。

 オウンゴールと判定されたことで〝幻のゴール〟となってしまったが、貴重な2点目に貢献したベンゼマは、試合後、満足そうにこう語った。

 「サッカーではシュートがラインを越えたかどうか分からない場合がしばしばある。GLTがあってよかった」

 今回、導入されたGLTは〝死の組〟といわれたD組で優勝経験のあるイタリアやウルグアイを撃破し、大会の〝台風の目〟となったコスタリカの躍進をも支えた。

 グループリーグ第2節のイタリア戦。スコアレスで迎えた前半44分、コスタリカのFWブライアン・ルイスのヘディングシュートはクロスバーに当たって真下に落ちた。

 インゴールか否か。肉眼では微妙に映ったが、主審はすぐにゴールと判定した。腕に付けた受信機に「GOAL」の文字が躍ったからである。

 結局、この1点を守り切ったコスタリカは24年ぶり、2度目の決勝トーナメントに進出。ベスト8を争うギリシャ戦にも勝利し、ただでさえ熱狂的なサポーターを狂喜乱舞させた。

GLT導入のきっかけとなった重大な誤審

 GLT導入の機運が加速したのは前回の南アフリカ大会における〝誤審〟がきっかけだった。

 ベスト8進出をかけたドイツ対イングランド戦。イングランドが0対2から1点を返した直後の前半38分、MFフランク・ランパードが放ったシュートはクロスバーを叩き、ゴールの内側に落ちてバウンドした。

 だがウルグアイ人の主審はゴールを認めず、流れは再びドイツに傾いた。後半、前がかりになったイングランドに対し、ドイツはカウンターアタックを仕掛けて2点を追加。4対1で強敵を退けた。

 終わってみれば3点もの大差がついたものの、もしゴールが決まって2対2になっていたら試合は、その後、どう転んだか分からない。

 大会終了後、それまで新技術導入に否定的だったFIFAのゼップ・ブラッター会長は「(新技術導入を)再検討しないと道理に合わない」と発言し、日本開催の12年クラブW杯で初めて科学の目が採用されたのである。

GLTは誤審から審判を救う味方

 もっとも、サッカーにかかわるすべての人間がGLTに賛成しているわけではない。

 あるメディア関係者は、声を潜めてこう語った。

 「機械がゴールを判定するというのは何だか味気ないね。言うなれば〝誤審〟もサッカーの一部。昔に戻したほうがいいんじゃないか……」

 古き良き時代のサッカーへの郷愁も、分からないではない。しかし、個々のスピードやパワー、テクニックは言うにおよばず、戦術やスタイルも日々、進化を遂げているサッカーにおいて、審判が肉眼ですべてを判断するのは容易ではない。

 むしろ、科学の目は審判を誤審から救出していると考えるべきなのだろう。

 つまりGLTは審判の敵ではなく味方なのだ、と。

 こうした状況を踏まえ、南アフリカ大会、ブラジル大会で主審を務めた西村雄一は、次のような感想を口にした。

 「(映像技術が)より発達していくと、われわれもそれに対処していかないといけない」

 科学は日進月歩である。だが、それを使いこなすのは人間であり、振り落とされるわけにはいかない。

 

(にのみや・せいじゅん)1960年愛媛県生まれ。スポーツ紙、流通紙記者を経て、スポーツジャーナリストとして独立。『勝者の思考法』『スポーツ名勝負物語』『天才たちのプロ野球』『プロ野球の職人たち』『プロ野球「衝撃の昭和史」』など著書多数。HP「スポーツコミュニケーションズ」が連日更新中。最新刊は『広島カープ最強のベストナイン』。

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