マネジメント

 日本有数のタオルの産地として知られる愛媛県今治市。しかし、高品質のブランドとして認知されだしたのは、つい最近の話だ。地場の産業が、いかに危機と向き合い、変革をおこしたのか。四国タオル工業組合の近藤聖司理事長に話を聞いた。

生産量も企業数5分の1になったと語る近藤聖司氏

 今治タオルの歴史を辿ると明治時代までさかのぼります。大阪で生まれた日本のタオル産業は、比較的早く今治に入ってきました。この地は、キリスト教会が四国で初めて建てられるなど進取の土地柄ですし、何より豊富な水と雨が少なく温暖な気候が繊維産業に向いていたんですね。加えて、瀬戸内海の真ん中という立地の良さもあって順調に発展していきました。

近藤聖司

近藤聖司(こんどう・せいじ)
1957年生まれ。89年に家業の近藤繊維工業(現・コンテックス)に入社。2012年に代表取締役社長に。13年より四国タオル工業組合理事長に就任。

 戦後も、国内需要の順調な伸びもありまして、バブル期の1991年に生産のピークを迎えました。国内で14万㌧の消費があり、国内生産はそのうち86%を占めていました。当時は多くの会社が羽振り良く、今治の街も潤っていましたね。

 ところが、海外産、当時は中国でつくられた安価な製品が輸出を伸ばしてきたことで、販売単価も下がり、今治の企業でも生産工場を中国に移していくケースが見られ始めました。ピーク時には今治だけでも生産量が5万㌧ありましたが、落ち込み方は激しく、最も減少した2009年には、1万㌧を切るまでになっていました。企業数も500社近くあったものが117社にまで減少したのです。

 安い人件費の上に設備投資を積極的に行う中国は、最新の機械で織っており、まさに脅威となっていました。そこで、2001年に政府にセーフガードの要請をお願いしました。それは、同時に海外へ進出した今治の企業製品の輸入も止めてしまうことですから、業界内でもギクシャクした雰囲気がありましたね。

 その後、セーフガードの要請が却下され、06年にこれではいかんと当時の理事長であった藤高豊文さんが立ち上がり、経済産業省の主導する「ジャパンブランド育成支援事業」の指定を受け、新たな道を模索することになったのです。

近藤聖司氏の思い 「知ってもらう」から始まる

 06年に四国タオル工業組合と今治商工会議所、今治市が連携し「今治タオルプロジェクト」を立ち上げました。その流れで総合プロデューサーに就任していただいたのが佐藤可士和さんです。実際に、工場やまわりの自然などバックグラウンドまで見てもらって生まれたのが、ブランドマークです。佐藤さんから言われたのは、どんなに良くても「知ってもらわなければ意味がない」ということ。メディアへのプロモーションも積極的に行いましたし、07年度からは、タオルソムリエ資格試験を行い、現在までに1千人以上のタオルソムリエが誕生しています。

 もちろん、タオルの品質を測るマニュアルも策定し、厳格な基準を設けました。

 今治タオルの最大の特徴である吸水性は、沈降法という実験で、今まで60秒以内で許可していたものを5秒以内とする厳しい基準に引き上げました。同様に安全性も、ギフトへの用途が多くありますから、ホルムアルデヒド含有量の基準を従来の乳幼児用の基準よりも厳しい数値に設定しています。ほかにも、色落ちを測る堅ろう度など多くの細かい基準があり、定期的に抜き打ち検査を行って、基準に満たないと警告を発し、改善できない場合は、ブランドタグを外さなければならないのです。

 また、各企業も新たな需要を創出しようと新製品づくりに励みました。その中からタオルハンカチやタオルマフラーなどのヒット商品も出てきました。コストの面では海外製品に太刀打ちできませんから、独自の方向性を探したわけです。製品のストーリー性や安全性など、今治らしさを品質や材料に込めてブランドを育てていきましたね。

 ブランド価値が生まれたことで、単価も上がりましたし、販売先に対しての交渉力も上がりました。商売面では10年前とは隔世の感がありますね。

 ただ、これからが勝負だとも思っています。今、力を入れているのが人材育成です。採用もままならない時期が続きましたから人材が育っていないんですね。機械は進歩しましたが、タオルは複雑な織物です。基本を理解していなければいいものは織れません。そのため検定試験も復活させています。

 ブランド化によって、産地の生産量は20%伸びましたが、日本全体で考えればわずか2%の伸びでしかありません。それでも、今治の人たちが「おらが町のタオル」を応援してくれるようになったのです。それが、大きいのだと思います。

 こういったケースが増えることで、日本はもっと元気になるのではないでしょうか。(談)

(文=本誌・古賀寛明 写真=佐藤元樹)

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