マネジメント

 メルセデス・ベンツ。誰もが知っている高級車ブランドが今、新しいことにどんどん挑戦している。クルマを売らないショールーム、女子プロゴルファーのサポート、昨年は日本における年間新車販売台数の新記録を樹立した。同社初の日本人社長は、日本での展開をどのように進めていくのか。

 

上野金太郎・メルセデス・ベンツ日本社長プロフィール

上野金太郎

上野金太郎(うえの・きんたろう)1964年東京都生まれ。87年早稲田大学社会学部卒業後、メルセデス・ベンツ日本入社。広報部、社長室長を経て2003年1月ダイムラー・クライスラー日本取締役 商用車部門担当、同年4月常務取締役商用車部門担当、07年6月副社長 メルセデス・カーグループ 営業/マーケティング部門担当、07年11月メルセデス・ベンツ日本副社長 営業/マーケティング部門担当、12年12月社長兼CEO 営業/マーケティング担当、13年3月社長兼CEO。

 

メルセデス・ベンツ日本が過去最高の新車販売を達成した背景

 

コンパクトカーが過去最高の販売を牽引

-- 7月11日に、Cクラスセダンをフルモデルチェンジしましたね。

上野 このところAクラスをベースにした、私どもで言う小型車種が好調です。基幹の新型Cクラスを投入したことで底辺がさらに広がりました。このほか、発売済みのB、CLA、小型SUV(スポーツ多目的車)のGLAクラスが牽引車となっています。

-- 2013年に5万3731台と過去最高の新車販売台数を達成した理由を、どう分析していますか。

上野 200万〜300万円台の小型車種に、競合他社と戦い得るものが入って来たということが挙げられます。

 この顧客層は経験値があまりなかったため、マーケティング、インフラの整備、サービスやセールス体制などの準備にかなり時間をかけました。

 また東京・六本木にある「メルセデス・ベンツ コネクション」は〝クルマを売らないショールーム〟として世界に先駆けた日本発の試みで、11年7月に始めたものです。本格的なカフェやレストランが中心で、メルセデスのオーナーではない方も気軽に立ち寄れる情報発信拠点という位置付けです。試乗もでき、興味を持っていただいたお客さまには販売店を紹介しています。

 当初、ドイツの本社は批判的でしたが、粘り強く交渉を重ね、実現に至りました。

 同じ六本木には12月までの期間限定で「メルセデス ミー」という新拠点もオープンしています。最新車種を展示するほか、人気のポップコーン店との連携、交流サイトと組んだイベントも行っています。これらでメルセデス・ベンツはちょっと敷居が高いと思っていた方たちに、新たな接点作りができたと思っています。

 メルセデス ミーはドイツのハンブルクにも同様の施設ができており、今後、世界40カ所でも展開して行く予定です。

セールスもサービスの専門性を高めつつ役割分担も明確に

「メルセデス・ベンツ コネクション」

東京・六本木の「メルセデス・ベンツ コネクション」

-- 小型車に注力することで、既存の高額・大型車種の顧客層へのサービスが希薄になることはなかったのですか。

上野 懸念していたのはそこで、コンパクトカーと大型車種との二丁掛けでやっていかなくてはならない難しさがありました。しかし、既存のお客さまに新規の方たちを上積みする形になっています。

 クルマを売るプロ集団として、お客さまと出会うことさえできれば、商談をして販売するというところまで期待通りに販売店さんが動いていただけたと思います。各販売店さんも、これまで1カ所で6、7台平均だったものを、改装をして10車種くらいを展示する形にしているところが増えています。クルマは、見ていただいた後は、やはり実際に乗って試していただくことが重要ですからね。

 販売台数が増えたのは、セールスの数を増やしたわけではなく、1人当たりの販売効率を高めたからです。

 海外では1人当たり月間5、6台、中には10台、20台と販売される方もたくさんいらっしゃいます。欧米では販売する人、納車をする人、サービスをする人という具合に分担制が明確になっているためです。

 日本ではセールスが商談から納車はもとより、サービスの引き取りまで幅広く受け持つ傾向にありました。日本特有の車庫証明制度とか、ファイナンスの部分まで一手に受けるので、諸外国に比べて効率が悪いと言われてきました。

 だがスキルとしてはセールスもサービスも最高水準です。各担当の専門性を高めながら役割分担をより明確にしていきます。

 

メルセデス・ベンツの日本市場における取組み

 

日本での売りやすさを追求し販売効率を上げる

-- 負荷が高まったと。

上野 さまざまなセールスツールやお客さまとの接点を創造することで、売りやすさや分かりやすさを提供しています。訪問販売から、ショールームセールスに若干比重がシフトし、1件当たりの商談はかなり簡潔にできるようになりました。

 パッケージ化、例えばメルセデス・ケアといって3年間は消耗品も含めたアフターサービスが標準で付けてあるので、ほとんど費用が掛かりません。オートローンやリースでパッケージして月額訴求することで、お客さまにより安心して購入いただける環境づくりもしています。

「インテリジェントドライブ」のデモ

最先端の安全性を体験できる「インテリジェントドライブ」のデモ。並走する後続車がいるにもかかわらず車線変更しようとしたため、サイドミラーには赤い点滅サインが点灯してドライバーに危険を知らせる

-- 安全性への取り組みは。

上野 エアバッグ、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム=急ブレーキなどによる車輪ロック低減装置)など、これまで数多くの世界初となる安全性と最新のテクノロジーを提供してきました。最先端の安全技術であるレーダーセーフティは、衝突回避のための歩行者検知機能付ブレーキ、最適な車間距離を自動でキープし、車線変更もサポートする機能が備わっています。この他、環境技術にも積極的に取り組んでいます。

マーケティングの3本の柱

-- 今後の取り組みはどのようなものをお考えですか。

上野 日本というマーケットで、まだまだいろいろなことをやってみたいと思っています。お客さまの購買促進のため、販売店さんを手助けする接点作りを積極的に展開していきたい。

 マーケティングでは3本の柱があり、ひとつはクルマのレースです。今年はF1で結構いい成績を残しており、ここではハイブリッドの技術を最大限に活用して行っています。国内レースも支援しています。

 またメルセデス・ベンツのオーナーはゴルフ愛好家が多いため、2年ほど前から日本女子プロゴルフ協会(LPGA)とオフィシャルパートナー契約を結んでいます。LPGAツアー競技の各大会での順位や出場ラウンド数をポイントに換算し、年間を通じての総合的な活躍度を評価する「メルセデス・ランキング」を設けています。

 3つ目は、メルセデス・ベンツファッション・ウィーク東京。東京コレクションとして長年親しまれてきたものですが、11年から当社がスポンサーになり生まれ変わりました。毎年3月と10月に開催し、海外ブランドを含む多数のブランドが最新のクリエーションを国内外に発信しています。ファッションは日本も強い分野なので、日本の立場から若い人たちが活躍できる場として支援することにしました。

 

メルセデス・ベンツに日本の強みを融合させる

 

上野金太郎-- 日本発を大事にしているということですね。

上野 例えば、Aクラス導入の時にはアニメーションを使いました。日本の強みをメルセデスとうまく融合させるようなマーケティング手法を模索した結果です。

 メルセデス・ベンツ コネクションなども、日本のおもてなしを大事にして、いかにプレッシャーフリーで気軽に楽しんでいただけるかを考えてのものです。海外のものを持って来て焼き直すのではなく、日本人の目線、感覚を大事にするとともに、グローバル企業としての視点も大事にしています。

 日本法人は外国で育った日本の方や、帰国子女だけでなく、日本にいる外国人の方も積極的に採用しています。国籍に関係なく、いいと思うものはどんどん取り入れて行きたいと思っています。

 昨年、販売台数でいい成績を残したからといって、顧客満足度が落ちてしまっては何の意味もありません。日本市場は全体の4割が私どもでは扱っていない軽自動車です。残りの6割の中でも、限られた高価格帯の激戦区で戦っています。

 そこで選ばれるブランドであり続けるためには、商品力、サービス体制はもちろん、人間味が備わっていないといけません。さらなるブランド力の向上に向けて、努力を重ねていきます。

(聞き手=本誌編集委員・榎本正義 写真=佐々木 伸)

 

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