マネジメント

中川淳氏の戦略 売れる商品を作るよりブランドの認知が先決

中川 淳

中川 淳(なかがわ・じゅん)
1974年生まれ。京都大学法学部卒業後、2000年富士通入社。02年に中川政七商店に入社し、常務取締役として「遊 中川」の直営店出店を始め、工芸をベースにしたSPA業態を確立する。08年に十三代社長に就任。新ブランド「粋更kisara」「中川政七商店」などを立ち上げる。09年業界特化型の経営コンサルティング事業を開始。著書に『奈良の小さな会社が表参道ヒルズに店を出すまでの道のり。』(日経BP社)など。

 高級麻織物「奈良さらし」の製法を守り、手績み手織り麻を扱う中川政七商店。1716年創業とその歴史は古く、現在では麻製品のほか、生活雑貨、茶道具の製造、卸、小売りも行い、東京のKITTE、東京ミッドタウンなど人気商業施設に全国の工芸品を取り揃えたショップを次々とオープンさせている。

 そんな同社も12年前、生活雑貨部門が赤字に陥っていた。これを立て直したのが、現社長の中川淳氏だ。中川氏は新卒で富士通に入社。営業マンとして活躍していたが、新たなステップを求めて2002年、父親が経営する中川政七商店に転職。当時の年商は12億円、「会社の体をなしていなかった」赤字の雑貨部門の改革に乗り出した。経理の方法、製造管理など業務フローを整え、ブランディングに取り掛かった。手本となる企業はなく、ビジネス書を片手に、手探りに進んだ。中川氏がブランドの重要性に注目した理由は、「売れる商品を考えろ」という父の言葉への違和感だった。

 「例えば僕がモノの買う側に立った時、商品を見る前からそのブランドの商品が第1選択肢になります。それはブランドのイメージを持っているからです。売れる商品を作るより、ブランドとして認知されることが先決だと考えました」

 そこで中川氏は自社ブランドとして生活雑貨を製造・販売している「遊 中川」のリブランディングや新ブランドの立ち上げを行う。自社商品の良さを消費者に直接届けるために、小売りにも乗り出し、工芸品メーカーとしては珍しいSPA業態を築き上げた

ブランディングは経営とイコールと考える中川淳氏

 今では6つのブランドを抱え、年間売り上げは41億円を超えた。その経営手法に注目が集まる中、ブランディングの先導役として奮闘してきた中川氏には、世の中の企業ブランディングにおける「デザイン」には誤解があると感じていた。

 「デザインを良くすることがブランディングだと思われがちですが、それは違います。デザインは手段です。買い物をしに来たお客さんは、商品の裏側にある『そのブランドがどうありたいか』といった思いや考えなどに興味はありません。その中でいかに考えを伝えるかという時に視覚的な情報は大切ですから、商品はもちろん、店内デザイン、ロゴなど、自分たちの伝えたいことを伝えるための手助けとして、デザインにも気を配るのです」

 中川氏は会社にまつわるすべての情報によって消費者のイメージができ、そのイメージこそがブランドだと定義する。ブランドを作り上げる「ブランディング」は経営とイコールであり、マーケティングの一手法ではないと強調する。ブランドをマネジメントする中で、中川氏は経営者が注意すべき2点を挙げた。

 1つ目はデザインをはじめ経営のすべてを整え、ブランドを築くことはスタート地点でしかないということだ。ブランドの意味を社内で共有し、継続、オペレーションすることが重要で、社内体制や教育などにも注意を払う必要がある。この点を経営者は見逃す場合がある。

 「社内のコミュニケーションは大切です。会社やブランドとしての存在意義やビジョンを言語化して共有し、それを社員全員で体現していく。商品デザインはもちろん、人の振る舞いもさらに重要です。ショップスタッフの振る舞いで、そのブランドのイメージの大きな部分が左右されます。これらすべてを同列に考えています」

中川 淳 同社において、6つのブランドを継続させる上で重要な鍵となったのがブランドマネジャー(BM)の存在だ。各ブランドのBMは商品政策や製造指示、品質チェックなどブランド運営のすべてを見渡し、ブランドの方向性をコントロールする。効率を上げるために縦割りの体制は仕方ないが、生産管理や商品企画、営業を横断的にとらえる。

 「当社のブランドマネジャーは顔が見えます。ブランドの考え方や背景、目指すべきところというのは、価値観です。価値観は描きにくいものなので、人に置き換えると分かりやすい。BMがそのブランドの象徴となるという役割も果たしています」

 もう1つは経営者自身のブランド、デザインに対する「リテラシー」である。企業の在り方、存在意義などを表現する上でデザインやクリエイターを利用することは必要だが、「クリエイターにお願いすれば経営改革になる」という、トップの経営ジャッジ抜きの改革に至ることも多い。

 「クリエイターを手段として使わなければいけません。これまで、クリエイティブディレクターの水野学さんと仕事をしてきましたが、彼自身が経営リテラシーを持っており、僕と対等に話ができます。だからこそわれわれの意図したものをデザインしていただけるのです」

 クリエイターと対等に話をするためには経営者のブランド、デザインのリテラシーが必要なのだ。それを身に付けるためには、経営者自らが学び、知識を持つことが必要だと指摘する。

 「クリエイティブの側面はセンスだから学べないと片付けられがちです。しかし、デザインやセンスも、本や雑誌など徹底的に見て知識を持ち、訓練すれば理解できます。僕自身も訓練しました。ただ、理解と実行は違うので、専門家であるクリエイターにフォローしていただき、実行の際は任せる。そこは自分のセンスを過信してはいけないと考えています」

「日本の工芸を元気に」達成へ現在地は1合目と語る中川淳氏

 中川氏は社長として会社全体のブランドマネジメントを行い、同社のビジョンである「日本の工芸を元気にする!」に向けて、社内の6つブランドをまとめている。同社の経営とブランドマネジメントのノウハウを他の工芸関連企業に伝授するため、コンサルティングも開始。これまで15社以上に携わり、ブランドの立ち上げや流通の助言などを行った。ヒット商品を出すようなメーカーも、その中から生まれてきている。

 「当社はコンサル会社ではありません。実業があり、自分たちのブランドを持って日々オペレーションして、試行錯誤してマネジメントが磨かれているからこそ、他社のお手伝いができるのです。一方で社内のブランド数は少ないほどいいと思っているので、他社のお手伝いをすることで、ブランド立ち上げのスキルも磨かれました」

 改革を始めて12年、コンサルティング業務にも手応えを感じている一方で、中川氏はビジョンに対して1合目にも達していないとする。「コンサルによって生み出した産地の1番星がさらに輝きを放ち、産地にそれを波及させなければいけない」と中川氏は話す。工芸品市場は世界的にも縮小傾向にある。その中で生き残るため、創業300年を目前にした挑戦は続く。

 

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