マネジメント

 今では一般的に飲まれているペットボトルや缶などの緑茶飲料だが、先鞭を付けたのは伊藤園で、1984年に「缶入り煎茶」を発明した。翌年の発売当初は苦戦を強いられたが、緑茶飲料を一大市場に発展させた最大の要因は、ブランディングにあった。同社の「お〜いお茶」は、競争が激化する茶飲料業界の中でもシェアナンバーワンのトップブランドの座を堅持している。

伊藤園の戦略 お茶が本来持つ価値をブランドに込める

お〜いお茶 緑茶

お〜いお茶 緑茶

 1960年代から70年代にかけて、日本人の食文化の変化に伴いお茶の需要が衰退していった。伊藤園としては茶業界を活性化させたいという想いがあり、緑茶飲料の開発を目指した。また、お茶は急須で入れて飲むインドア商品であったため、缶入りのお茶を開発して、アウトドアの需要を取り込もうとした。開発は非常に難航したが、伊藤園は10年の開発期間を経て、84年に緑茶飲料を発明。翌年に世界初の緑茶飲料として「缶入り煎茶」が誕生した。

 業界を活性化させたいという伊藤園の想いに反して、缶入り煎茶はなかなか売り上げが伸びなかった。当時は100円で販売していたが、そもそもお金を出してお茶を買うという習慣がなく、緑茶飲料の価値が認められていなかった。また、煎茶(せんちゃ)という商品名も問題になった。茶業界では緑茶を煎茶と表現していたが、一般消費者にとってはなじみが薄い言葉だったため、缶入り煎茶の中身が理解されにくかった。そこで分かりやすく商品の価値を端的に表現しなければいけないとの思いから、89年に商品名を「お〜いお茶」に変更した。

 当時から製品開発に携わった、専務取締役の社三雄氏は次のように語る。

 「ブランドのネーミングを創る時に留意したのは、どのように価値観を伝えるかということ。100円で買ってもらえるように、お茶の良さをどのように表現するかで悩みました」

 また、お茶に対するイメージを調べると、家庭的、自然な感じ、健康に良い、が3本柱になっていた。これをブランド価値のキーワードととらえた。そこで、まず前面に打ち出したのが家庭的というイメージだった。そして、茶葉商品のテレビCMで俳優の島田正吾氏が呼びかける「お〜いお茶」のフレーズが家庭的な雰囲気にピッタリ合うということから、商品名にそのまま採用した。

一貫したメッセージと背景となる技術の追求をする伊藤園

「お〜いお茶」専用茶畑

伊藤園の茶産地育成事業 大分県の「お〜いお茶」専用茶畑

 ブランド展開では、消費者へのメッセージとして、感性に訴える情緒的要素と、それを裏付けるエビデンス的要素が必要となる。

 「お〜いお茶」の場合、情緒的要素は、日本茶の価値でもある「家庭的・自然な味わい」ということになる。家庭的という部分はブランド名へ、自然な味わいはキャッチコピーで表している。現在の広告コピーは「お茶の葉のおいしさが生きている」となっている。この文言は今後多少なりとも変わるかもしれないが、このフレーズに込められた「自然な味わい」という意味合いは変わらないという。

 そしてその背景にあるエビデンス的要素として、お茶の品質を追求している。その1つがまず原料茶の素材にこだわること。良質なお茶の葉を安定的に確保するために茶農家と契約したり、遊休農地を専用茶畑に転換する茶産地育成事業を展開。飲料にした時に最適なお茶の葉を追求して作られた専用茶葉が、「お〜いお茶」には使われている。

 また、お茶の葉の持ち味を生かし、おいしさを引き出す製法として、仕上げの火入れの技術を進化させている。そして、急須と同じ方法で抽出することで、「急須品質」の味わいを実現している。

 「お〜いお茶」では発売以来、これらのことを一貫して実行してきた。「軸がぶれないことが大事」と社専務は語る。これにより、緑茶飲料を開拓し、現在までトップシェアを堅持している。

 今年は緑茶飲料発明からちょうど30年ということで、伊藤園では記念の数量限定製品を企画している。この企画商品では、これまで培ってきた技術を最大限に駆使して最高においしいものを作ったらどうなるかを示すという。4月に第1弾として、新茶の醍醐味を余すことなく盛り込んだ「お〜いお茶 大走り新茶」を発売した。第2弾として10月に異なるコンセプトの製品を発売する予定。

 社専務の意向では、今後も年に1度、自分たちの考える最高品質を実現する企画商品を製品化したいという。これにより技術の研鑚を進め全体の格を高めていくことで、ブランドの価値をさらに高めていく構えだ。

(文=本誌・村田晋一郎)

 
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