マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

ベネッセ情報漏洩事件で企業は対策を再考

 世間を騒然とさせたベネッセの顧客情報漏洩事件--この事件で漏洩した個人情報は2260万件に上るとされ、国内史上最悪・最大級の情報漏洩に数えられます。

 本連載の第4回でも個人情報保護について取り上げましたが、その際はITシステム上の施策を中心に解説しました。今回はベネッセ事件を基に「契約関係から見る情報漏洩対策のポイント」について説明します。

 情報漏洩防止策と言うと、すぐに「どういったITシステムを構築すべきか」の話になりがちですが、ベネッセ事件で情報漏洩の原因を作ったのは、ITシステムの不出来ではなく、外注業者管理の不出来です。

 ですから、情報漏洩を防ぐITの仕組みをどう作るかではなく、「社外の組織・人との関係をどう律するか」が重要なテーマとなります。

 また、今回のベネッセ事件は、社外の人間とは言え、本来的には個人情報を守るべきシステムエンジニア(SE)が引き起こした犯罪です。この事件をきっかけに、多くの企業が、情報漏洩防止策の再考を余儀なくされるかもしれません。

情報漏洩対策でSEに義務・責任を課す効力は?

 かねてから、「情報漏洩事件の80%は内部犯行」とされ、人の行動監視・管理は情報漏洩対策の重要課題とされてきました。とりわけ、会社の社員ではない外部の者にすれば、その会社の秘密情報は単に「価値のある情報」でしかありません。

 ですから、仮に外注SEが金銭的に逼迫し、機密情報を盗難・転売する誘惑にかられたとすれば、それに歯止めをかける動機が形成されにくいと言えるでしょう。実際、今回のベネッセ事件でも、情報を不正取得したSEは、グループ会社で働く派遣従業員でした。

 こうしたことから、会社と社外SEとの契約においてはこれまでも、SE個人に守秘義務を負わせたり、高額の違約金を課したりすることで、各自の不正行為を抑止してきました。

 ここで、「なぜ、そうまでして外注業者に仕事を出すのか」と不思議に思われるかもしれません。ですが、IT業務をすべて社員で回せる企業は日本では少数派です。大多数の企業は外部の力を借りてITシステムの開発・保守運用を回さなければならず、先に示したような契約上の縛りによって外部SEによる不正行為を防止してきたわけです。

 もっとも、今回のベネッセ事件に限らず、大小さまざまな規模で起こる情報漏洩事件を見ると、この施策の効力には疑問の余地が大きく残ります。

 確かに、SEに守秘義務を負わせたり、高額の違約金を課したりすることには一定の効果があります。ですが、情報漏洩事件が多発し、かつ今回のような極めて大規模な事件が発生している現状を鑑みると、それだけで万全と考えるのは危険と言わざるを得ないのです。

「契約事項」の再考で情報漏洩を防ぐ

 当然のことながら、社外SEなどの外部業者と契約を交わすこと自体は間違いではありません。重要なのは、情報漏洩の防止に向けて、契約の内容を根本から見直す必要があるということです。

 あらためて言いますが、「契約」とは、「当事者の権利や義務を定める合意」を意味し、契約に定められていない事項については、各者が自由にできることを前提にしています。

 旧来の日本では、いわゆる「あ・うんの呼吸」、あるいは「ツーカーの仲」の以心伝心で当事者同士が互いに空気を読み、相手の立場を尊重しながら成すべきことを成すのが美徳とされてきました。そのため、互いの縛りと自由を明文化する契約は軽視されがちだったのです。

 ところが今日では、これまで付き合いのなかった部外者を契約ベースで使うケースが増えています。ときには海外の事業者や個人と契約を結ぶケースもあります。結果、契約の重要性が高まるとともに、契約で定めるべき事項もより細かく、具体的にという傾向にあります。

 このような契約内容の細分化・具体化の進行は、情報漏洩を防ぎにくくもしています。と言うのも、「情報を漏洩してはならない」といった漠然とした義務を課すだけでは、ルールに関する合意形成が難しくなっているからです。

 言い換えれば、「データベース室内には携帯電話を持ち込んではならない」、「データベース・アクセスに用いるID/パスワードを他人に譲渡したり、提示したりしてはならない」といった具体的な義務を契約で逐一定めなければ、当事者間でのルールの共有が困難になっているということです。

 当然、ルール共有のための契約を作成するには、会社の実態を細かく把握することが何より重要です。その意味では、会社の実態を把握する立場にある役員や従業員の職責は、ますます大きくなっていくことが予想されます。

筆者の記事一覧はこちら

 

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る