マネジメント

 ユニクロ、楽天など日本を代表する企業のプロジェクトにかかわり、クリエイターとしてブランド戦略を構築してきた佐藤可士和氏。彼のクリエイティブな発想により、多くの企業がさらなる成長や発展を遂げてきた。経営者たちは、佐藤氏のどんな力に魅せられ、プロジェクトの要に据えてきたのだろうか。そして佐藤氏自身も、どのように企業や経営者とかかわってきたのだろうか。

佐藤可士和に有名起業のトップから直々に依頼がある要因

佐藤可士和

佐藤可士和(さとう・かしわ)
1965年東京都生まれ。89年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒。博報堂を経て、2000年クリエイティブスタジオ「サムライ」設立。主な仕事に国立新美術館のシンボルマークデザイン、楽天グループのクリエイティブディレクション、今治タオルのブランディングなど。慶応義塾大学特別招聘教授、多摩美術大学客員教授。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社)など。

-- 佐藤さんはこれまで、ユニクロのグローバルブランド戦略のディレクション、セブン–イレブンのプライベートブランド「セブンプレミアム」のリニューアルなどを手掛けてこられました。楽天やTSUTAYAなど、有名企業のトップから直々に依頼がある要因は、どのあたりにあるのでしょうか。

佐藤 何人かの経営者の方々が僕について語ってくれた文章などから見ると、ビジネスとクリエイティブの両方を理解し、橋渡ししてくれるとおっしゃられる方が多かったです。クリエイターというと、どうしても視点がクリエイティブに偏りがちだったり、逆に社内にいれば利益優先のビジネスサイドな視点だけになったりします。そのバランスがあるということでしょうか。僕も規模は小さいながら会社を経営していますので、この1円はもったいないけど、この1億円の投資は必要といった感覚があるのでしょう。結局それはユニクロや楽天など規模は違っても、「経営する」という本質的なマインドは一緒です。クリエイティブという側面にとらわれず、費用、時間、労力といった生産性も加味した提案ができるのかもしれません。

-- 企業ブランディングをする際に大切にされていることはありますか。

佐藤 企業の真の味方になることが大事ですね。そして、半分は依頼するクライアントの視点、半分は消費者や一般的に企業を見ている外部の人の視点を持つことが必要だと思っています。なぜ事業がうまくいかないのか、商品が売れないのか、当事者だからこそ見えなくなります。ただクリエイターとして外部の視点だけになると、発注元と受注先という関係性になり、互いに間違いを指摘しづらくなります。また、自分がかかわるプロジェクトだけが成功すればいいという考えになりがちです。しかし、クライアントの立場になれば、その企業が大切にしているマインドや全体感も理解できます。

 ただ僕の一番のアドバンテージは外部の人間であることです。外から見て、強みが全然伝わっていませんよ、逆に消費者からこういうふうに思われています、といったように、内側にいると持てなくなる視点を持てます。だから、クライアントに「こういうふうに力を入れてこられたのですね。でも、社会には伝わっていないので、アプローチの仕方を変えましょう」と新しい視点からの提案ができます。

-- そういった意味でも、意思決定権のある人とのかかわりが重要になります。

佐藤 ブランディングはそうでないとできません。もちろん社長だけがコミットすればいいわけではなく、ブランディングとは会社の在り方や方針を決め、それをどうやって社会に発信していくかという話ですから、経営戦略の1つです。だから、基本的にはトップダウンです。ただ、古い構造の会社は、経営中枢にブランド戦略室のような部署がなく、宣伝部と広報部が分かれていて、広報の下にブランドに関連する部署があるので、その場合はブランドという流行りの名前を使った広報戦略だと誤解されていますね。

一流経営者たちの要求に応えるデザイン戦略

-- 今のお話にもあるように、ブランディングの重要性を感じていない企業も、まだ多いですね。

佐藤 僕も独立して10数年、多くの事例を手掛けてきましたが、ブランディングの重要性を理解されている企業は全体で見ると一部だと思います。だからこそ、セブン&アイの鈴木敏文会長や楽天の三木谷浩史さん、TSUTAYAの増田宗昭さん、ユニクロの柳井正さんなど、僕が独立した早い時期に依頼してくださった経営者の方は、目利きでいらしたと思います。

佐藤可士和-- 一流経営者からの依頼で驚いたことはありましたか。

佐藤 セブン&アイの鈴木敏文会長から「セブン–イレブンをもっと良くしてくれ」と頼まれました。セブン–イレブンは既に業界トップで、売り上げも決して悪くはありませんでした。「その中で僕がやることはあるのでしょうか」と正直にお話ししました。しかし鈴木会長は「現状は全然ダメ。今は20〜30代の男性が使っているだけで、女性客の来店が少ない。今後は高齢社会で80代もコンビニで買い物するような時代になるのだから幅広い年齢層が利用する可能性がある。だから売り上げは最低でも倍にはできる」と言われました。そして、「可士和くんがやれることはたくさんある」と話され、僕もそこでなるほどと、スイッチが入り戦略を考えました。

 経営者からの依頼は「どうやったらさらによくなるのか」というものばかりです。楽天は「日本を代表する新しい会社にしたい」、ユニクロは「グローバルブランドになる手伝いをしてほしい」でした。具体的に何をすればいいんですかと聞き返せば、僕に依頼する意味はありません。

-- それで2011年にプライベートブランド「セブンプレミアム」の全面リニューアルを始めたのですね。

佐藤 具体的にセブンプレミアムのリニューアルを依頼されたわけではありませんでした。改革の方法はCMなどいろいろありますし、ユニクロは旗艦店の店舗デザインから始めました。セブン–イレブンの場合は、セブンプレミアムの売れ行きが鈍化している状況でした。約1700アイテムを見ると、ロゴやパッケージがバラバラな状態でした。だから「セブンプレミアム」をブランディングのプロジェクトの最大のメディアととらえて全面リニューアルするのが非常にパワフルで効果的だと提案しました。

 それから、商品に統一感を持たせるように整理し、デザイン戦略を練りました。またおにぎりやお弁当にはロゴなどが付いてなく、僕は業者から卸されているものだと思っていました。それを伝えると井阪隆一社長をはじめ皆さんが驚いていました。自社工場を持って力を入れている商品であることを見た目で伝えられていないと指摘し、ロゴを入れるなどのリニューアルを行いました。結果として売り上げが伸びました。

デザインはビジョンを設計すること

-- デザインという一見小さなリニューアルが業界トップのセブン–イレブンにさらなる勢いをつけました。一方で、そのデザインの力に気付いてない人もいます。そもそも経営におけるデザインの位置付けとは、どのようなものなのでしょうか。

佐藤 まさに、デザインはビジョンを設計すること。企業が将来こんな存在になりたい、こんなことをしたいという抽象的なものを、見える形にする作業です。インタンジブル(触れられない)なものをタンジブル(触れられる)にする。デザインは方法論です。おいしい、きれい、かっこいいという感覚的なことを伝える方法として有効な手段です。

 デザインにもグラフィックやプロダクトデザインなど多彩な手法があります。僕の場合は、会社全体をデザインする意識で依頼を受けます。会社のイメージを形にするのです。だからブランディングを進めると人事など組織の話や仕事のやり方にまで踏み込む場合があります。

-- コンサルタントに近いですね。

佐藤 でもそうなりますよね。広報の下にブランド戦略室があるような組織図だったらプロジェクトを動かせないので、体制図を描いていきます。経営の軍師ですね。戦略を立てて実行するには、そのチームでこう進め、社内のこういう決定権のメンバーと実行に移す部隊が必要なので、ここに最適な人を配置してほしいと要求します。サッカーのチームを組むイメージです。コミュニケーション戦略の監督だからですね。こういう活動全般がブランディングなんです。ブランディングがモノやサービスを売るためだけの戦略という考えは古く、経営そのものがブランドですから、宣伝する部門だけでは完結しません。

佐藤可士和の今後の展開

-- 佐藤さん自身が今後手掛けたい業界はありますか。

佐藤 5月に三井物産のブランディングを始めることを発表しました。ついに総合商社という、究極のBtoB企業にもブランド戦略が必要になった時代を象徴する事例だと思います。まだ具体的な取り組みはこれからですし、ユニクロやセブン–イレブンのように消費者が直接目に見える形とは違います。ただ社内の意識など、じわじわと変わると思います。

 現在、50年先の日本経済の課題を議論する政府の「選択する未来委員会」の成長・発展ワーキンググループの委員を務めています。日本という国自体がようやくブランディングが重要だと考えるようになったようです。専門家の1人として意見を出していますが、日本のブランド価値をどう向上できるかということに、興味を持っています。

 国内市場には限界があるので、今後は需要を上げるためにも、海外で存在感を出すことは重要です。以前なら、ブランドなどと言わずとも経営は成り立っていましたが、今は存在するだけでは商品を売れません。これまでユニクロやヤンマーなど世界で活躍する日本企業をお手伝いすることに取り組んできましたが、やっと国がブランド戦略に乗り出そうとしているのです。僕もこの10年、日本のブランド価値が上がれば企業の海外進出もよりスムーズだと思っていました。まだ政策に落とし込む前段階ではありますが、今後の展開が非常に楽しみです。

(聞き手=本誌・長谷川愛 写真=葛西 龍)

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