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中外製薬の自力海外展開模索とロシュとの蜜月関係

永山 治氏

 過去10年以上にわたり蜜月関係を続けてきたスイス製薬大手ロシュと中外製薬。だが、中外を引き続き影響下に置こうとするロシュと、創薬能力を生かして自力の展開を模索する中外の間には、微妙な思惑のズレが生じているようだ。

誤報「ロシュが中外製薬を完全子会社化計画」

永山 治

永山 治・中外製薬会長(Photo=時事)

 来るべき時が、とうとう来たのか--週末だった8月16日、ブルームバーグ・ニュースの速報に触れた日本の市場関係者は、そんな風に早とちりをしたのではないか。

 スイスの製薬大手ロシュが、約100億ドルを投じて日本の中外製薬を完全子会社化する方針だと報じたその〝スクープ〟は、結局のところ誤報だった。その1週間後の24日に、ロシュが全く別の米国の医薬品企業を83億ドルで買収すると発表したためである。

 「ロシュが中外の完全子会社化を計画」との一報を受け、週明け18日の中外株価は急騰。一時は4千円台に迫る水準で推移したが、誤報と分かった25日に失望売りが広がり、株価は元の水準に戻った。

 ロシュが中外を完全子会社に収めるという筋立ては、市場関係者の間でも「ありそうな話」として理解されている。

 中外は、2002年にロシュが株式の50%超を取得し、その連結子会社となった。ロシュは1990年の段階で、バイオ医薬品ベンチャーの草分けである米ジェネンテックを、似たようなスキームで傘下に収めているが、これに続く中外の連結子会社化は、ロシュを盟主とする「戦略的アライアンス」に日本の有力製薬企業を加えることで、日米欧の主要市場で3社が地域的にも製品的にも補完関係を築くというのが狙いだった。

 この「3社連合」構想は、同時期に勃興した抗体医薬と呼ばれるバイオ医薬品ブームに乗って、大きな成果を上げる。特にロシュの事実上の日本子会社として、がん分子標的薬「アバスチン」をはじめとする豊富な新薬パイプラインを独占的に日本市場に供給することが可能となった中外は、過去10年間で売り上げ、営業利益とも1・5倍程度に引き上げることができた。

 08年にはロシュが持ち株比率を約60%まで引き上げ、ガバナンスの面でも、中外への関与の度合いを強めている。提携当初は中外と同様、連結子会社だったジェネンテックが、09年に468億ドルという巨費で、ロシュの完全子会社となっていることも傍証だ。

ロシュとの蜜月関係の変化と製品化の主導権

 経営陣の顔触れという意味でも、ロシュと中外はそれぞれ確実に一時代を終えつつある。

 12年には、中外のトップに20年間君臨した永山治社長が会長に横滑りした。ロシュ/ジェネンテックとのアライアンス路線を決断した永山会長は依然、CEOとして実権を握っているが、現在67歳という年齢から考えても、勇退の時期はそう遠くはないはず。永山会長の盟友として3社連合を作り上げたロシュのフランツ・フーマー会長も昨年、同社の経営から退いた。トップ同士の個人的なつながりは、歳月を経て薄れてきているのだ。

 ロシュにすれば、中外の完全子会社化は、財務的な観点でも、それなりに説得力のあるストーリーを描ける案件だ。現在、ロシュと中外はいわゆる「親子上場」の関係にあるため、少数株主に利益が流出している状況。拠点集約といった合理化の余地に加え、中外を上場廃止にしてこれを吸い上げるだけでも、毎年かなりの収益向上につながる。

 今回は幻に終わったとはいえ、今後、ロシュが正式に中外への完全子会社化のオファーを公表する日が訪れる可能性は高い。もっとも今のところ、中外側にこうした提案を受け入れる意向はうかがえない。同社はむしろ、02年以来の高成長を背景に、ロシュの力に頼らない形での海外展開を模索しているからだ。

 ロシュとの提携後、中外は前述したアバスチンをはじめ、抗体医薬を中心とした新薬を次々と国内市場に導入し、日本を代表するバイオ医薬品企業として強固なプレゼンスを築き上げた。

 中外が評価されるべきは、ロシュ傘下に入ることで「名より実を取る」という永山会長の経営判断もさることながら、世界的に見ても十分に戦えるバイオ医薬品関連の優れた研究開発力と技術力を培ってきた点だ。

 中外の創薬能力は国産初の抗体医薬として製品化に成功した「アクテムラ」に、まず結実した。市場性の高い関節リウマチなどを適応とする同薬の権利をロシュ側に海外導出することで、大型製品に育ちつつある。

 アクテムラに続くがん分子標的薬「アレセンサ」も日本での製品化を達成し、欧米上市は間近。血友病に対する画期的治療薬として世界的な注目を集める抗体医薬「ACE910」の開発も進んでいる。

 これらの新薬はすべて、3社連合のスキームに則って事業化される。確かな創薬能力を製品に結実してきた中外が、ここへきて自ら海外市場に活路を見いだそうと企図することは、ごく自然な姿だろう。

 8月28日に中外は、ロシュとの海外導出契約の一部を変更すると発表した。これまで同様、中外製品の海外での事業化の第一選択権はロシュが握るが、違うのは、より開発早期の段階で、中外側からロシュに導出オファーを入れるという点だ。

 見方によっては、中外の海外志向を快く思っていないロシュが、製品化の主導権を握ろうとしているようにも見える。両社の蜜月に、危うい気配が漂う。

(文=ジャーナリスト/上島 剣)

 

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