政治・経済

 ソフトバンクは米国戦略として傘下のスプリントによるTモバイルの買収を進めていたが、その計画を断念した。今後はスプリント単独で米国市場を攻めることになる。厳しい競争環境での戦いに挑むために、ソフトバンクは新たな体制づくりや製品展開を進める。

Tモバイル買収失敗でスプリントは自力成長へ

孫正義

孫正義・ソフトバンク社長

 ソフトバンク傘下の米スプリントは、米規制当局の承認が得られる見込みがないことから、Tモバイルの買収を断念した。

 米国の携帯電話市場は、1位のベライゾン・ワイヤレスと2位のAT&Tの2強が圧倒的で、離れて3位のスプリントと4位のTモバイルが続く。ソフトバンクの孫正義社長は、「2強状態よりも三つ巴のほうが、より健全で激しい競争が起きる」との考えから、スプリントとTモバイルの3位4位連合で、2強に続く第3極の形成を目論んでいた。昨年のスプリント買収後からTモバイルの買収交渉を進め、Tモバイルの親会社ドイツテレコムもスプリントによる買収に大筋合意していたとされる。

 逆に米連邦通信委員会(FCC)や米司法省反トラスト局は大手携帯電話会社が4社から3社に減ることは競争上問題だとして難色を示していた。2011年にAT&TがTモバイルの買収を進めたことがあったが、市場の寡占化が危惧されて規制当局の賛同を得られず頓挫した。孫社長としては、こうした経緯を踏まえた上で、昨年のスプリント買収以降、綿密にロビー活動を行っていたが、買収が成立しなかった場合にドイツテレコム側に支払う違約金の問題もあり今回は買収を見送った格好だ。

 買収交渉が頓挫したことで、スプリントは、Tモバイルに頼らない、単独での自力成長を目指すことになった。しかし、スプリントの置かれている競争環境はかなり厳しい。確かにソフトバンク傘下に入って以降、業績は反転しており、14年4〜6月期決算は、純損益は前年同期の16億ドルの赤字から2300万ドルの黒字に改善した。その一方で、売上高は前年同期の88億7700万ドルから、87億8900万ドルに減少している。また、新規契約数もベライゾンとAT&Tがそれぞれ100万件以上増加、Tモバイルも90万件以上増加したのに対し、スプリントは20万件減少した。上位2強に差を付けられるだけでなく、買収交渉の相手だったTモバイルに猛烈な追い上げを受けている格好だ。

 孫社長も「営業の顧客獲得が全然進んでいない」とスプリントの現状に不満を漏らし、顧客が純減する「1人負け」状態を認めている。

 こうした状況で、ソフトバンクが最近のスプリント事業で注力してきたのが、ネットワークの改善だ。当初からネットワークの改善は1年以上かかることを示唆していたが、スプリントの現場の努力と、ソフトバンクのネットワーク接続率改善のノウハウを組み合わせ、急激に改善。ここにきて他社と遜色ないレベルまで到達しているという。

 自信を持てないネットワークに対して営業攻勢を強めて顧客獲得に動くことはこれまでできなかったが、ネットワークの改善が進んだことで、ここから本格的に営業攻勢に入る。

ページ:

1

2

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る