政治・経済

 労働力不足を解消する手段として、注目されるシニア人材の活用。定年延長を導入したり、シニアの登用を進める企業も徐々に増加している。社会保障問題を解決する手段として、こうした動きは広がるだろうか。

介護現場にも高齢者の労働力

高齢者の雇用促進に取り組む企業

高齢者の雇用促進に取り組む企業を視察する安倍晋三首相(右)(Photo=時事)

 少子高齢化による人口減少で数年前から労働力不足が懸念されてきたが、アベノミクスによる景況感回復もあって、それが急に顕在化してきた。今年3月に内閣府が発表した数字によれば、6577万人(2013年)の労働力人口は、30年には894万人減るという。

 ITの活用など生産性の向上は大前提として、今の日本で人手不足を解消する手段は大きく分けて3つしかない。現在就労していない女性に働いてもらうか、シニアを活用するか、外国人労働者を増やすかである。このうち、外国人労働者に関しては、法整備の遅れや国民感情の問題、将来的な移民問題など、解決すべき課題が多く、今すぐに頼ることはできない。

 女性労働力の活用は安倍政権の大きな政策テーマにもなっているが、この先どんどん増えるのは高齢者であり、シニアにもっと働いてもらう策も考えたほうがよいだろう。幸い、日本には元気なシニアが多く、海外と比べて労働意欲も高い。

 「現役世代のようなフルタイム勤務ではなく、収入はわずかでも生活に合わせて希望に沿った日数・時間で働きたい」という希望をもつシニアは多い。そんなニーズに着目し、シニアに特化した人材派遣会社も増えてきた。1990年に創業した「マイスター60」はその先駆けだ。「年齢は背番号、人生に定年なし」をキャッチフレーズに、今日まで5500人以上の雇用を実現した。現在は派遣だけでなく、人材紹介も行っている。

 00年設立の「高齢社」は60歳から79歳までのシニア層約830人(14年3月期)が登録し、住宅のガスメーターの検針やガス器具の点検・メンテナンスといった業務を中心に人材を派遣している。勤務は業務のあるときだけの不規則勤務で出来高払い、週3日労働という人が大半だ。

 人手不足が深刻な業種は、建設、サービス、福祉・介護だが、福祉・介護の現場に絞ってシニアを派遣する会社もある。12年4月から事業開始した「かい援隊本部」だ。創業者で会長の新川政信氏は「若者に介護をさせたくない」という思いで定年後に会社を立ち上げたという。

 「60歳以上の4千万人弱のうち86%は元気シニアで、寝ている人はほんの一部。介護の仕事は低賃金で若い人がやりたがらないし、元気な高齢者が同じ高齢者を介護するしかないのです。社会の主役はあくまで若者などの現役世代。シニアは重苦しい介護の負担だけでも子や孫の世代から取り除き、現役世代をサポートする『名脇役』になってほしい」

 同社では週1日から無理のない形で仕事を提供しており、介護の資格がなくても、配膳や清掃などさまざまな職種に派遣できるという。団塊の世代が80歳を迎え始める25年、介護の人手不足は100万人ともいわれており、ポジティブな形の〝老老介護〟は1つの解決策だ。

60歳定年多い大企業 シニアの意識にも問題

 長年勤めてきた会社で定年後も経験を生かせるのであれば、定年後に転職したり派遣会社に登録したりするよりもベターなのは言うまでもない。企業の人事制度はどうなっているのか。

 福島県を地盤とする東邦銀行は60歳の定年退職後も65歳まで役職を継続し、さらに70歳までパートタイムで勤務できるようにした。東日本大震災後、増大した業務量に対応するとともに、ベテランの専門性を若手に伝える狙いもあるという。

 職人技術集団として有名な前川製作所(東京都江東区)では、77年に「定年ゼロ制度」を導入した。同社では高齢者が若手をサポートするだけでなく、新たな事業を起こすリーダーにもなり得るような仕組みを模索しているという。

 だが、こうした企業は圧倒的に少数派だ。厚生労働省の11年就労条件総合調査によると、定年を定めている企業の割合は4269件中92・9%で、企業規模が大きくなるにつれて60歳定年の割合が高くなり、企業規模が小さい程、定年を63歳以上または65歳以上とする割合が高くなっているという。リクルートワークス研究所の戸田淳仁氏はシニア活用の課題をこう話す。

 「最近、大企業の中には、定年後を見据えて50代からセカンドキャリア研修を行っているところもあります。ただ、60歳を過ぎて雇用延長や再雇用している企業でも、嘱託みたいな形になって給与が急減するため、モチベーションが低下するシニアが多いといわれます」

 昨年4月から改正高年齢者雇用安定法が施行され、意欲のあるシニアには例外なく定年延長が認められるようになった。厚生年金の受給開始年齢が引き上げられることに対応したもので、シニアが賃金も年金も受け取れない「収入の空白」期間が生じないようするためだ。

 年金の受給開始年齢は、今後も段階的に引き上げられていく。破綻しつつ年金財政を健全化するには、現役世代からの徴収を増やすか、シニアへの給付を減らすか、基本的にはどちらかしかない。シニア人材の活用は、人手不足解消だけでなく、増え続ける社会保障費問題を解決する唯一の策でもあるのだ。

(文=ジャーナリスト/横山渉)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る