政治・経済

 「警戒区域の指定推進「法改正を検討」…防災相」

 古屋防災相は24日のNHK番組で、広島市で起きた土砂災害に関連し、都道府県による「土砂災害警戒区域」指定が進むよう、土砂災害防止法を改正する方針を明らかにした。

 古屋氏は「都道府県知事の背中を押してあげられるような改正を国土交通省や与党に要請している。検討に入っていると思う」と述べた。(後略)

(読売新聞2014年8月24日)

広島土砂災害で判明した災害対応の人員不足

 8月19日から翌日にかけ、広島市の北部を襲った集中豪雨により、各地に土砂災害が発生。50人を超す方が亡くなった。行方不明者も、本稿執筆時点で38人に上っている。

 特に被害が大きかった広島市安佐南と安佐北の両区に流れ込んだ土砂は、広島市の推定で50万立方メートルに達し、昨年10月の伊豆大島の土砂災害の土砂量の3倍に達したことになる。

 広島市では、1999年6月にも崖崩れや土砂災害により20人が亡くなり、結果的に2001年に土砂災害防止法が施行された。土砂災害防止法は、国民の生命を守るため、土砂災害の可能性がある区域について、都道府県に危険個所を事前に調査し、警戒区域や特別警戒区域に指定した上で、市区町村がハザードマップを作成し、配布することを義務付けている。

 今回、被害にあった地域の多くは、警戒区域に指定されていなかった。報道によると、市役所の人員不足により、警戒区域、特別警戒区域の指定作業が遅れていたという。

 わが国は世界屈指の自然災害大国だ。戦争はともかく、「大規模自然災害」という非常事態は、常に起こり得る。無論、事前に入念な対策をしたとしても、非常事態は起きないかもしれない。とはいえ、起きるかもしれない。

 起きるのか、起きないのか分からない非常事態に備えるためには、「政府」が動かなければならない。非常事態への備えとは、それ自体では事業として利益を上げることができず、さらに非常事態が発生しない場合は「無駄だった」という話になる。無駄かもしれないが、非常事態に備える必要があるからこそ、人類は「政府」という仕組みを進化、発展させてきたのである。

 90年代中盤以降にわが国を席巻し、今も魔物として取りついている「財政均衡主義」により、非常事態に備える予算までもが「無駄」ということで、切り捨てられてきた。公共投資は96年のピークの半分にまで減らされ、公務員も削減。酷いときには、国民の安全を守る職種についてまで、非正規雇用に切り替えられているありさまだ。

自らの首を絞める「公共事業叩き」

 広島市が行政人員の不足により、被害地域について土砂災害防止法による警戒区域、特別警戒区域の指定ができなかったとしたら、これは悲劇というよりは「人災」と呼ぶべきである。とはいえ、筆者は別に広島市を責めたいわけではない。

 何しろ、日本国内で公共投資の削減、公務員の削減を「熱狂的」に支持してきたのは、日本国民自身なのだ。デフレ下で妙なルサンチマンにとらわれ、「土建屋はっ!」「税金泥棒の公務員がっ!」などと「同じ国民」を引きずり下ろすために叫び、次第に自分たちの身を危険に晒す羽目になっているにもかかわらず、その事実に気が付いていない。

 東日本大震災を経てすら、「非常時に、誰が自分たちを助けてくれるのか」「非常事態を起こさないためには、事前にある程度の準備をしなければならず、そしてその準備は無駄に終わるかもしれない」といったことを一切考えず、土建叩き、公共事業叩き、公務員叩きの「空気」から逃れることができない。大衆は、自らを殺す。

広島土砂災害の教訓―安全保障を効率やコストで考える危険性

 今回の土砂災害において、広島市の避難勧告が遅れたのではないかとの指摘が出ている。実際、避難勧告が出たのは、土砂崩れが相次いだ「後」のことだった。筆者は現時点で広島市の避難勧告の件を批判したいわけではない。現地で懸命に救援活動が続いている中、第三者が遠くから「ああだ、こうだ」と論評するのは、傲慢極まりない話であろう。

 ここで問題提起したいのは、例えば、「被害想定範囲を極めて広くとっていたため、必要のない住民までもが避難させられた」「避難勧告が早過ぎ、結局、土砂災害は発生しなかった」といったケースを、住民(国民)側が「無駄なことをするな!」と非難するようになってしまい、自治体側が、「避難想定範囲の設定や、避難勧告は、できるだけ、効率よく、できるだけ、住民から苦情が来ないように」という空気になってはいないか、ということである。

 安全保障を強化すればするほど、システムは次第に効率的ではなくなり、余計なコストが掛かる。理由は、安全保障は、繰り返しになるが、「いつ、起きるか分からない、あるいは、起きるか分からない非常事態」に備えるという性質を持つためだ。この安全保障の基本を国民が頭に叩き込まない限り、同じような悲劇は繰り返し発生することになるだろう。

 

※土砂災害防止法:土砂災害の可能性がある区域について「危険の周知」「警戒避難体制の整備」「住宅等の新規立地の抑制」「既存住宅の移転促進」などの対策を都道府県にもとめる法律。

筆者の記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年11月号
[特集] AIが知りたい!
  • ・IT未開の地に挑戦 産業構造をAIが変える!
  • ・AIは物理世界がまだ苦手 汎用ロボットの作り方
  • ・データ分析の起点は「何があれば経営に役立つか」
  • ・AI活用事例
  • ・ワトソン君は業務システムと連携する
  • ・米国で加熱する人工知能ブーム AIは21世紀最大のゲームチェンジャーか
[Special Interview]

 小川啓之(コマツ社長)

 「“経験知”に勝るものはない」コマツ新社長が語る未来

[NEWS REPORT]

◆SBIが島根銀行への出資の先に見据える「第4メガバンク構想」

◆家電同士がデータを共有 クックパッドが描くキッチンの未来

◆新薬の薬価がたった60万円! 日の丸創薬ベンチャーは意気消沈

◆1で久々の優勝を果たすもホンダの4輪部門は五里霧中

[総力特集]

 人材育成企業21

 SBIホールディングス/サイボウズ/メルカリ/ティーケーピー/シニアライフクリエイト/イセ食品/センチュリオン/タカミヤ/中央建設/アドバンテック/合格の天使/明泉学園/オカフーズ

ページ上部へ戻る