政治・経済

現代の政治家に必要不可欠な〝発信力〟

イラスト/のり

イラスト/のり

 「昨年、自らが読んだ原稿とほぼ同じだったが、他人の原稿のコピペではない。そんなに目くじらを立てる話ではない」

 ある自民党衆院議員はこう語る。8月6日の広島市の平和記念式典、続いて9日に行われた長崎市平和祈念式典で安倍晋三首相が読んだスピーチ原稿が、昨年と同じだったと指摘された、いわゆる〝コピペ問題〟である。

 コピペ、つまり「コピー・アンド・ペースト」は、文章やデータなどを複写・複製(コピー)し、別の場所などへ転写・貼付(ペースト)する操作を表すコンピューター用語で、今年、STAP細胞論文で理化学研究所の小保方晴子氏が論文にコピペしたとの指摘を受け、問題化した。

 前出の議員は、他人の原稿の引用ではなく、小保方氏とは全く別の話だと一笑に付すのだ。そして、こう続ける。

 「式典には、ある程度の定型文がある。それを逸脱してヘンなことを言ったら、それこそバッシングの対象になる。それを前回と同じだと批判するのは、重箱の隅を突くようなものだ」

 しかし、果たしてそうだろうか。今さら改めて言うまでもなく、政治家の言葉はとてつもなく重い。時のリーダーともなれば、なおさらだ。

 「私が、小泉が、自民党をぶっ潰します!」

 2001年4月、自民党総裁選に出馬した小泉純一郎氏はこう大衆に語り掛け、党員だけでない〝小泉旋風〟を巻き起こしたことは、まだ記憶に新しい。

 「政治家は発言に、言っていいこと・悪いこと、言っていい人・悪い人、言っていい時・悪い時に普段から気を配らなければならない」

 「今太閤」「コンピューター付ブルドーザー」と呼ばれた田中角栄元首相は、独特のダミ声で数々の名言を残してきた。

 このように、いつの時代もリーダーの「言葉」が注目され、「政治の推進力」になってきた。

 近年では、さらにその言葉は戦略的になり、「スピーチライター」の存在が注目されるようになってきた。代表的な例は、米国のオバマ大統領だろう。08年、大統領選を制した際、地元・シカゴで行われた勝利演説は名演説として伝えられている。

 「今この時にこそ、アメリカの夢を取り戻し、基本的な真理を再確認しなくてはなりません。大勢の中にあって、私たちはひとつなのだと。息をし続ける限り、私たちは希望をもち続けるのだと。そして疑り深く悲観し否定する声に対しては、そんなことできないという人たちに対しては、ひとつ国民の魂を端的に象徴するあの不朽の信条でもって、必ずやこう答えましょう。Yes we can!」

 政治家個人のキャラクター、その思いをどう伝えるのか。綿密な打ち合わせの上に作成されたものだという。

 軽妙に記者会見で質問に答える回転の早さとともに、現代の政治家には、このような発信力が必要不可欠であり、それを支えるのがスピーチライターだというのだ。

言葉の重み・個性より揚げ足を取られないことが優先される

 もちろん、経営者でも言葉の重要性は同じ。例えば、56歳の若さでこの世を去り、世界中が悲嘆に暮れたアップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ氏はこう語る。

 「墓場で一番の金持ちになることは私には重要ではない。夜眠るとき、われわれは素晴らしいことをしたと言えること、それが重要だ」

 日本でも数多くのカリスマ経営者の言葉が書籍になっている。例えば、京セラ創業者の稲盛和夫氏はこう語る。

 「強い思い、情熱とは、寝ても覚めても24時間そのことを考えている状態。自分自身の成功への情熱と呼べるほどの強い思いが、成功への鍵」

 政治家にしても、経営者にしてもトップの言葉には重みがある。そして今やその多くは、経営企画室などブレーンスタッフが精査し、世に送り出していることが多い。

 ところが、日本の政界ではまだスピーチライターの役割は乏しい。野党関係者は語る。

 「各党、代表ら幹部のスピーチ原稿は、党職員らが仕上げます。元代議士秘書だったり、元マスコミ関係者だったりです。しかし、式典などの場合、定型文をベースにして、ミスのない原稿づくりが優先されがちです」

 代議士の個性や思いより、揚げ足を取られない原稿が優先されるのだという。

 安倍首相が言葉を大切にしていないとは言わない。しかし、式典を軽んじていたのではないかという誹りを受けても仕方ない。被曝者だけでなく、国民全体に、そして世界に発信する機会を自ら棒に振ったのだから。そして、各政治家はこれを他山の石とするのではなく、自らを戒める教訓としてほしい。

 

【永田町ウォッチング】記事一覧はこちら

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る