文化・ライフ

野球の原点 素振りにはマシンでは得られない感覚がある

 もう一度、野球の原点に立ち帰れということか。

 今夏の甲子園、5試合で58得点を挙げた福井代表・敦賀気比の猛打には目を奪われた。

 腰の入ったバッティングは冬場の1日1千本の素振りによって磨き上げられたものだ。しかも6秒刻みでバットを振り続けたというから、おのずと下半身は強化される。バットを振る力も身に付く。

 つい先日、阪神の掛布雅之GM付育成&打撃コーディネーターと会った際、力説していたのが素振りの重要性だ。

 「最近の選手はマシンのボールはよく打つのですが、素振りが少ない」

 そう前置きして、掛布は続けた。

 「マシンは同じリズムで投げてくるから、同じように打とうとする。ところがピッチャーは微妙にバッターのタイミングを狂わせながら、カーブやスライダー、あるいはフォークボールやカットボールを投げてくる。

 そういうボールを自分が主導権を握って打ちたいのであれば、どんなボールにでも対応できるスイングを身に付けなければならない。それはマシンではできないんです。素振りじゃなきゃ」

 鉄は熱いうちに打て、とばかりに若き日の掛布を鍛えたのが当時の阪神打撃コーチの山内一弘である。

 山内は常にゴルフクラブを2本持参して練習場に現われた。なぜゴルフクラブなのか? 掛布は、こう説明する。

 「山内さんは、その2本のゴルフクラブを横に構え〝カケ、この間を抜いてみろ〟と言うんです。要するに狭い空間を振り抜け、ということです。そうやってレベルスイングの基本を体に覚え込ませようとしていたんです。

 この練習がだいたい2時間。その前からの練習も入れたら、もう4時間くらい振りっぱなし。練習後にアンダーシャツを絞ったら、雑巾を絞った後の水みたいに汗がザーッと出てくるんです。

 でも、これは役に立ちました。振る力がないと体がギッコンバッタンして、レベルでは(ゴルフクラブの間を)抜けないんです」

 一見スパルタ式だが、実は合理的な練習法だったのだ。

王貞治

王貞治の「一本足打法」は真剣の素振りによって完成した

 素振りと言えば真剣を使った現役時代の王貞治のパンツ一丁での〝たんざく斬り〟にとどめを刺す。これを指導したのが当時の巨人打撃コーチ荒川博だ。

 どんな効能があったのか。以前、王はこう語っていた。

 「新聞紙でつくったたんざくは、横っ面を叩いても斬れません。運動の方向に刀の刃が向いていなければダメなんです。刀を使うことでボールの中をバットが通り過ぎるように振り抜く感覚がつかめました。

 角度に関しては、よく〝上から叩き斬れ〟と言われましたが、実際には無理。バッティングも同様で、上からボールを叩くのがダウンスイングと考えている人もいたけど、ヘッドの重みでどうしても(バットは)下がってしまう。

 だから僕が常に意識していたのは、必要以上にバットのヘッドが下がらないこと。だから上からボールを叩くぐらいの感覚で打ちにいくのがちょうどいいんです」

 では、なぜパンツ一丁だったのか。指南役の荒川の答えは、こうだった。

 「バットをビュッと振った時に余計な力が入っていたら、すぐに肩や腕の筋肉に表れる。歌舞伎の六代目尾上菊五郎がそうだったんだよ。踊りの名手と言われた彼は常に浴衣で稽古をやっていた。鏡を見ていて、どこに無駄な力が入っているか分かったというんだ。それにヒントを得たんだよ」

 オンリーワンにしてナンバーワンの技術と言える王の「一本足打法」は、こうした鍛錬に近い練習を経て完成したのである。

集中力を養い、イメージを豊かにできる素振りは野球の基本

 近年、バッティング練習の主役は素振りからマシンに移行してしまった。キャンプでは〝柵越え〟の数ばかりが取り沙汰される。

 昨年限りでユニホームを脱いだ元阪神の桧山進次郎はルーキーの年、柵越えの罠に陥ってしまった。

 「〝桧山、柵越え○発〟という紙面を見て、自分も調子に乗りましたね。タイガースはお客さんが多いので、打撃練習でホームランを打つとみんな拍手してくれるんですよ。それに乗せられて、どんどん大きなスイングになりました」

 この反省を元に、原点に戻り、素振りから見詰め直した。

 「マシンだと、どうしても当てにいくことがメーンになる。その点、素振りは集中力を養い、ボールに対するイメージも豊かになる。マシンでひとつ打つことより、ひとつ素振りをすることの方が、実はしんどい。だから鍛えられるんです」

 素振りなら、ひとりでもできる。自分と向き合うことが上達の第一歩なのだろう。

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る