マネジメント

 世界一のモーターメーカーである日本電産は、創業以来一貫してモーターにこだわってきた。

 積極的なM&Aが話題に上ることが多いが、必ずモーターの応用範囲を広げる形のM&Aであり、同社のモーター専業の姿勢は全くぶれることがない。

 今年に入り川崎市に中央モーター基礎技術研究所新棟を開設したほか、モーター技術者の表彰制度「永守賞」を創設するなど、モーターへの取り組みを深掘りしている。

 さらにモーターの応用展開を睨み、シャープ元会長の片山幹雄氏を副会長兼CTOとして招聘することを発表している。モーターへの想いと今後の展望について、永守重信社長に話を聞いた。

 

永守重信・日本電産社長プロフィール

永守重信社長

永守重信(ながもり・しげのぶ)1944年生まれ、京都府出身。67年職業訓練大学校卒業。ティアック、山科精器を経て、73年日本電産を設立し、代表取締役社長に就任。

 

永守重信氏がモーターを事業の中心に据える理由

 

モーターとの出会いから起業まで

-- 永守社長がモーターと出会ったきっかけはどんなことでしょうか。また、そこからどういった経緯でモーター会社の起業に至ったのでしょうか。

永守 昔は小学校の理科の授業で、キットのモーターを作らせる時間がありました。クラスごとにモーターを作らせて、よく回るモーターを競っていて、私は一番になりました。普段は私のことを褒めない先生がものすごく褒めてくれました。それは動機づけとしては強烈で、モーターに関心を持つようになりました。

 将来は是非、モーターの技術者になりたいと考え、高校、大学と進む過程で、一貫してモーターを研究しました。その後、ティアックという会社に就職し、28歳の時にモーター会社をつくりました。高校、大学とずっとモーターにこだわり、入社した会社でもモーターを研究し、モーター会社を起業する。そして現在もモーターを中心に業容をどんどん広げています。だからモーターは自分の生涯にわたる天職と言えます。

-- 独立して起業されてからは大手のモーター会社を相手に戦うことになりました。

永守 起業の時に考えたのは、どうしたら今から勝てるかということでした。

 大会社と比べて、ヒト、モノ、カネのどれをとっても勝てるものはありませんでしたが、1つだけ平等なものがありました。それは1日24時間ということ。時間だけは平等でした。それなら普通の会社が1日8時間しか働かないところをわれわれは倍働こうということです。それで競争相手の半分の納期を実現しました。

 それは母の教えでもありました。起業は母に強く反対されましたが、人の倍働くなら成功できるかもしれないということで、倍働くことを約束して起業した経緯があります。

 また、ビジネスを展開するにあたって、まず米国に出かけていきました。最初の顧客はみんな米国の会社で、米国で成功してから日本に来ました。

 日本の会社は、小さな会社はなかなか相手にしてくれません。米国で成功してから、日本の会社が付き合ってくれるようになりました。

 米国では、IBMや3Mとの取引が始まり、日本メーカーが競合メーカーの機械を買ったら、その中に当社のモーターが使われているということがありました。それで日本メーカーからも当社のモーターが評価されて、注文が来るようになりました。

M&Aで拡大してもモーター中心の姿勢を徹底

-- 米国で成功した要因は。

永守 日本の場合は、最初にどんな製品かを聞きません。私の歳がいくつだとか、会社が創業何年目だとか、資本金がいくらとか、従業員は何人かとか、そういうことしか聞きませんでした。その時点でビジネスになりませんでした。

 しかし米国の場合は、どういうメリットを自分に与えてくれるのかということしか聞きません。当時から既に米国はベンチャーのさかんな国でしたから、日本のベンチャーということで、良い製品を持って行けば、受け入れてくれました。

-- その後の貴社の成長は、オーガニックの成長とM&Aによる成長とが特徴的ですが。

永守 だいたい、オーガニックとM&Aは50%、50%で、クルマの両輪と言っています。しかし両輪と言っても必ずシナジーがなかったら駄目です。必ず同じ道を辿るよう、モーターに関連する製品を加えています。1プラス1を3や4にし、それで伸びてきています。M&Aでは必ず関連する分野に進出し、あくまでモーター中心の姿勢は徹底しています。

 以前は多角化という話が流行っていました。それで、当社のような「一本足打法」は危ないと銀行にも言われていました。多角化となると、モーターもやれば、全く別のこともやることになりますが、いろいろやったらヒトもカネも分散します。小さな会社ではうまく行きません。

 今でも当社は分散していない、必ず同じ方向に向かっています。ただし、応用製品などモーターに関連する商品は広げていく。あくまで基本はモーターで、1兆円企業になるところまで来ました。

 多角化は必要ありません。今後もモーターのマーケットはどんどん広がっていきます。

 

日本電産のグローバル展開と今後のモーター市場

 

産業の米として広がるモーターの可能性

-- モーターが今後の産業の第3の米になるという話をされています。

永守 1980年までは鉄、その後は半導体が産業の米でしたが、2025年くらいから、モーターが産業の米になると思います。

 世の中のマーケットが変わってきました。自動車は電動化が進み、自動車に搭載されるモーターの数は、昔は10〜20個でしたが、今は100個、20年頃には200個ぐらいになります。

 また、掃除機でもロボット掃除機が出てきたりして、モーターの搭載数は増えています。現在、日本の家庭でモーターが100個以下の家庭はないと思います。むしろモーターの付いていない製品を探すほうが難しくなっています。

-- 自動車以外で広がっていく分野は。

永守 今後は列車から船舶、航空機へとどんどん広がっていきます。いずれガソリンはなくなるのだから、ガソリンで動いているものは全部モーターに変わるしかない。自転車も電動自転車がありますし、バイクも最近は電動バイクになっています。

 また、大きいのはロボットです。特に人間型のロボットは何百個とモーターを使います。もうロボット・イコール・モーターです。知能のところは別にして、身体を動かす部分は全部モーターになります。

-- そうなると貴社のビジネスの市場もさらに広がります。

永守 だから30年に売り上げ10兆円と言っているのは、そういうことです。

 その一方で、モーター会社は世界でどんどん減っています。また、モーターの技術者も養成する大学がなくなってきています。しかし需要は増えています。それだけ強い会社にもっとチャンスがあるわけです。

-- モーターの会社が減っている背景は。

永守 それは小さな会社がやっていけなくなっているからです。これはモーター事業だけではありません。今はグローバルで戦えない会社は駄目です。最近われわれが買収している会社もそうです。なぜ売るのかというと、業績は結構良くても、例えばヨーロッパだけしかやっていない会社だからです。その会社の顧客は、ヨーロッパだけでなく中国やインド、北米・南米にも展開しているとすると、それぞれの拠点に同じものを供給できる会社にする必要があります。メガサプライヤーしか、世界の供給体制に対応できません。

モーター技術者への注目度を高めたい

-- モーターの技術者が減っているのは。

永守 学生は、情報技術やソフトウエアなど華やかな分野に行きたがるものです。だからだんだん大学からモーターの講座がなくなってきています。

20140923_SpecialInterview_03y しかし華々しいところが必ずしも良いわけではない。私が今やっていることは100年後も残っていると確信しています。モーターは100年前もありました。今もありますし、100年後もありますよ。モーターにはそれだけ根強い需要があります。もちろん技術革新は起きていますが、全く違うものには変わっていません。

-- 永守賞の創設はモーター技術者不足の状況を危惧してのものですか。

永守 当社は今後も何兆円という売り上げの会社にしなければいけませんし、そのためにもやはりモーターの技術者をもっと励まさなければいけません。モーターは今後もさかんになるのだから、お金を出したり、表彰したりして、モーターの技術者への注目度を高めていきたいということです。

-- モーターの市場が広がっていく中で、貴社がグローバルに戦うために重要なことは。

永守 それはモーターの世界をどんどん広げて、使いやすくしていくことです。モーター同士を組み合わせたり、減速機を付けたり、ソフトウエアを載せたり、さまざまな機能を搭載してモーターをシステム化していきます。

 モーターそのものは変わらなくても、モーターで駆動させるものは変わってきます。大きさも変わり、新しい技術がどんどん入ってきて、これからモーターの用途は無限に広がっていくかもしれません。

 

永守重信氏が考えるグローバル市場で戦う人材の条件とは

 

シャープ出身の片山幹雄氏を招聘した理由

-- 今後の展開として、シャープ・フェローの片山幹雄氏を招聘されますが。

永守 まず片山氏は非常に優秀で、非常に能力が高い。たまたまシャープの経営においては、残念ながら液晶の投資に少し過剰感があって失敗したため、現在の立場になっています。

 もともとは技術的なことも非常に詳しいし、人間的にも素晴らしい人物だと思います。しかし日本の社会は、一度失敗した人を生かさないわけです。これが日本でプロの経営者の育成を遅らせている要因だと思います。

 米国では失敗してもまだチャンスは何度もあるわけですが、日本の場合は一度失敗するとほとんど終わりです。片山氏はまだ56歳で若いし、能力は高いし、やる気は十分ある。なぜこんな人を生かさないのかという思いがあり、だから私が生かそうということです。

 「あんな大失敗した人間を採るとは」という否定的な報道もありますが、それが一番良くない。失敗も大変貴重な経験です。経営者たるものは、挫折の経験とジャッジの回数です。

 私でも41年間でたくさんの失敗してきています。会社が潰れるほどではなかったですが、それに近い経験はしています。そういう経験者が次にやるから強い会社ができるわけであって、失敗した人を干して終わりみたいな社会は良くない。

 日本はそういう社会だから、ああいう経歴の方が行けるところは3つしかない。

 ひとつは自分で独立する。2つめは私のような創業者のところでやる。一般のサラリーマン会社は採らないです。3つめとして、仮に採ったとしても外資になります。

 そうすると日本の技術が流出します。失敗した人間が、中国や韓国に流れていくのは、日本にとって大きな損失です。やはり日本の企業でもう一度チャンスを与えないといけません。

貴重な人材を見逃す日本社会の問題点

-- 招聘する上で、副会長兼CTOというポストについては。

永守 売り上げ3兆数千億円の会社の社長・会長をした人物ですから、私が会長になって、その次の副会長ならばナンバー・ツーという感じになります。

 ただし、私の次にそのまま社長をということは考えていません。当社に来てどういう仕事をするかがすべてです。

 当社はいかに世界的な会社をつくるかでやってきましたから、一番貢献した人がトップに立つという考えです。当社もこれから兆円企業になっていくので、私の代わりに会長になるのか、社長をやるのか、実績次第でチャンスはいくらでもあります。

 彼は一度挫折しているから非常に良いと思います。その挫折がかなり生きるはずです。

 それこそ、あれだけの大失敗はしようと思ってもなかなかできません。そんな大失敗した人は貴重な人材ですし、採らないでどうするんだということです。

 私は彼のことを昨年から考えていました。彼は当社で大活躍すると思いますよ。もう一度花を咲かせます。言ってみれば、名誉挽回です。1回目は失敗したけど、2回目は大成功すると思います。

 失敗したことがない経営者はいません。ああいう人をもう一度生かしてこそ日本にプロの経営者が生まれると思います。スティーブ・ジョブズにしても、アップルを一度追い出されましたが、再び戻ってきた時にものすごい会社にしたでしょう。挫折があったからできたのだと思います。

 日本もこういう社会にすべきです。一度失敗してももう一度チャンスを与えて生かさなければいけません。

 (聞き手=本誌・村田晋一郎 写真=宇野良匠)

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