マネジメント

「選択と集中」は、経営資源の少ない中・小規模企業が大企業に伍していくため、または大企業にとっても経営の機動力を高めるために必要不可欠なテーマだ。ただし、特定分野に特化するだけでは不十分で、その効果を出すには「どの領域に」「どんなやり方で」展開していくかが鍵になる。本特集では、専門領域に特化し、競争力を高めることに成功した企業が、いかなる道を辿ってきたのかを探る。

遠藤功氏の思考  専業の強みを生かす「平均台経営」

 「選択と集中」とよく言われるが、経営とはそもそも何かに「フォーカス」すること。それは競争に勝つための必要条件で、最低限やらなければならないことだ。経営資源が無尽蔵にあれば「フォーカス」する必要性はないが、ヒト、モノ、カネが限られていれば、どこかに集中しないと勝てない。競争相手との相対的な関係を見て、自分たちの経営資源が一体どれくらいあるのか、戦う領域をどこまで狭めるのか判断するのが経営者の重要な仕事になる。

 専門分野に特化して強みを発揮している企業では、例えばアパレルメーカー向けに編機を製造・販売している島精機製作所がある。同社は独自の技術を持っていて、部品などはすべて内製。一時、安価な中国製に顧客を奪われたことがあったが、品質の良さが評価されて数年後には注文が戻ってきた。

 こういうところがまさに日本企業の強さで、目先の価格ではなく付加価値で勝負するという考えに基づき、自信を持ったビジネスをしなければならない。価格競争で自社製品がコモディティ化すると嘆く経営者もいるが、日本企業は自分たちの技術を究めて、付加価値を高める方向に向かう必要がある。

 また、液晶パネルや半導体のように、製造装置があれば誰でも作れるような製品になった時点で日本メーカーに勝ち目はない。そうした場合は、完成品ではなくそれを作る機械や部品、素材で儲ければ良い。日本企業の緻密さ、こだわりが生きる領域こそが「戦う土俵」だ。

遠藤 功(えんどう・いさお) 1956年生まれ。東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、三菱電機、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て現職。米ボストンカレッジ経営大学院MBA。製造業、サービス業、金融機関の事業戦略立案、マーケティング戦略、営業改革、業務改革などで豊富な経験を有し、グローバルな競争力を確立しようとする日本企業に対して、さまざまな支援を行っている。良品計画社外取締役、ヤマハ発動機社外監査役、NKSJホールディングス社外取締役なども務める。

遠藤 功(えんどう・いさお)
1956年生まれ。東京都出身。早稲田大学商学部卒業後、三菱電機、米国系戦略コンサルティング・ファームを経て現職。米ボストンカレッジ経営大学院MBA。製造業、サービス業、金融機関の事業戦略立案、マーケティング戦略、営業改革、業務改革などで豊富な経験を有し、グローバルな競争力を確立しようとする日本企業に対して、さまざまな支援を行っている。良品計画社外取締役、ヤマハ発動機社外監査役、NKSJホールディングス社外取締役なども務める。

 ただし、それだけで勝ち続けられるとは限らない。予想以上に市場が縮小することもあれば、逆に新規参入が増え、競争環境が厳しくなることもあるからだ。

 そこで提唱したいのが「平均台経営」だ。専業というのはいわば体操競技の「平均台」のように、すごく狭いところに乗っかってグラグラしながら緊張感を持って経営するようなもの。落ちるかもしれないし、先がないかもしれないというリスクが常に伴う。しかし、そこで力を付ければその分野を制することができる。リスクを恐れて安全な「床運動」に行くのではなく、「平均台」を何本も持つことが経営の極意。ニッチ領域でグローバルトップの製品をたくさん持っている日東電工などが良い例だ。こうしたやり方によって、専業のリスクを回避できるだろう。

 そして、もう1つ大事なのがそれぞれの「平均台」に横串しを刺すことだ。

 例えば電子顕微鏡や分析機器で展開している日本電子は、良い製品を数多く持っているが、以前は製品ごとに営業担当が異なり、パッケージで売ることができていなかった。そこに横串しを刺して、顧客が欲しいものをソリューションとして提供するように変えてから、業績が大きく伸びている。各製品の強みをトータルな価値として提供できれば、多くの日本企業は儲かる体質に変わることができる。単純な専業メーカーではなく、総合専業メーカーになることを目指すべきだ。

遠藤功氏の提唱する経営戦略 求められる「プロデューサー機能」

 専業の良さを引き出すには、システム発想が必要だ。日本の鉄道輸出を例に挙げると、車両を作る会社、運行システムを作る会社、信号機を作る会社などがすべてバラバラで、強みを発揮できていない。独シーメンスなどは、これらをパッケージで売り込むので、海外では圧倒的に強い。

 今、日本に求められるのはそれぞれの専門企業をオルガナイズする「プロデューサー機能」だ。これができれば専業の強みがもっと生きてくるだろう。中堅の専業メーカーを否定しているわけではないが、各々がバラバラであることの非効率性によって、大きな価値を生み出せていないという問題がある。大手企業や商社などが、プロデューサーの役割を担うことが求められる。オープンイノベーションの考えに基づき、さまざまな企業の強みを組み合わせて戦うことが重要である。

 欧米では、全体として何が必要かというシステムから発想するのに対し、日本企業の多くは、素材やコンポーネントといった「点」や「個」の発想が強い。どちらが良い悪いという話ではないが、「点」や「個」の発想だけでは「面」の広がりは持てない。

 単にモノを売るというより、より大きな価値を提供するためにモノを生かすと考えることが、海外で勝負するためには不可欠だ。 (談)

 文=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博

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