文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

医者によって言うことが違う絶対的な治療法の不在

 医者によって言うことが違う--。そう感じている方は少なくないのではなかろうか。ある医者は手術を勧め、ある医者は薬を飲んで治療したほうがいいと言う。患者にすれば、どちらを信用するかで大いに迷うところだ。

 そんな中で、最近では、医者側がさまざまな選択肢を提示し、どれを選ぶかの最終判断は患者側に任せる傾向も強まっている。

 確かに、患者の年齢や社会的な背景事情を考えると、1つの治療法を提示しにくいのは事実だ。外科的な手術は年齢が高いとリスクを伴い、薬での治療にしても副作用の問題をはらむ。とりわけ、がん治療では、薬の副作用は大きなリスクだ。そのため、一概に「この治療法が良い」とは断言できず、勢い、患者に治療法を選ばせるという風潮が生まれてしまう。

 このような状況の裏を返すと、絶対的な治療法が依然として確立されていない医学の現実も浮かび上がってくる。

 言うまでもなく、特定の病気に対する唯一絶対の治療法があれば、医者も患者も楽になる。また、医療がそこまで進歩すれば、医学も「科学」により近づいたと言える。

 だが、今日の医療はそのレベルにまだまだ達していない。雑誌やテレビなどのメディアはよく「日本の名医」なる企画を展開しているが、そもそも医療の質が属人的な技量によって変化すること自体、医学が科学からはほど遠い学問であることの裏付けと言える。

「必ず治る」と医者が言い切る勇気

 医者が「絶対に治ります」、「必ずよくなります」という言葉を使うことはあまりない。

 だが、整形外科の開業医の中には、「うちに半年通えば、必ずよくなる」といった言葉で通院を勧める向きがいる。

 私も腰痛患者を診たことがあるが、その経験から言って、例えば、高齢者の腰痛がよくなるケースは例外的だ。また、脊柱管狭窄症が原因の腰痛が内科的な治療でよくなることもまれにしかない。とはいえ、患者にすれば、「絶対に治る」と医者から言われれば、治療への期待感が増し、希望も持てるだろう。つまり、「絶対に治る」、「必ずよくなる」といった医者の言葉は、単なる営業トークにすぎないかもしれないが、一方で、患者を勇気づける力も持っているのだ。

 ベル麻痺と呼ばれる顔面神経麻痺は、ほとんどの場合、後遺症なく自然に治癒するが、まれに後遺症が残り、完全に治らないことがある。そのリスクを承知で、医者が患者に「絶対によくなる」と言ったとすれば、それは、病気に対する患者の不安を消し去る上で、この言葉が最も効果的との考えがあるからだろう。逆に、「まれに後遺症が残る場合があります」と言う向きは、患者の不安を消し去ることよりも、自己保身を優先させる医者と見なすこともできる。そのため、私は最近、「絶対に治る」と言い切れる医者は、勇気のある良医だと考えるようになった。そして、「私を信じなさい、必ずよくなるから」といったフレーズを患者に対して使い始めてもいる。

 現状では、多くの医者が自分の立場を守るために、「絶対に治る」「絶対によくなる」といった言葉を使おうとしていない。だからこそ、「絶対に治る」と言い切れる医者は貴重な存在とも言えるのだ。

名医が名医たる真の条件とは

 一方、患者を突き放すような医者の言葉を一度聞いたことがある。それは、都内某有名医大の整形外科に父を連れていった時のことだ。

 「これは治りませんね」--。

父を診察した医者は、あっさりとこう言い放ったのだ。

 確かに、私が専門とする神経内科でも、治らない難病は少なくない。だが、「治らない」と医者に言われた場合、それを患者や家族が受け入れるには時間がかかる。そんな患者や家族に対して医者ができることは限られている。だからこそ、患者や家族の想いに共感し、ともに悩み、悩みを解消する何かを一緒に考えていく姿勢が重要だ。また、それにこそ、医者としての存在意義があると言えるだろう。

 にもかかわらず、患者に対する思いやりや誠意に欠ける医者は依然として少なくない。「有名な教授に診てもらったが、『治らないね』のひとことだった」と嘆く患者の声も耳にする。名医と称えられ、手先が器用で、技術知識があっても、患者の心のケアまでできる医者は本当に少ない。

 病気は、完全に治るか、進行していくか、あるいは、症状に変化がないかの3つの道筋をたどる。その結末を経験・知識で知る医者が、たとえ「治らない」と分かっていても、「必ず治ります」と患者に言ってあげられる勇気は大切だと思う。また、仮に「治らない」と言い切った場合でも、患者に共感し、ともに苦難を乗り越える誠意を示せるかどうかが、名医が名医たる真の条件ではないだろうか。

 

筆者の記事一覧はこちら

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る