国際

他国と比べてもケタ外れに厳しい米国の刑罰

 日本企業が米国で巨額の制裁金(罰金、和解金などを含む、以下同じ)を科せられるケースが増えている。2000年ITバブル崩壊、01年米国同時多発テロ、08年リーマンショックなどの危機や不祥事を経て、米国では、厳罰化が進んでいる。

 多民族国家の米国の制度は独自性が高い。

 しかも、厳罰主義だ。09年に、スイスの銀行UBSの社員が、米国顧客の脱税幇助の罪で、40カ月の禁固刑に処された。脱税額は約7億円(1ドル100円換算、以下同じ)だ。ところが、UBSの支払った制裁金は約780億円だった。脱税発覚のきっかけは、元社員の内部告発だった。米国の税務当局IRSは、内部通報者に対して最大で罰金額の15〜30%の報奨金を支払う制度があるため、刑務所にいる元社員は105億円の報奨金をもらった。つまり、7億円の脱税に対して、米国政府は780億円もの罰金を取り、105億円の報奨金を服役者に対して支払ったのだ。

 米国の制裁・刑罰は、他の国と比べても、ケタ外れに厳しい。金融機関に対する制裁金の最高額は、米国が約1・3兆円、英国が約240億円、そして日本は5億円と、国別に大きな差がある。オランド大統領(仏)がオバマ大統領(米)に対して、フランスの銀行BNPパリバに対する制裁金の軽減を求めたが、最終的には約9千億円と記録的な金額になった。

 一方、日本の罰金は小さい。12年増資インサイダー事件において、違反した金融機関に対する課徴金(行政罰)がわずか5万円という例もあった。インサイダー取引に対する個人の刑事罰は、米国では20年以下の懲役(罰金500万ドル以下、法人は罰金2500万ドル以下)だが、日本は5年以下(同500万円以下、同5億円以下)と軽い。

米国の罰金が高額である理由は民事訴訟

 米国の罰金が高額である理由のひとつは、司法省などが民事訴訟できるためだ。例えば、インサイダー取引は、被害者が広くて薄い。被害者が犯人を訴えて勝っても、損害賠償額は小さい。そこで、司法省やSECなど政府機関が一般市民に代わって、訴訟を起こす。しかも、日本同様の補償的損害賠償に、懲罰的損害賠償が加わって、一段と高額になる。

 米国では推定無罪の原則(疑わしきは罰せず)が強いため、刑事事件で勝つのはハードルが高い。刑事訴追において、有罪認定には、「合理的な疑いの余地のない程度の立証」(かなり高い確度)が必要である。しかし、通常の民事訴訟は、「証拠の優越性」(確度が51%以上)が尺度となり、立証のハードルが低いのが特徴だ。

 例えば、アメリカンフットボールの元スター選手O・J・シンプソンは、元妻の殺害容疑の刑事裁判では無罪になった。だが、民事訴訟では、シンプソンが元妻の死亡に責任があると認定され、補償的損害賠償9億円と懲罰的損害賠償25億円の合計34億円を、被害者家族に支払うことを命じる判決が出た。

 このように、民事訴訟を使うと勝訴の確率が高まり、かつ懲罰的損害賠償が加わるので、刑事罰よりも制裁額が数倍になることもある。さらに、SECや州政府なども民事訴訟できるので、これらが積み重なる。その結果、1兆円を超える罰金になることもあるのだ。

相次ぐ摘発に対応迫られる日本のグローバル企業

 最近では、米国で、日本企業が厳しく摘発されている。14年に、トヨタ自動車はリコールに関して、司法省に約1200億円の和解金を支払った。ブリヂストンは、米国司法省との間で、自動車部品のカルテルにより独占禁止法に違反した事実を認め、罰金約430億円を支払う司法取引に合意した。カルテル違反の罰金では、12年に矢崎総業に科せられた約470億円が最高だ。11年には、日揮がナイジェリア政府関係者に対する贈賄で約220億円の罰金を支払っている(連邦海外腐敗行為防止法違反)。

 罰金だけでは済まず、会社幹部が刑務所で服役するのも、米国の刑罰の特徴だ。自動車部品大手メーカーであるタカタの幹部3人が、自動車部品の国際価格カルテルの関与を認め、14〜19カ月の禁錮刑と罰金各2万ドルの支払いに同意した。これは、司法取引なので、刑は軽減されている。

 司法取引が成立しない場合もある。自動車部品のカルテルにおいて、東海理化は12年に有罪を認めて司法取引に応じ、罰金を支払った。しかし、東海理化の元幹部との司法取引が不調に終わり、司法省はこの幹部を起訴した。有罪の場合、元幹部は服役する可能性がある。

 当然、米国で事業を行う日本企業は、米国法に従う義務がある。しかし、(1)日本企業の米国法順守体制の整備が十分でない、(2)米国の刑罰や制裁金が日本と比較してはるかに厳しいことが十分理解されていない、といった理由から、近年、日本企業が高額の制裁金を科せられるケースが増えている。

 今や、グローバル企業の経営者は、米国法の順守が大きなリスク要因であると認識する必要がある。外部の専門家のアドバイスを受け、社内の体制を強化することが不可欠である。

 

【WORLD INSIGHT】記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

変貌するアジア

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ
無農薬野菜

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る