マネジメント

石渡美奈・ホッピービバレッジ社長プロフィール

石渡美奈

石渡美奈(いしわたり・みな)1968年、東京生まれ。立教大学卒業後、日清製粉に入社。93年に退社後、広告代理店のアルバイトを経て、97年ホッピービバレッジに入社。広告宣伝、副社長を経て2010年、創業100周年の年に3代目社長に就任。現在、慶応義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科在籍中。著書に、『社長が変われば会社は変わる!』(阪急コミュニケーションズ)『技術は真似できても、育てた社員は真似できない』(総合法令出版)など。

「しなやかさ」が魅力のホッピー

 ビール味の低アルコール清涼飲料として関東圏で支持されるホッピー。戦後まだビールが高嶺の花だった時、ビールの代用品として広まり、焼酎の割り材、ヘルシードリンクとして時代の変化と共に山谷を乗り越えてきた。

 一貫してホッピーを中心に据えている理由について尋ねるとホッピービバレッジの三代目社長、石渡美奈氏はこう語った。

 「ホッピーに『こだわる』というような、そんな頑ななものではなく、経営はもっとしなやかです。ホッピーという商品の競合はアルコール飲料ではありますが、ホッピー自体は世界で唯一無二の商材。それを強みにビジネスするのはありがたいことです。ただ、唯一無二という理由以上に、ホッピーには魅力も可能性もあるから、謙虚に今やっていることを粛々と続けるだけです」

 石渡氏が言う通り、ホッピーはしなやかだ。

 冒頭のように、ビールの代用品としてスタートし、焼酎の割り材、ヘルシードリンクなど、時代によって見せ方を変えてきた。今夏は、軽井沢国際音楽祭とのコラボレーション商品も生まれた。さまざまな企業や団体などからコラボレーションの依頼が後を絶たないという。

 「ホッピーは愛情をかけただけ答えてくれる。どんな世界とも融合してくれることがすごいと思います。だから商品の品質改良はもちろんのこと、ホッピーに新しい活躍の場を作って、どんどん新たな可能性を発見したいのです」

 

ホッピーが持つ文脈的価値とは

 

 変幻自在に歴史の流れに乗れるのは、ホッピー自体がもともと文脈的価値を編み出しやすい商品であるからだと石渡氏は言う。

 では、その文脈的価値とは何か。石渡氏はこんなエピソードを教えてくれた。

 「ある日本を代表するロックバンドはデビュー前、練習が終わると焼鳥屋でホッピーを片手に『いつか有名になって、たらふくホッピーを飲もう』と夢を語り合ったというのです。彼らが今でもホッピーが好きな理由は、夢と希望に燃えていた時を思い出せるからだと私に語ってくださったことがあります」

 似たようなエピソードに事欠かないのだという。そして、石渡氏はこう強調した。

 「当社には『きょうは誰のホッピーを飲みに行こう』という言葉があるくらい、店や作る人が変わるだけでもホッピーの味は変わります。ファンそれぞれがホッピーに関するエピソードを持ち、何かしら飲み方のこだわりを持つ。手間暇をかけて自分だけの『ホッピースタイル』を作れる。これがホッピーの究極の魅力ではないでしょうか」

 消費者が愛情をかけ、それぞれのエピソードを持っているのは、ホッピーの持つ役割や使命があるからこそだと石渡氏は分析する。

 東日本大震災の被災地にホッピーを届けて歓迎されたことがある。石渡氏はその時、ホッピーには人に寄り添い、元気づけ、人と人を結ぶ役割があると気付いたという。

 「東日本大震災の後、祖父がホッピーを作った終戦直後の状況に似ていると思いました。ホッピーが生まれた時、酒は高級で手が出せず、質の悪い酒を我慢して飲んでいた時代でした。その中で生まれたホッピーは質の悪い酒をおいしく変化させる希望の飲料でした。困難な時に希望を与える存在なのだとあらためて思いました」

 

東京五輪はホッピーが飛躍するチャンス

 

石渡美奈 現在、こうしたホッピーの魅力を伝える範囲は限られている。販売地域が関東、その大半が首都圏だからだ。国内市場を広げていくことも視野に入れているが、決して背伸びはせず、足元を固めることが先決だと石渡氏は言う。

 「社長としての私の質、社員の質、技術の質がしっかりとつけば、自然に量はついてきます。もちろん戦略的な計画もありますが、仕事は結局、人と人とで成り立ちます。しっかりとした人間関係ができている取引先で商品を届けるだけで許される場合もありますが、それでは花は咲いても実は収穫できない。2006年に新卒採用を始め、現在の社員の平均年齢も若いですから、まずは人間力と組織力をつけてからです」

 石渡氏は20年の東京五輪には、「東京ドリンク」であるホッピーが飛躍するチャンスが秘められているとする。

 その頃には新卒初期組が中堅となり、組織力も備わるだろう。それまでは、浮足立たず、着実に実力を蓄えていく考えだ。

(文=本誌・長谷川 愛 写真=西畑孝則)

 

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