マネジメント

 優れた人に仕える経験を持つことは、とても幸せなことだが、それが5人ともなれば、それこそ男子の本懐である。石川一郎にはじまり、石坂、植村、土光、稲山と5人の財界総理を支え、裏方に徹した50年を振り返る。(1984年6月12日号)

裏方に徹し切った50年を振り返る花村仁八郎氏

花村仁八郎

花村仁八郎(はなむら・にはちろう)
(1908〜1997)福岡県出身。東京帝国大学卒業後、重要産業協議会の職員になる。総務部長を経て、47年経団連総務部長、75年に事務総長に就任。翌年、副会長も兼任。83年には日本航空の会長にも。「財界の政治部長」といわれ広い人脈を誇った。

-- 裏方として最高位まで上り詰めましたが、その秘密は。

花村 誠実、真実一路に仕事をやってきただけです。そして、決してでしゃばらないことも大切ですね。

-- 相手はすべて経団連のお客さまですからね。

花村 そうですよ。ですから、私は副会長になってもいつも末席に座っています。経団連のスタッフ諸君には〝民僚〟だという意識で、いつも謙虚に接しろ、と言っています。

-- 花村さん自身も見事に裏方に徹していますね。

花村 会長に並んで記者会見に出席した時でも、「私独自の意見はない。会長が言われたとおりです」とお答えすることにしています。私は独立した人格ではないと思っていますから。

-- いわゆる女房役ですね。

花村 〝メンドリがときをつくれば、国滅ぶ〟という言葉もある。メンドリがときをつくっても、舞台に上がるのはオンドリだけです。そういう風に徹してきましたから、長持ちしたんじゃないですか。

-- 立派な会長にお仕えしてきましたね。

花村 5人の会長に仕えてきましたが、それぞれ特徴があって本当に立派な方ばかりでした。

花村仁八郎氏が歴代の財界総理に学んだこと

-- 土光敏夫さんに教えられたことはどういったことですか。

花村 重点的にやる人でしたね。特にエネルギー問題ではあの人の右に出る人はおりません。そして、相手が大臣であろうが誰であろうが〝怒号さん〟といわれるぐらい、陣頭指揮で行動する方でしたね。

-- 事務方としても大変だったでしょう。

花村 よく怒りましたね。ただ、私だけは怒られませんでした。

-- それはまたどうして。

花村 それは私が事務の責任者だからですよ。責任者をやっつけたら、みんながついてきませんからね。

-- 花村さんも、よくお仕えされましたよね。

花村 その代わり、私を専務理事、事務総長、副会長と引き上げてくれたのも土光さんです。あの方に「あいつなら事務方を任せられる」と信頼されたのは、私の光栄ですね。

-- 稲山嘉寛会長からはどんなことを学ばれましたか。

花村 稲山さんは土光さんと違って〝怒号〟しない人ですね。しかし、いったん決めたことはテコでも動きません。そして、いつもニコニコしている。

 事務局の総会で、「会長がニコニコしている方が本当は恐いんだよ」といったら、職員は苦笑していましたよ。

-- 稲山さんといえば〝我慢哲学〟で代表されるように我慢強い人ですからね。

花山 それぐらいでなければ八幡、新日鐵で60年も生き抜いてこれませんよ。経営者として超一流の方です。

-- 植村甲午郎さんにはどういったことを学ばれましたか。

花村 植村さんの時代は高度成長時代で、各業界の調整を必要とした時でした。例えば、石油審議会の会長の時は、石油を掘れば儲かる「オレが、オレが」の時代でしたが、うまく調整されていましたね。

-- 調整能力に長けた方でした。

花村 あの方も生まれてから怒ったことがない人でした。植村さんは石炭鉱業審議会、石油審議会の会長。それから日航の会長と海運造船審議会の会長もやったから、〝海千山千〟のほかに〝空千〟というのもあると冗談を言ったら、笑っておられました。

-- 石坂泰三さんはいかがですか。

花村 石坂さんは自由化を進めてこられ、経済の国際化という点について先見の明がある方でした。自動車業界も最初は反対していましたが、自由化に踏み切ったお陰で体質が強化され、逆にアメリカに進出するところまできたわけです。

-- 日本経済の恩人ですよ。

花村 石坂さんは親分肌のところがあって、「うまくいったら、お前たちの功績、うまくいかなかったらオレの責任にしていい」とよく言っておられました。

-- そういった一級の人たちに仕えて本当に幸せですね。

花村 本当にそう思いますね。自分のオヤジのように接してきましたが、死んで本当のエラさを感じるように、今、そう感じています。そういう方たちの薫陶を受けて、私はそれを忠実に守ってきたにすぎません。きついこともありましたが、76歳の今日まで第一級の人たちに接してこられたというのは大変幸せなことだと思います。大きな金額の政治資金を扱ったが、一銭一厘も間違ったことはありませんでした。それで、「花村なら……」という信頼を得た。そういう意味では男子の本懐ですね。

 

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