マネジメント

J-REITは不動産の収益を分配する投資商品

 J-REIT(不動産投資信託)は、「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)に基づいて設立された投資法人が、投資家などから集めた資金で不動産等を取得し、運用不動産の賃料収入などの収益を分配する投資商品です。

 信託という名称ですが投資法人は株式会社に似た法人で、投資家が取得する投資口は、株式に類似する有価証券です。株式と同様、J-REITの投資口の多くは上場され、一般の投資家も証券取引所を通じて売買することが可能です。

 J-REITは、投資家のエクイティ資金と銀行借入・債券発行のデット資金を用いてオフィスビル、商業施設、住宅などの不動産を取得します。最近では、物流施設やホテル・旅館を主な投資対象とするJ-REITも登場し、ヘルスケア・リートへの注目も集まるなど、運用不動産の多様化が進んでいます。

 取得する不動産等は、J-REITから運用委託を受けた登録業者(資産運用会社)が選定しますが、資産運用会社自身は上場会社ではなく、通常、不動産業者や金融機関などが株主(スポンサー)になっています。

J-REITの歴史

 J-REITの歴史は、2001年の投信法改正にさかのぼります。

 上場J-REIT全体の時価総額水準を示す東証REIT指数(03年3月31日時点を1千ポイント)は、07年5月に2600ポイント超まで上昇しましたが、その後のサブプライム、リーマンショックによる世界的信用不安の煽りを受け、08年10月には約700ポイントまで下落しました。

 10年秋頃からJ-REIT市場もようやく回復傾向を取り戻したものの、それまで数年はJ-REITにとって苦難の時期でした。投資口の公募による新規資金調達は皆無となり、金融機関からの借入の返済に苦しむJ-REITにはスポンサーの変更や合併による統合を行い、さらには倒産するJ-REITもありました。

 制度開始から10年を経過し、J-REITはメジャーな投資商品としての地位を確立しましたが、米国のREITに比べると、まだまだ市場規模は小さいのが現状です。

 J-REITの財務基盤の安定化・資産増加による運用効率の向上を図り、グローバル市場でのJ-REITの魅力を高めることを目的に、金融庁による検討を経て13年6月、投信法改正が国会で可決されました。

 本連載では今回の第3回と次回の第4回で、投信法の改正内容のうちJ-REITへのインサイダー取引規制の導入と、資金調達・財務戦略の多様化について説明します。

J-REITにインサイダー取引規制が導入された背景

 J-REITはその多くが上場されているにもかかわらず、これまで投資口は金融商品取引法(金商法)の下でインサイダー取引規制の適用対象とされていませんでした。これは、J-REITの投資口の価格は運用不動産の純資産価値に基づいて決定されるはずで、インサイダー取引のリスクが少ない、と考えられていたからです。

 しかし、市場での投資口価格の変動を見ても明らかなように、投資口価格は市場動向の影響を大きく受ける上、未公表の事実を知って投資口の取引を行うことで、投資法人の関係者が不公平な利益を得ることも可能な仕組みになっていました。

 こうしたことを背景に、投資口についても証券市場の公正性・健全性に対する投資家の信頼を確保する必要があるとして、金商法の改正で投資口にインサイダー取引規制が導入されることになりました。公布の日(13年6月19日)から1年以内に施行されます。

 インサイダー取引とは、広く知られているように、会社の関係者などが一般に公表されていない会社の重要な事実を保有しながら、会社の株式等の売買などをすることです。取引で実際に利益を得たかどうかにかかわりなく、インサイダー取引を行った者には、刑事罰や課徴金が課される可能性があります。

 今回のJ-REITへのインサイダー取引規制の導入で特筆すべきことは、規制の内容がJ-REIT特有の事情を考慮してきめ細かく設計されたことです。

 投資商品としてのJ-REITは、投資家の資金を運用する器となる投資法人だけでなく、その資産運用会社やスポンサーを含めた利害関係者の協働で運営されています。

 その観点から今回の改正では、インサイダー取引規制の適用を受ける「会社関係者」の範囲に投資法人の役員などだけでなく、資産運用会社とスポンサーの役員・従業員なども含まれることになりました。

 インサイダー取引規制の対象となる重要事実も、例えばJ-REITのスポンサー企業の変更など、投資口の価格変動を生じさせる事実は株式の場合と異なることから、投資口にかかる重要事実は、J-REITの特質を踏まえた上で株式会社とは別個に列挙されました。

 また、J-REITにインサイダー取引規制を導入する改正と同時に、金商法の改正によって、インサイダー取引を通じて他人に利益を得させる目的で未公表の重要事実を伝達することと、そのような情報を伏せて取引を奨励することも違法行為となります。この情報伝達・取引推奨行為に関する規制は、J-REITにも適用されます。

多様な資金調達・財務戦略へのニーズの高まり

 J-REITは、一般投資家でも小額の投資資金で不動産投資ができるようにとの考えから始まりました。

 J-REITの投資商品としての性格に照らし、例えばJ-REITが転換社債(新株予約権付社債)やワラント(新株予約権)を発行することや、自己投資口を取得(株式会社の自社株買いに相当)することは、必要性がないとの理由から、現行の「投資信託及び投資法人に関する法律」(投信法)では認められていませんでした。

 J-REITは、保有不動産からの賃料収入などを利益の源泉にしますが、銀行借入などでレバレッジを40%から50%程度かけることで、投資家のリターンを高めています。

 リーマンショック後の信用不安の経験を経て、どのような運用資産を保有するかというアセット面だけでなく、デット面の安定性をはじめとする財務戦略の巧拙がJ-REITの運用成績や市場価格に重要な影響を及ぼす、との考え方が投資家・J-REIT関係者に浸透し、より多様性のある資金調達・財務戦略の手段をJ-REITに認めるべきとの声が高まっていました。

改正投信法のポイントとJ-REIT

 改正投信法では、J-REITにライツ・イシューによる資金調達を認めるとともに、自己投資口の取得による投資家への還元や名目上の減資という新たな財務戦略の手段が与えられることになりました。公布の日(2013年6月19日)から1年6カ月以内に施行されます。以下、改正投信法を説明します。

【ライツ・イシュー】

 株式会社で既に認められているライツ・イシューとは、株式会社がその既存株主全員に対し、権利行使価格の支払いと引換えに株式を取得できるオプション(新株予約権)を無償で割り当てて、新株予約権を行使した株主から会社が権利行使価格の支払いを受けることで資金調達を行う増資方法です。

 通常、権利行使価格を市場価格より低く設定し、株主に新株予約権を行使するインセンティブを与えます。新株予約権を割り当てられた株主がその行使を望まない場合は、市場で新株予約権を売却できるため、一般的には増資による希薄化を緩和し、既存株主の利益にも配慮した増資方法と言われています。以前はほとんど活用されていませんでしたが、法律や取引所規則の改正により、近年は株式会社で実施例が増えています。

 今回の投信法改正では、J-REITの運営を安定させる資金調達方法の多様化を目指し、信用収縮時にも比較的確実に資金調達を実現できる手段としてライツ・イシューが認められることになり、J-REITでも新株予約権と同様のオプション(新投資口予約権)が発行できるようになりました。

 ライツ・イシューで新投資口予約権を割り当てられた投資主は、行使して権利行使価格を支払い投資口を取得するか、新投資口予約権を市場で売却することができます。

 また、新投資口予約権には発行者のJ-REIT側のコールオプション(取得条項)を付すことも可能で、一定期間中に行使されなかった新投資口予約権をJ-REITが強制的に取得して証券会社に譲渡し、証券会社がそのすべてを行使する形で資金調達を行う、コミットメント型のライツ・イシューも想定されています。

【自己投資口の取得】

 これまでJ-REITでは、特定の限られた場合を除いて投資法人が自らの投資口を取得することは禁止されていましたが、今回の改正で投資法人は、規約(株式会社の定款に相当)に基づく投資主との合意、取引所での売買や公開買付けなどを通じて、比較的自由に自己投資口を取得できるようになりました。

 自己投資口取得の容認は、金融市場の動向が投資口価格に与える影響を緩和し、流通投資口の削減による1投資口当たりのリターンを向上するとともに、割安投資口の放置を許容しないというシグナリング効果などがあるといわれ、J-REITの運営安定につながることが期待されています。

【減資】

 今回の改正では、J-REITによる投資法人の財産を減少させない出資総額等の減少(無償減資)の実施も認められました。運用不動産の時価が大幅に下落して減損処理が行われた場合、累積損失をその後の利益で解消するのに長い期間を要し、税務・会計処理の不一致からJ-REITに高額の法人税が課される可能性があります。こうした問題を解消するため株式会社と同様、J-REITにも欠損填補目的の減資を認めるべきとの指摘がされていました。

 詳細は今後の内閣府令を待つ必要がありますが、投資法人の損失(貸借対照表の出資総額と出資剰余金の合計額から純資産額を控除した額)の全部か一部を出資総額等から控除することで処理が可能となります。

【見送られた事項】

 法改正を議論した金融審議会のワーキング・グループは、ほかにもJ-REITの転換投資法人債や種類投資口を認める可能性を模索しました。

 ただ、株式会社に比べて簡素なJ-REITのガバナンス構造では、さまざまな投資家の利益のバランスを図ることが難しいことから、これらの制度の導入は時期尚早とされ、今回の改正では見送られました。

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