マネジメント

挽野元氏は語る ボーズは生演奏の感動を届け続ける研究開発企業

挽野 元

挽野 元(ひきの・はじめ)
1967年神奈川県横浜市生まれ。92年武蔵工業大学(現・東京都市大学)大学院工学研究科修了。同年横河・ヒューレット・パッカード(現日本ヒューレット・パッカード)入社。2006年執行役員、同年米国ヒューレット・パッカードバイスプレジデント。11年取締役。13年1月ボーズ社長就任。

 最近、音響機器メーカー、ボーズが発売したヘッドホンがパステルカラーで驚いた、という話題がファンの中で盛り上がっているという。相変わらずずしりと響き、ライブの息遣いが感じ取れるヘッドホンやスピーカーばかりだが、昔からある渋く重厚な見た目の製品に加え、ポップで明るいデザインの製品が登場していた。新しい局面にあるのかと疑問を挽野元社長にぶつけると、微笑んでこう切り返された。

 「ボーズは常にチャレンジし続けています。より良い音をより多くの方に届けるため、新しいユーザー層に向けて新しいスタイルを発信し続けています。変わらないボーズと変わるボーズの両方があるのです」

 挽野氏が言う変わるボーズは製品のデザインなどのラインナップの多様化、変わらないボーズは創業50年間守り続ける「生演奏の感動をお客さまに届ける」という理念とその技術のことだ。

 音響機器市場には大手メーカーが数多く参入している一方で、老舗国産メーカーは撤退を強いられている。そんな変化が激しい市場で米国生まれのボーズが、日本で存在感を示し、さらには新しいファン層を獲得できるのは、「不変の部分」をしっかりととらえることができているからではないだろうか。

BOSE 同社の不変の理念は創業者であるアマー・G・ボーズ博士が起業するに至ったエピソードに由来する。ボーズ博士はマサチューセッツ工科大学の教授だったが、同時にバイオリンをたしなむ音楽愛好者でもあった。あるとき、ボーズ博士は購入したスピーカーから流れる音と、生演奏の音との違いに愕然とする。そこで、自らスピーカーを作ろうと1964年に同社を創業した。この思いは今も「生演奏の感動をお客さまに届ける」という理念として残り、研究開発企業としての立場も50年間守られている。

 研究開発の成果は、小型ながら迫力のある音を奏でるスピーカー技術や、ノイズを打ち消す技術「ノイズキャンセリング」を搭載したイヤホンなどの製品に現れる。

 この50年、マーケット・オリエンテッドではなく研究開発を起点に製品群を提供し続けられるのは、非上場企業であることも大きな要因だろう。四半期毎の業績に一喜一憂せず、利益を研究開発に潤沢に投資できる環境が同社にはある。

 「上場は資金調達の面でメリットがありますが、私たちは非上場で利益を研究開発に投資するというやり方に自負を持っております。これには長期的に、腰を落ち着けて成果を出してゆける強みがあります。もちろん研究開発が自己満足で終われば企業として成立しませんので、お客さまに喜んでいただけるような研究成果を出すことが前提です」

ボーズの製品、音楽を愛する社員が原動力であると語る挽野元氏

挽野 元 一方で、音響機器市場は変化が激しい。スピーカーで音楽を楽しむスタイルから、スマートフォンなどにイヤホンをつないで聴くユーザーが増えた。ライフスタイルの変化に対応できない企業があってもおかしくない。それでも同社が50年間、音響機器市場という土俵で戦い続けてこられた理由はどこにあるのか。挽野氏はこう分析する。

 「ボーズにはボーズの製品や音楽が好きな社員が多い。これは日本法人だけではなく、世界中同じです。米国の企業にしては勤続年数の長い社員が多いのも独特だと思います。音に対して情熱があるから、社員は自信を持って製品を説明できます。マーケティングという言葉でくくればそれまでですが、かかわる人の情熱、愛情があればマーケティングに説得力が増しますし、強みになります」

 さらに、挽野氏は社員の特徴として企業文化や理念を深く理解し、共感していることを付け加えた。社員が同じ方向を見ているからこそ、市場が変化しても「1人でも多くの人により良い音を届けたい」という思いで1つになり、時代の流れを読んで研究開発の投資先を見極め、新製品を提供できているのだ。

 挽野氏は理念を守り、新しい技術を提供し、愛情あふれる社員が支える仕組みと、それを未来永劫続けられる土壌が同社にはあると自負する。それが、競争の激しい音響機器市場という土俵に集中しながらも生き抜くことができる強さにつながっているのだろう。

(文=本誌・長谷川 愛 写真=西畑孝則)

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