マネジメント

 「技術革新がなければ会社は継続しない」--米国に本社を置く半導体メーカー、サンディスクの創業以来の理念だ。

 サンディスクが創業したのは1988年。当時のコンピュータの記録媒体はHDD(ハードディスクドライブ)、FDD(フロッピーディスク)など、モーターで円盤を回転させるものだった。半導体産業のメッカといわれたシリコンバレーに誕生したベンチャー企業は、この分野に挑戦し、半導体を記録メディアとして利用して、ストレージ(外部記憶装置)の可能性を追究することを命題とした。

 初代社長のエリ・ハラリ氏ら3人で始まったサンディスクは、USBフラッシュメモリー、SDカード、コンパクトフラッシュなどに代表されるフラッシュメモリー(データの書き込み・消去が自由で電源を切っても記憶が消えないメモリー)で急成長を遂げ、現在は売り上げ60億ドルを超えるグローバルブランドとなった。世界中で取った特許は4千件以上。

 今年7月には、同業のフュージョン・アイオーを約11億ドルで買収するなど事業拡大の勢いは止まっていない。個人向けモバイル機器から法人向けのサーバーまで幅広い分野で存在感を示し続けている。

 日本法人は92年に設立。三重県四日市市では東芝と共同出資した工場で開発・製造を行っており、今年9月には3Dメモリーという最先端の開発と製造を行うための大規模な建て替えに着手する。

 1つの分野に特化してひたすら挑戦を続け、成功してきた理由を日本法人の小池淳義社長に聞いた。

逃げの戦略では勝てな技術革新の連続による実証

小池淳義

小池淳義(こいけ・あつよし)
千葉県出身。早稲田大学大学院理工学研究科修了後、日立製作所に入社。主に半導体部門の技術開発に従事する。2000年にトレセンティテクノロジーズの取締役生産技術本部長として迎えられ、02年同社取締役社長に就任。05年ルネサステクノロジ技師長を経て、06年サンディスク日本法人の代表取締役社長に就任。工学博士。

-- フラッシュメモリーに特化するこだわりはどこにありますか。

小池 創業者のエリ・ハラリに先見の明がありました。彼は当時、「ストレージがどんどん変わって、とんでもない産業になる」と予言したとても珍しい存在でした。カメラでさえもフラッシュメモリーがなかった時代ですから。世の中を変えるなんて思われなかったのですが、彼の信念に沿い、世界を牽引するという気概で技術革新を続けてきました。

-- フラッシュメモリーの魅力はどこにありますか。

小池 利用者にとっては、電源を必要としないことと大量のデータが記録できることです。事業者側としては、微細化することで容量の拡大と生産コスト低減が実現できることがあります。人類にはものごとを記憶したいという欲望があります。それには際限がありません。その欲望を満たすためにデータ記録機器が必要なのですが、コストとのバランスが課題でした。われわれはコスト削減が可能であることを技術革新の連続により実証してきたわけです。

 理想とされる記録媒体の形態は時代とともに変化します。スマホからPC、サーバーまで、われわれのフラッシュメモリー製品を一度使ったらスピードの速さを実感できます。もう以前の機器のゆっくりしたスピードには戻れなくなると思います。しかもコスト的にもバランスしてきたとなると、みなこちらにシフトしていくでしょう。人類の「たくさん記憶したい」という欲望に応えるために技術を開発すれば、全然違う世界をつくれるかもしれない、というのがわれわれのモチベーションです。

-- 特定分野に特化した投資はリスクが伴いますが。

小池 リスク分散のために多方面への投資という考え方もあると思います。しかし、われわれは人類が本当に必要としているものは何で、その解を提供することを第一義として会社を経営しています。投資リスクに躊躇したり、リスク補填を考えたりということは二の次です。世界の進歩のためにどうやって貢献していくかを考えたときに、投資は必要であり、世界の動きにマッチしたものをつくっていくことが大切だと考えます。

-- 総合メーカーがたくさんある事業領域の1部門ととらえるのと、その分野1本でやることは覚悟が違うということですか。

小池 われわれの場合、経営陣から技術者、営業部署まで24時間365日フラッシュメモリーしか考えませんから、ほかに逃げるとか、ほかの分野でコンペンセーション(補填)しようなどということはありえません。逃げの戦略では勝てないと思っています。

サンディスク日本法人社長が考えるものづくり精神で大切なこと

小池淳義-- まだコストダウンの余地はありますか。

小池 あります。フラッシュメモリーのための技術革新はどこまで可能なのか、そのための設備投資で装置1台につき何10億円も掛かるものもあるがペイするのか、といった限界をしばしば指摘されますが、これまでその壁を打ち破ってきた自負があります。次の一手も当然練っています。東芝さんと一緒に進めているのが、3次元のメモリーをつくることです。共同出資した四日市の工場も継続的成長のために、第2棟を建て替えて新しい工場をつくることにしました。新しい状況に向けての投資です。

-- 東芝と共同事業を行う意義はどこにありますか。

小池 四日市の工場では、フラッシュメモリーウェハーの世界シェアの半分近くをつくっています。ユニークな技術開発協力と両社による大規模生産がコスト削減の面から圧倒的なメリットになります。製造したウェハーは最終製品ではなく、それを中国・上海に持って行き、独自のコントローラ設計と技術で加工し最終製品に仕上げますので、東芝さんとは異なる製品ができます。

-- 開発・製造の各段階で外部に発注して製品化する水平分業と、自社で設計から生産までを一貫して行うIDMという業態ではどちらが優位かという議論があります。この点についての考えは。

小池 どちらがいいかという議論自体がナンセンスだと思います。市場が求める最終ゴールに向けて、時代は新しいビジネスモデルを必ず要求してきます。最適な解と最適なビジネスモデルをつくることが一番大事です。どちらがいいかは小さな議論で、枠にとらわれずに新しい方向に向けて新しいモデルを構築することが大切です。

-- システムとは別に、ものづくり精神として大切なことは何ですか。

小池 私個人の意見ですが、日本人は半導体産業に向いていると思います。まじめな性格で、良い物をつくりたいという意欲が強いし、暗黙知といいますか、ノウハウも含めていろいろな技術を共通に持っていて、それを共有して新しいものができる国です。

 技術者らが「この製品は素晴らしい」と信じるには、最終的なユーザーやマーケットをよく認識する必要があります。失敗するケースで多いのは、「半導体はどの分野から投資しようか」などという企業の論理で考えたときです。方向性を見極め、世界にないものを提供するメーカーになるのだという精神が必要です。

-- 総合メーカーのほうがマーケットを見るのには有利かと思いますが、1分野に特化したメーカーが強い理由は何ですか。

小池 総合メーカーが、自分たちの半導体チップを自分たちの製品に生かして良いものをつくるという時代は確かにありました。しかし、今は製品開発にものすごく速いスピードが要求されるので、自社の持っている技術をすべて使おうとするとそれがかえって制約になる可能性があります。

 自社の持つ技術のみを総合して何かをつくろうという発想は危険ということです。ナンバー2は生き残れない時代ですから、特化した分野でナンバーワンになるための戦略を描かなければなりません。

世界を牽引する技術革新を見通す力

-- 今後の方向性は。

小池 当社はメモリーカードのイメージが強いのですが、サンディスク全体の売り上げに占める一般消費者向け製品の売り上げは30%強です。今の主力はSSD(ソリッドステートディスク:大容量フラッシュメモリーで構成しパソコンに内蔵)です。一般向けもありますが、企業によるビッグデータの扱いにもかなり力を入れています。ビッグデータを扱うためにフラッシュメモリーの技術を積極的に使おうということです。われわれにはノウハウがありますし、新しい技術もたくさん生まれています。これからの主力分野です。

-- 技術革新を見通す力が勝因と見えますが。

小池 会社を支えてきたのは社の気風によるところが大きいと思います。絶え間ないイノベーション(技術革新)が必要な会社であり、それを起こさない限り会社は継続できないという文化があります。従来の延長線や改善も大切ですが、一番大事なのは、今までになかったことへのチャレンジです。それについては報酬制度などでも非常に考慮しています。技術者を大事にしなければ火が消えてしまいますから。

 最終的なマーケットや利用者が見えにくい部分の技術(多くの場合、このような技術が製品完成の土台になっている)に関しては、その技術の結果となる製品がもたらす社会的意義を技術者に示すことを重要視しています。そのことによって、モチベーションが喚起されます。

-- ぶれない企業精神が根底になりますね。

小池 技術革新は技術者だけのものではありません。あらゆるところで起こる可能性があります。それは、技術関係の業務ばかりではなく、それをサポートする事務や営業関係の業務でも同じことです。当たり前と思っていた作業の変革にチャレンジして部署の様子ががらりと変わることがあります。枠にとらわれずにいいと思ったらどんどんやろうということです。テクノロジーの会社なので、それは当然のことでもあります。

 これからも、世界の市場はさまざまな新しい技術を要求してきます。それに応えていくことがわれわれの社会的な責務だと思っています。

(聞き手=本誌編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

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