マネジメント

 越智直正・タビオ会長プロフィール

越智直正(タビオ会長)

越智直正(おち・なおまさ)1939年、愛媛県周桑郡周布村(現西条市)生まれ。55年、修誠中学卒業。大阪の靴下問屋「キング靴下鈴鹿商店」に丁稚として入社。68年、同社を退社し、総合靴下卸売業「ダンソックス」を創業。84年、「靴下屋」1号店開店。2006年、商号をタビオ株式会社に変更。08年、代表取締役会長に就任。

 

メード・イン・ジャパン〟の靴下にこだわる越智直正会長

 

「靴下の神様」の異名をとるポテンシャル

 景気低迷を背景に価格競争に翻弄され厳しい状況を余儀なくされてきたアパレル業界。この潮流は、国産にこだわりを見せてきた良心的なメーカーにも多大な影響を与え、生産拠点を東南アジアへシフトする傾向はいまだに強い。

 そんな状況の中にあって〝メード・イン・ジャパン〟をかたくなに守り続けているのが理想の靴下を追い続けるタビオである。

 同社の目指す靴下は「熟練の技と繊細な感性を併せ持った熟練工のみ可能である」という信念から、多くが生産拠点を海外にシフトするという状況を尻目に、ひたすら国内産にこだわってきた。

 その真摯な姿勢は、廉価品が氾濫する靴下というカテゴリーの中で、割高感はありながらも多くの顧客から支持されることとなり、今や同社の展開する「靴下屋」は集客力のある商業施設から出店要請が絶えない状況を作り出している。

 「踵には体重の1・8倍もの圧力がかかるのです。そういう意味で、靴下は健康という側面からも重要性が高いのです。弊社の製品を高いと考える人もいるでしょうが、われわれは、高品質の商品を適正な価格で販売しているという自負があります。一度、履いてみればその差は分かっていただけると確信しています」

 と〝靴下の神様〟の異名を持つ同社の越智直正会長は自社製品のポテンシャルに胸を張る。

良い靴下は「噛んで見分ける」

 靴下の品質にこだわる同氏が靴下に携わることとなったのは、何と今から約60年前の15歳の頃。当時は丁稚奉公で、休みは1カ月にわずか半日という過酷な労働環境に置かれていたという。

 「当時の上司は軍隊出身ばかりで、鉄拳制裁は当たり前、少しでも商品に齟齬をきたせば大変な目に合うのです(笑)。そういう状況の中では必然的に商品に対する厳しい目が養えたと思いますね」(越智氏)

 今では越智氏の〝名物〟となった靴下を噛んで品質の良し悪しを確認するという作業もそんな状況から生まれたものだ。

 「良い靴下は軽く噛んだ限界点から歯を押し上げてくれるのです」と越智氏は嬉しそうに述べるが、常人が決して及ぶことができない品質の見分け方でもある。

 しかし、そんな越智氏も価格競争という厳しい市況の中で中国に合弁工場を設け、その活用を試みた過去がある。3足1千円という価格設定ではあったが、そこは越智氏の信念、競合の廉価品には劣らない製品を販売した。しかし、出来上がりに越智氏は決して納得することができなかったという。

 「中国だけに限りませんが、海外には〝微妙〟という言葉がありません。熟練した職人は靴下を製造する過程で、その都度、微調整を繰り返しているのです。高品質の糸と職人の技が一体にならなければ、お客さまを本当に納得させる商品は決してできません」(同)

 

タビオの「品質最優先」をどう実現し、受け継いでいくか

 

中国生産を早々に切り上げた理由

靴下屋外観 中国では、工場の都合で勝手に品質を落とそうとするなど、タビオの品質最優先という考えが受け入れられることはなかった。

 我慢に我慢を重ねてきた越智氏もさすがに匙を投げ、数年前には合弁工場も閉じられた。現在取り扱っている中国製品は、3足1千円の一部にすぎない。

 現在の同社製品は、高品質を担保するものとして認識されている。苦い経験とはいえ、早い段階で身を持って中国生産の限界を実感したことで、品質の重要性を再認識したのが勝因だ。

 越智氏は中国での見聞も踏まえた上で、次のように述べる。

 「製品を買っていただけるのは大事なお客さまあってのこと。今は金儲けのために、品質を落として廉価で大量販売すればいいという考えを持った人々が多過ぎる。日本の商売の根底でもある高品質商品を適正価格で販売するという〝大和魂〟を忘れてしまっている気がする」

 越智氏の製品に対する強い信念は、関連会社の「タビオ奈良」に、靴下業界でも最高水準の品質検査設備を擁していることからもうかがい知ることができる。品質テストはもちろん商品研究やカスタマーサービスによるオーダー商品の生産など、最高の靴下を顧客に提供する意気込みにあふれている。

信念を受け継ぐ人材育成に意欲

靴下屋店内 この同社の確固たる信念を受け継ぐのに必須なのは言うまでもなく次代を担う人材だ。

 「最近の若い人は確かに頭の良い人が多い。しかし、昔の人が当たり前に持っている常識が通用しないことも多い。職人の技術は教えられても、それ以前に常識がなければ技の伝承はできません。学業の成績は不良でも常識を持ち頭脳明晰、志を持った人を受け入れていきたい」と述べる越智氏は、自らの信念を踏襲する後継者の育成に並々ならぬ意欲を持つ。

 同社は国内のみならず、今やロンドン、パリといった名だたるブランドが群雄割拠する市場に参入している。

 「〝メード・イン・ジャパン〟靴下の品質の高さを世界で認識してもらいたい」と越智氏の挑戦は続く。

(文=本誌・大和賢治)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

未来のモビリティ社会実現に向け日本と欧州の懸け橋に―シェフラージャパン

自動車産業・産業機械の世界的サプライヤー、シェフラーグループの日本法人で2006年イナベアリングとエフ・エー・ジー・ジャパンが合併して設立。国内4拠点で自動車エンジン、トランスミッション、シャーシなど精密部品、産業機械事業を展開する。文=榎本正義四元伸三・シェフラージャパン代表取締役・マネージング…

シェフラージャパン代表取締役 マネージング・ディレクター 四元伸三氏

日本一歴史の長い女性用化粧品会社が挑む「革新と独創」―伊勢半

【特集】2019年注目企業30

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年5月号
[特集]
進化するチーム

  • ・総論 姿を変える日本の組織 個人とチームが互いに磨き合う時代へ
  • ・小笹芳央(リンクアンドモチベーション会長)
  • ・稲垣裕介(ユーザベース社長)
  • ・山田 理(サイボウズ副社長)
  • ・鈴木 良(オズビジョン社長)

[Special Interview]

 南場智子(ディー・エヌ・エー会長)

 「社会変革の今こそ、組織を開き、挑戦を加速する」

[NEWS REPORT]

◆社長になれなかった松下家3代目がパナソニック取締役を去る日

◆DeNAとSOMPOが提案する新たなクルマの使い方

◆ここまできたがん治療 日の丸製薬かく戦えり

◆ブレグジット目前!自動車各社は英国とどう向き合うか

[特集2]九州から未来へ

 九州一丸の取り組みで生まれる新しい産業

ページ上部へ戻る