マネジメント

 日産自動車の幹部役員の流出が止まらない。これまでカルロス・ゴーン社長を筆頭に、グローバルに人材を登用してきたが、ここに来て日産の人材が世界の自動車メーカーから引き抜かれる事態に見舞われている。果たして何が起きているのか。

日産幹部の流出理由① 長期政権が仇に

 日産自動車の幹部が、相次ぎ競合に引き抜かれている。欧米企業では他社への移籍は珍しくないため、「日産が欧米企業になった証拠」との声も挙がるが、ここ2カ月あまりで2人もの幹部が流出したことは極めて異例だ。ゴーン社長のワンマンぶりに嫌気がさしたとの報道も目立つが、実は日産が地理的な問題から、そもそもヘッドハンティングされやすい会社という特殊事情もあるようだ。

 「流出報道ばかりが先行するが、日産自体が海外からいわゆるプロの経営者をヘッドハンティングで集めてきている会社だということ」

 日産幹部のひとりは、こう解説する。

カルロス・ゴーン

カルロス・ゴーン・日産自動車社長

 9月15日付で退任し、英高級車メーカー、アストン・マーチンの最高経営責任者(CEO)へ転身するアンディ・パーマー副社長は、1986年に英オースチン・ローバーに入社し、91年に日産がヘッドハンティングで連れてきた人材。高級車部門「インフィニティ」のトップを務め、今年8月から米ゼネラルモーターズ(GM)の高級車「キャデラック」の責任者に就任したヨハン・ダネイシン氏も、独アウディからの転身者だ。

 いずれも、他社からの転身組で、「クルマへの情熱は相当なものだが、日産ブランドに対する思い入れは薄い」(関係者)。いわば「金銭」と「仕事のやりがい」がなければ、いつでも他社に移る人材。前述の日産幹部は、この2人をいわば「日本のプロ野球でいえば助っ人外国人のようなものだ」と解説する。

 日産の資本提携先である仏ルノーが、4月の株主総会でゴーンCEOの取締役再任を決めたことなどで、日産トップも17年3月期まで続けることがほぼ内定。今回、「このままいてもエース(社長)になれないと、見切りを付けたのだろう」との見方を、関係者は示す。

 特に、パーマー氏は日産に転籍後、経営再建策「日産リバイバルプラン」の後にゴーン氏に引き上げられて出世街道を歩んできただけに、次期社長候補のひとりにも名を連ねてきた。「実力がある経営者ほどナンバー2には満足できない」(アナリスト)ために、「カリスマ」の長期政権が逆に人材流出を招いていると見る向きもある。

日産幹部の流出理由② 家族の思い

 一方で、「極東の日本メーカーだからこそ、ヘッドハンティングの対象になりやすい」(証券アナリスト)という見方もある。

 日産は日本で最も経営陣のグローバル化が進んだ企業の1つ。ルノー出身者だけでなく他社から引き抜いてきた幹部も多く、上位100の役職のうち48%が外国人と、外国人幹部にとっては、仕事がしやすい環境が整う。

 ただ、言葉の壁や生活習慣の違いから、本人や家族が感じるストレスは小さくないという。しかも、欧米のはるか遠くに位置している日本に長年いては、いくら経営陣の外国人比率が高いとはいえ、孤独感を感じやすい。「経営判断が誤りとマスコミから批判されればなおさらだ」(日産幹部)。

 2〜3年ならまだしも、「住み慣れた欧米に帰りたいというのは自然の流れ」と話す。

 パーマー氏については、「子どもにも日本のインターナショナルスクールではなく故国の学校で教育を受けさせたいという家族からの要求が、実は移籍の大きな理由になったのではないか」(日産幹部)とする声もある。また、ダネイシン氏については、自身は南アフリカ出身だが、妻はデトロイト出身。「今回、妻の強い要望でGMの地元でもあるデトロイトへの移籍を希望していた」というのだ。

 こうした事実は、ライバルメーカーにとっては、引き抜く上での大きな利点となる。

 特に英国出身のパーマー氏にとっては、家族の問題を解決できる上、51歳にしてアストン・マーチンという英国を代表する製造業のトップ就任というのは、箔が付くオファーであり、魅了されたことは想像に難くない。日産社内では、「次は誰がいなくなるのか……」と不安視する声も少なくないようだ。

 経営層のグローバル化は、世界の自動車メーカーの課題となっており、今後も、日産で力を付けた幹部が欧米メーカーに流出する恐れは十分ある。欧米メーカーの「人材の草刈り場」となり続ける可能性は否めない。

 ゴーン社長は、今年6月の株主総会で、自身の年俸9億9500万円(14年3月期)が高いとの指摘を株主から受けた際、「欧米に比べてまだまだ低い。引き抜かれる事態にも遭っている。これは役員報酬が低いためだ」と反論。幹部に高い報酬を約束することこそが人材確保につながると強調した。「極東の地の自動車メーカーだからこそ、報酬でつなぎ止めないと、人材が流出するとの考え方はある意味正論」と理解を示す国内のライバルメーカーの幹部もいる。

 とはいえ、業績が伸び悩む中、幹部の報酬を上積みすることは、日本企業の論理とはズレている。日産幹部は「報酬だけでなく、幹部のモチベーションを維持する対策も今後考えなければならない」と話す。いずれにしても、ゴーン氏の後継者を育てることこそが、日産の最大の課題と言えそうだ。

(文=ジャーナリスト/岡部太一)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る