政治・経済

 ルネサス エレクトロニクスが業績回復を受ける形で、対外的な情報発信を強めている。構造改革完遂後に成長戦略に舵を切るための布石と言える。しかし成長戦略に移行するには、もう一段の構造改革が不可欠であり、ルネサスが置かれている状況は依然厳しいままだ。

構造改革の成果でルネサスの業績は回復

 経営再建中のルネサス エレクトロニクスだが、表向き業績は着実に改善している。順調な回復を示した2013年度に続き、14年度第1四半期では営業損益が6四半期連続で黒字を確保し、純損益も黒字転換した。第2四半期も黒字の見通しだ。

 こうした好業績は構造改革の効果が表れたものだが、ルネサスでは構造改革を15年度までにやりきり、16年度からは成長戦略へと舵を切る方針。ここに来て、成長戦略をにらんだ布石を打ち始めている。

作田久男

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長

 その1つとして、9月上旬に東京で半導体ユーザー向けのプライベート展「RenesasDevCon Japan 2014」(DevCon)を開催した。作田久男会長をはじめ経営幹部が基調講演を行ったほか、ワークショップや技術セミナーを開催し、ルネサスの最新ソリューションを提案した。

 こうした半導体ユーザー向けのイベントは、外資系半導体メーカーでは一般的で、半導体大手の米インテルや、ルネサスの競合にあたる米フリースケール・セミコンダクターは毎年日本でも開催している。ルネサスも米国では米国法人が2年おきに開催していたが、日本での開催は初めてとなる。

 今回のDevConでは、「一歩先の世界」をテーマに掲げた。人員削減や拠点閉鎖などの大胆な構造改革で、ともすると縮小均衡に陥りそうなイメージが生じているルネサスだが、成長に向けて動き出すことをユーザーにアピールした格好だ。こうした対外的な情報発信を行うことからも、ルネサスの変化がうかがえる。

 また、産業用イーサーネット対応機器の開発支援に向けたコンソーシアム「R-IN(アールイン)コンソーシアム」を設立する。ルネサスは、産業分野向け通信LSI事業を手掛けているが、IoTやM2Mでの展開を見据え、コンソーシアムを通じて、産業イーサネット通信機能を搭載する産業機器の開発支援をグローバルで行う。コンソーシアムの具体的な活動は、15年4月からだが、14年9月よりソフトウエアや開発環境、システムインテグレーション等を提供するパートナー企業を募集。既に三菱電機エンジニアリングや横河ディジタルコンピュータ、図研エルミックなど、17社が参加を表明している。

 作田会長は新規事業展開の鍵を「エコシステム」としており、パートナー企業のリソースを活用しながらビジネスを拡大・発展させる意向を示している。今回のコンソーシアムはそうした姿勢を表すものと言える。

ルネサスの完全復活にはもう一段の構造改革が必要

 成長戦略の布石を示しつつあるルネサスだが、目下の課題は構造改革の完遂にある。作田会長は、現在の決算内容を「実力ではない」と言い切る。実力での黒字基調の定着には一段の構造改革が不可欠と考えている。

 特に昨年から今年にかけての業績改善は、構造改革による固定費の削減に加え、為替や、EOL(販売終了製品)の作り貯めによる利益の押し上げ効果が大きい。この作り貯めの効果は今年末もしくは今年度末にピークが来ると見ている。このため、「来期の利益が一番厳しい」(作田会長)という。

 さらに構造改革の一環として、選択と集中をさらに進め、自動車、産業・家電、OA・ICT分野に注力していくが、その一方でそれ以外の非注力領域を整理する方針を掲げている。既に中小型ディスプレー表示ドライバ事業を手掛けるルネサスエスピードライバを米シノプシスに譲渡することが決まっている。こうした非注力領域は現在のルネサスの売り上げの25%を占める。

 これらの事業から撤退すれば、その分の売り上げも落ちる。それを覚悟の上で、成長の基盤となる安定した収益構造を構築するために構造改革を推進するという。

 構造改革については、8月に5回目となる早期退職優遇制度を実施した。応じた社員は361人。ルネサスの今年3月末時点での従業員数は2万7200人だが、作田会長は今年5月の時点で人員にまだ25%の余剰感があると語っており、今回の早期退職優遇制度の結果はルネサスが目指すところからすると足りない。また、今後の非注力領域からの撤退による売り上げ減を見越すと、まだまだ人員に余剰感があると言える。

 とはいえ、早期退職優遇制度を実施したばかりで、しかもその目論みが外れたとなると、固定費削減で考えられる方策は賃金カットになる。実際にルネサスは10月より平均で10%の賃金削減を実施する。基本月収を全員一律で下げるほか、家族手当などの停止、さらに人事処遇制度の改定で大多数の従業員の職位を低位に降格し能力給も下げる。こうなると、従業員の士気にも影響してくるだろう。

 ルネサスは今回の賃金カットだけでなく、さらに今後も何らかのリストラが不可欠な状況にある。作田会長は「構造改革のめどはついたとは言えないが、何とか道筋は示した。あとはそれをやりきれるか」と決意を語っている。しかし、現在のルネサスの内情を考えると、構造改革を完遂できるか、また完遂しても想定どおりの効果があるか懸念が生じている。

(文=本誌/村田晋一郎)

 

【ルネサス】関連記事一覧はこちら

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る