政治・経済

党役員人事における安倍首相の意図

 「安倍さんは、1年8カ月やってきた政策を変えることはない。だから主要閣僚や官邸スタッフを留任させた。今回の人事は明らかに長期政権へ向けての体制づくり。そこでは解散カードを切る可能性も出てくる。その解散総選挙を仕切る幹事長を誰にするかが最大のヤマだった」

 9月3日に行われた安倍晋三首相の改造内閣と党役員人事。その狙いを側近のひとりはそう話す。今回、「長期政権への足場固め」、「来年秋の総裁選で再選するための体制」、そして「徹底したリベラル派の封じ込め」が主眼だった。

 「秋には福島・沖縄両県知事選挙、12月には消費税10%の決断。そして年が明けて4月には統一地方選挙、集団的自衛権行使に関する法案審議も始まる。これらのどれもが、結果次第では政権運営に打撃を与える可能性がある。もし支持率が下がって政権運営が行き詰まったり、挙げ句に党内で安倍おろしなどの動きが出るなどした場合には、ついに解散カードを切る可能性も出てくる」(同側近)

 安倍首相にとっては、いつどんな時でも目配せすれば「よし分かった」と総選挙へ準備してくれる、そんな自分の言うことを聞いてくれる幹事長をパートナーにしておく必要がある。ならば、ライバルでケミストリーの合わない石破茂氏を幹事長にしておくはずはない。

 こうした中で、安倍首相が狙いを定めたのが元総裁だった谷垣禎一前法相。谷垣氏は野党時代の総裁で政権奪還に尽力したが首相を逃した。

イラスト/のり

イラスト/のり

 谷垣氏はリベラル派閥の宏池会の流れを汲み安倍首相のタカ派路線とは一線を画す。さらに自らが三党合意でレールを敷いた消費税10%には強いこだわりがあり、今年12月に10%の決断をするかどうか考えている安倍首相と行き違う可能性もある。一見そりは合わない。

 ところが、意外にもそうしたことを全部踏まえた上で、安倍首相は、なんと「谷垣氏は協力的」と判断したというのだ。その理由を首相の出身派閥の町村派ベテランが言う。

 「谷垣さんは、去年暮れ辺りから、ポスト安倍を意識するようになったという。きっかけは、谷垣さんの側近議員らが財務省の官僚らと話した時に『安倍首相の後は安定感のあるベテランが(首相を)つなぐのがいい。もし安倍さんの体調が悪くなったり何かあった場合も同じ。谷垣さんは適任』という話題になったそうだ。谷垣さんに話したところ意欲を持ち始めたという」

 だとするならば、首相を自然に引き継ぐためには今安倍首相に協力的で支えていく姿勢を見せるだろうというのだ。

 「それに幹事長に据えれば、立場上リベラルな発言などは控えざるを得なくなる。組織人として振る舞う谷垣さんはなおさら発言しないだろう。それに、党内のリベラル勢力も、党のトップにリベラルの谷垣さんがいて、『分かった。もうそこまでにしよう』とまとめてしまえばそれ以上何も言えなくなる。党内のリベラル派も抑えてくれる」

 つまり「谷垣幹事長」は、安倍首相を選挙ではしっかり支え、自らはリベラル派としての発言を封じ、党内も黙らせる、「いわば〝一石三鳥〟と言っていい」(前出ベテラン)存在なのだ。

安倍首相の強さは「人事の妙」にあり

 安倍首相の人事は〝したたか〟の一言に尽きるが、言い方を変えれば「人事というカードを知り尽くしている」(自民党ベテラン議員)ということでもあり、「権力闘争にもこの人事権を使って絶対的強さを見せている」(首相側近のひとり)ということになる。

 それまでの内閣でもそうだった。ライバルの石破茂氏を幹事長という座敷牢に閉じ込めた。幹事長職は、本来自民党ナンバー2の要職だが、何でも官邸主導で決めて党の力が発揮できないという「政高党低」の中で、幹事長は無力だったのだ。

 今回は、リベラルのベテランで、中国や韓国とも関係の深い二階俊博氏を総務会長に据えているが、これもまた、「安倍さんはけん制し封じ込める狙いもあるのではないか」と首相周辺は解説する。

 「総務会長は最高意思決定機関のトップですが、『トップらしく、私情は口にせず、最後は挙党一致でまとめ上げて政権に協力してくれますよね、二階さん』ということを突き付けているんだと思います。ただ二階さんは人脈もあり策士ですからそのまま抑え込まれたままでいるかどうか、リスクはありますね」

 ライバルを封じ、今度はリベラルやベテランを封じ、そして、総裁選再選へ向けて配置した安倍人事。しかし、入閣ゼロの派閥幹部は「自分勝手な人事。来年の総裁選はリベラルで統一候補を必ず出す」と話す。人事の妙は果たして奏功するか。

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