文化・ライフ

北村龍平

北村龍平(きたむら・りゅうへい)
1969年生まれ。大阪府出身。17歳で渡豪。2001年製作の「VERSUS」で映画監督として注目を浴び、以後、「あずみ」「ゴジラFINAL WARS」「アライヴ」など話題作を手掛ける。2000年代半ばからハリウッドに進出。エンターテインメント性の高い作品づくりで高評価を得る。

 8月30日に全国東宝系で公開された話題の映画「ルパン三世」。国民的アニメの実写版ということで、公開前は不安視する声もあったが、原作者のモンキー・パンチ氏が絶賛するほど質の高い娯楽作品に仕上がっている。

 監督としてメガホンをとった北村龍平氏は、かなり異色なキャリアの持ち主だ。高校2年生の時、映画監督になることを決心し、授業中に退学届けを書いて提出。オーストラリアの映画学校に通った後、自主制作で映画を撮り始める。2001年公開の「VERSUS」で注目を浴び、さらに「あずみ」(03年)「ゴジラ FINAL WARS」(04年)などのメジャー作品も手掛けるようになった。

 日本で実績を積み、知名度も高まったが、それらをかなぐり捨てて、かねてから進出を目指していたハリウッドに移住。日本とは全く違う映画ビジネスの世界で揉まれながら実力でのし上がり、進出第1作目の「ミッドナイト・ミート・トレイン」が高い評価を受けた。以降も、〝エッジの効いた〟作品を次々と世に送り出している。

 徒手空拳で道を切り拓いてきた北村氏が、日本、そして本場ハリウッドで見てきたものは何なのか。映画製作や映画産業の在り方について、本音をぶつけてもらった。

北村龍平氏の半生 映画監督に必要な「人間力」を磨く

-- 北村監督の経歴は波乱万丈ですが、映画監督を志したのはいつ頃ですか。

北村 いまだにそうですが、僕は世の中で当たり前だとされていることに、どうしても違和感があります。高校2年生になると周りがみんな受験勉強を始めたんですが、勉強する理由は、いい大学に行くため、いい就職先に行くためであって、人生のテーマやゴールは特になかったりする。やりたいことがあって、それに対して死ぬほど努力するのは当たり前だと思いますが、何となく受験勉強を始めることがどうしても理解できなかった。じゃあ、自分がなりたいものは何かと言えば、映画監督というのが一番現実味があって、なれるんじゃないかと思えたんです。

北村龍平-- オーストラリアでは映画学校に通っていたんですよね。

北村 出来のいい生徒ではなかったので、学校にもほとんど行ってなかったんですが、卒業制作をしないと卒業できないので、追い込まれて1週間不眠不休で「EXIT」という8分くらいの短編を作りました。それで最優秀監督賞を頂いて、僕の作品がデカいスクリーンに映し出されて、会場にいた外国人たちから喝采を受けました。焦って作った作品でしたが、こんなに人を楽しませて喜ばせることができるなら、多分僕は監督にはなれるんだろうと思いました。ただ、映画を作るにはセンスや才能だけではだめで、政治力も必要だし、強引な手腕も繊細な気配りも必要だし、そのためには人間力みたいなものを高めないとダメだろうなと思って、一度日本に帰って3〜4年間いろんなアルバイトをしながら、旅行に行ったり、バンドをやったりしていました。

-- 当時から撮りたいテーマは決めていたのですか。

北村 ハッキリしたものはなかったですが、やはり観客を非日常的なところへ連れて行きたいという思いが根本にはあります。僕の映画はアクションが強調されますが、基本はエンターテインメント性の高いものを作りたい。映画監督は医者や警察官や学校の先生のように、絶対に必要な存在ではないですが、それでもいいものを作って、お金をもらって、褒めてもらおうなんて虫のいいことをするには、自分のすべてを賭けないと失礼だという気持ちがある。僕にとってのエンターテインメントとは、そういうものです。

北村龍平氏は語る 想像以上だったハリウッドの世界

北村龍平-- 娯楽性を重視するという部分で、ハリウッドは特別な存在だったわけですよね。

北村 映画監督になると決めた時から、ハリウッド映画の監督になると言っていましたね。ケチを付ける人もいますが、やはりハリウッドが世界のメーンストリームであることには間違いない。映画監督としてやっていくと決めた以上、野球選手がメジャーリーグを目指すように、ボクサーが世界チャンピオンを目指すように、そこに挑戦したいと自然に思いました。

-- 日本での成功を捨ててハリウッドに行ったわけですが、驚きはありましたか。

北村 想像はしていましたが、やっぱりタフでしたね。

-- どんな部分が。

北村 日本の映画界とは比較にならないほど悪い奴らがいっぱいいます。例えば、「ダイ・ハード」のジョン・マクティアナン監督が、プロデューサーの自宅に盗聴器を仕掛けてFBIに捕まったりしていました。プロデューサーという人種がどれだけ嘘をつくのかはよく知っていますが、日本でそこまでのケースはまずありません。作品を作るにあたって、役者はこの監督でないとやらないとか、スポンサーはこの監督でなければお金を出さないみたいな話がいくつも出てきて、そんな状況の中で確信犯的に嘘を付きながら、話を進めていかなくてはならないことも理解しています。ただ、度を超えて嘘をつく奴もいるから、盗聴器ぐらい仕掛けてやろうと思う人間がいても不思議ではない世界です。ほかにも、タイで影響力を持つハリウッドのプロデューサーが、金銭面でトラブルのあった別のプロデューサーを、タイ政府に働き掛けて現地の刑務所に収監させたりだとか、話のスケールが半端じゃない。こんな連中とやりあわなければいけないのがハリウッドなんです。

北村龍平-- 北村監督自身にトラブルはなかったのですか。

北村 たくさんありますね。例えば、「ミッドナイト・ミート・トレイン」を撮った時は、プロデューサーを納得させるのに苦労しました。

 ハリウッドの良い面は、役者もスタッフも基本はオーディションで決めるところで、日本のように監督が馴染みのスタッフを集めてくるようなことはしない。ハリウッドでは、時にはプロデューサーが監督を選ぶのに直接脚本を何十人にも送り、エントリーしてきた人間でレースが始まります。監督もプロデューサーの前で、キャスティングや画の撮り方や音楽はどうするかといったことに関してプレゼンを行い、いかに良い作品が撮れるかをアピールするんです。

 それで「ミッドナイト〜」の監督に僕が決まったのですが、撮影が始まってもプロデューサーがどんどん口出ししてくる。プロデューサーの大ボスは、オスカーを獲った「ミリオンダラー・ベイビー」などを手掛けたトム・ローゼンバーグという超大物だったのですが、最初は彼に気に入られて、しょっちゅう撮影現場に来るようになりました。ただ、ある時彼がトイレで小用を足していたら、たまたま居合わせた役者の特殊メークが相当気に入らなかったらしく、血相変えて「あの50年代のホラーみたいな安っぽいクリーチャー(怪物)は何だ!」と僕に怒鳴り込んできた。その映画はラストシーンにクリーチャーが出てこないと成立しないのに、クリーチャーが出ないバージョンも撮れと。事前に納得していたにもかかわらず、そんなムチャクチャなことを言ってくるのです。でも、僕にとってクリーチャーが出ないバージョンなどあり得なかったので、何とか自分自身も納得がいき、プロデューサーの要求にも応えるための案を考え、彼の目の前でそれを全部自分で演じて見せたらOKが出ました。

 彼がそれでも気に入らなければ、僕をクビにして別の監督で撮り直すにすぎません。そういうことがハリウッドではいつも起きているんです。映画という商品を作って世に出すためなら、何でもやるところはある意味すごいと思います。

切磋琢磨してこそ良い映画が作れると語る北村龍平氏

-- 日本の映画作りとはかなり違うようですね。

北村 ハリウッドでは、金を出す人間が絶対的な権力を持っています。金を出さず、脚本を見つけて監督をマッチングさせるだけのプロデューサーの場合はいくらでも替えがききます。作品の完成間近で、ほぼ首になったプロデューサーもいますしね。

-- 日本で主流の製作委員会方式のように、絶対的な存在がいないほうが監督としてはやりやすいのではないですか。

北村 いい面と悪い面がありますね。「ルパン三世」は極めて稀なケースで、プロデューサーの山本又一朗さんは、日本では稀なハリウッド的なプロデューサーです。そのぶん、ハリウッド並みに現場に口出しもしてくるから、そこでの戦いはあります。でも、クリエイティブな面で喧嘩はしても嫌な喧嘩にはならない。資金面もひっくるめて、最後は自分が責任を取るという覚悟を持っている人なので、そこは尊重しています。

 これが一般的な製作委員会方式になると、誰に責任があるのか分からないのでキツイ。映画はプロデューサーと共に作っていくものなので、時に喧嘩することがあっても良いと思っていますが、その相手がいない状況になってしまうんです。自分の好きにやれる良さもありますが、僕は自分の能力をそこまで過信していない。自信を持って行動し、結果も出しているつもりですが、自分が常に正しいとは思っていません。議論を通じて見えてくることもあるし、監督というのは制約があって初めてクリエイティビティーが発揮される仕事でもあります。僕だけの言うことをみんなが聞いて、誰も一切逆らわないとなると、多分つまらない映画になると思います。僕が日本でやったメジャーな作品で一番成功したのは「あずみ」だと思いますが、やはり戦友、恩師のような存在のプロデューサーがいたからこそ、自分のフィールドが広がった気がします。

(聞き手=本誌編集長・吉田 浩 写真=葛西 龍 )

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